191話 唯一の方法
心苦しいが寄生した部分だけ切り落とすか?
どうせ蘇生魔法で再生するだろうし。
……いや、待てよ。
本当にルシフが寄生してるのは俺達が見つけた場所だけなのか?
こいつはガンと同じだ。
完全に取り除かないとだめなんだ。
「ルシフを取り除くいい方法はないのか?」
「うむ、寄生している部分だけ切り落とせればいいのだが、今まで見落としていた私には自信がないな」
ほう。葉山先生も弱気になるんだな。
「……静がいればルシフの寄生場所を全て見つけることができたかもしれないけど……」
静……大和静だったか。
ムーンシーカーの能力かは知らないがルシフのコアの位置を探す事が出来たよな。
コアが見つけられるくらい感知能力が高いんだ。確かに可能かも知れない。
……まあ、出来たとしてもこの場にいないんだから意味ないけどな。
四季もルシフを感知できたような気がしたが、こっちも今ここにいないんだから意味ないな。
「何かいい考えは浮かばないのか?」
「何も思い浮かばない。てか、こっちの世界の人間の俺に考えさせるのは無理があるんじゃねえか?」
「何でもいいんデス。チトセの得意なセコイ手でも汚い手でも何でもいいんデスよ!」
「マジでお前ムカつくな。こういう時こそ、お前のデータの出番だろう!」
「情報が不足しています。ここでは組織のデータベースと接続できませんし」
「下らんオタク系データしかダウンロードしてないからこういう時困るんだ!」
「失礼デス!アレは必要なデータデス!」
「どう必要なんだ?!」
シエスは納得出来る答えを出せなかった。
って、当たり前だ!
にゃん魔王が小さな尻尾を振りながら俺を見上げる。
「さあさあ、どうするどうする?」
「どうするどうする?」
にゃん魔王に続いてソラまでも急かしてくる。
こいつら、人が苦しんでるのを見て楽しんでやがる。
突然、ミズキが「あ!」と声を上げた。
「どうした?」
「あ、うん、なんかどっかで聞いたことある話だなあって思ってたんだけど、今思い出したよ。以前、僕の一族の誰かが似たような話をしてたんだ」
「本当?!」
「うん。その時は魔法を使ったんだよ。無茶苦茶危険な魔法なんだけど」
「魔法?スラ族が魔法?」
「違う違う。一緒に旅してた魔法使いが使ったんだ」
「どんな魔法なの?」
「危険てなんだ?」
「名前は覚えてない、てか聞いてないかな。確か、一度肉体を炎で燃やして浄化するんだ。で、再生させるんだってさ」
「……」
「それ、大丈夫なのか?」
「だから危険だって言ったんだ。失敗したら助けるつもりが殺す事になるからね」
魔王を睨む。
「そんな魔法があるのか?」
「ある」
「何故言わなかった?」
「何故?簡単だ。無駄、だからだ」
「何が無駄なんだ?」
「その魔法は“フェニクス・ファーヴ”。正にルシフを取り除くために生まれた魔法と言っていいだろう。だが」
「だが、なんだ?」
「この魔法は生者に対して有効なのだ。死者に使っても灰になるだけだ。無駄だ」
「つまり、アヴリルを助けるにはルシフに寄生された状態で蘇らせてからその魔法を使う必要があると言うことか?」
「そういうことだ。俺は一つしか願いを叶えないからな。それに仮に使ったとしても必ず成功するわけじゃない」
「体を焼かれるんだ。その苦痛に耐えられないか」
「それは違う」
「何?」
「そこのスラ族が言ったように一度炎で焼き尽くすのは事実だ。だが痛みは全くない。それどころか全てのしがらみから解放されて安らぎすら感じる」
「なんだ、じゃあ安心……」
「だから生へ執着が、現世への強い思いがなければ炎に焼かれるにまかせて灰となる」
「つまりその魔法、フェニクス・ファーヴの成否はその者の意思によって決まるって事か」
「そういう事だ。だが、失敗してもメリットはあるぞ」
「どんなだよ?」
「ルシフに食われれば魂は消滅するが、この魔法を使えば失敗しても魂の消滅は免れる。いつかまた巡り会えるかも知れんぞ」
そんな先の事など誰も期待してないだろう。
だが、これでアヴリルを助ける方法が一つ見つかった。
というか、答えは最初からこれしかなかったんじゃないか?
「キリンさん、新しい魔法を作ってもらおう」
「それって、」
「そうだ。フェニクス・ファーヴが生者にしか効かないなら死者にも効果がある魔法を。どうだ、魔王?」
「……」
うわー、すげー嫌そうな顔、してるんだろうがその体はにゃん太郎(仮)なのでかわいい。
「魔王様、皆殺しにしましょう!」
「今の話の流れからなんでそんな結論出た?!」
「私は話の流れなど読まない!」
言い切ったよ、こいつ。
全く、ソラには困ったもんだぜ。
しばらくの沈黙の後、魔王は口を開いた。
「まあ、いいだろう。今ある魔法にちょっと修正を加えるだけだしな。使うのも俺じゃないし」
「本当ですか!」
キリンの問いに大きく頷く魔王。
いやいや、“ちょっと”って魔王は言ったけどよ、死者を蘇らせる効果がちょっとか?
やっぱ、魔王の奴、難易度の問題じゃなくて自分がやりたいか、やりたくないかだけで決めてるな!
「だが、一つ問題があるぞ」
「問題?」
「誰がその魔法を覚えるのだ?」
「そりゃ、キリンさんだろ?」
俺の言葉に大きく頷くキリン。
だが、
「それは無理だ」
「え?」
「何故?」
「これから創造する魔法の呪文の長さは膨大だ。大きな記憶領域を必要とする。お前達の中でこの魔法を覚えることができるのはお前だけだ。千歳」
「へ?!」
「お前は魔法使いになったばかりで、覚えた魔法も少ない。記憶領域も十分ある」
「いや、ちょっと待て!俺は魔法を覚えて記憶の一部が消えたんだぞ!ただでさえ危険なのにそんなでかい魔法覚えたらどうなるんだよっ!」
「恐らくこれ以上魔法を覚える事は出来なくなるだろうな」
「記憶は?!記憶はどうなんだよっ?!また失ったりするんじゃねえのかっ?!」
「それはやってみないとわからん」
「書き込む領域の調整とか出来るんじゃないのかっ?!」
「何故俺がそこまでしてやらねばならない?それに運任せの方が面白いだろ?」
「面白くねえよっ!」
キリンが近づきまっすく俺を見つめる。
「千歳、お願い!私に出来る事なら何でもするから!」
「キリン、チトセにそんな事言ったら身の……」
「お前はうるせえよ!」
あーっ!くそー!
俺はどうすりゃいいんだっ!
……って言っても答えは出てんだよな。




