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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
運命の迷宮編
201/247

187話 千歳VS魔王

 シエスと四号機がやって来た。


「何の話をしていたのデス?」

「お前には関係ねえよ」

「ああ、この状況を嘆いていたのデスね」

「まあそんなところだ」

「やはりデスか。ボクを含め周りが美人揃いにも拘らずチトセに好意を持っているのがミズキたった一人。これが漫画やアニメなら間違いなくハーレムになっているのに!という事デスか」

「うむ、大体合ってるな」

「合ってねえよ!そんな話全然してねえだろ!」


 大体、見た目じゃわからないが、少なくとも葉山先生と楓さんは俺とふた回りくらい違うはずだ!

 アヴリルはわからんが、キリンさんは葉山先生らとの関係を見てると同年代だと思う。

 別に年上が嫌いって訳じゃないが限度ってもんがあるだろ!

 ……あ、それ以前に俺は新田さん一筋だ!

 ホントだぞ!



 肩で息をしているキリンさん達。

 魔法やラグナを使い果たしたように見える。

 その顔には皆肉球の跡がついている。

 それに対してにゃん魔王は元気いっぱいだ。まだまだ遊び足りないって顔をしている。

 その無邪気な顔が俺に向けられる。


「お前はいつまで傍観者でいるつもりだ?」


 正直言ってキリンさん達が束になっても勝てない相手に俺が勝てるはずがない。

 だからと言って指名されて無視というわけにもいかないよな。


「わかったよ。ところで魔王」

「なんだ?」

「なんでいつもと口調が違うんだ?前まで”僕”だっただろ?」

「それはボクとキャラ被りしないためデス!」

「そんなわけ……」

「それもある」

「あるのかよっ!?」

「冗談だ」

「そうなんデスか?」

「何悲しそうな顔してんだ。そんなの当たり前だろうが」

「ははは」

「で、本当はなんだ?」

「ラスボスが”僕”口調じゃ迫力に欠けるだろ?」


 ……満面の笑みで言い切りやがったよ。


 思わずため息がでた。


「お前、その姿で……」


 瞬間、ソラからものすごい殺気を感じた。


「なんだ?」

「……いや、なんでもねえ」


 言葉遣いを変えても姿が子猫じゃカッコつかねえよ、なんて言ったらソラに確実に殺される。


「じゃあ、俺も参加させてもらうぜ。あ、その間、キリンさん達は休んでてくれ」

「一人で大丈夫?」

「何か作戦でもあるのか?」

「まあな。っていうかこれから交渉なんだけどな」

「交渉、だと?」


 にゃん魔王が不敵な笑みを浮かべた。

 つもりなんだろうがすごく可愛い。

 ガブリエルはすっげームカつく笑みを浮かべるが、コイツは無邪気な笑顔だ。


「魔王、お前は俺達を殺したいわけじゃないんだろ?楽しければそれでいいんだろ?」


 キリンさん達との戦いを見てそう確信した。


「ああ、そうだ」

「じゃあ、鬼ごっこしないか?」

「鬼ごっこ?……ああ、以前ルシフと融合した女とやった遊びか?」

「そうだ。ただし今回は俺が鬼だ。お前を捕まえたら俺の勝ちでどうだ?」

「……」

「正直言って俺は弱い。それににゃん太郎、仲間に攻撃なんか出来ねえ」


 相手がシエスだったら腕と足を最低二本ずつへし折ってやるんだがな。

 って全部か。へへっ。


「……まあいいだろう。こいつらがこの程度だからな。お前と普通に戦っても面白くないか」


 にゃん魔王の言葉を聞いて怒りを露わにするキリンさん達だが反論はない。

 いや、できない。


「だが千歳、鬼ごっこはお前限定の特別ルールだ」

「わかった」


 よしっ!この勝負勝ったぜ!


「その笑み、何か作戦があるみたいだな」

「ああ。すぐに終わらせてやるぜ!ーーアディ・ラス!」


 俺に危険がないとわかったからか、にゃっくが俺の肩から飛び降りる。

 俺はにゃん魔王に向かって走り出す。

 にゃん魔王はその場を動かない。

 手の届く範囲まで近づき、にゃん魔王に手を伸ばす。

 アディ・ラスで強化された高速の動きだ。にゃん太郎なら避けられるはずはない。

 だが、にゃん魔王は寸前でふっと俺の手をかわした。


 もちろんこれで捕まえられるなんて最初から思ってねえ。本番はここからだ!


「行け!ケロロ!」


 右腕に巻いたケロロが俺の命令に従いにゃん魔王に向かう。


 余裕かまして最小限の動きしかしなかったのがお前の敗因だぜ!この距離じゃ流石に逃げられねえだろ!


 にゃん魔王が満面の笑みを浮かべる。


「……ケロロ返し!」


 にゃん魔王がそう叫んだ瞬間、ケロロの動きが止まる。

 そして再び動き出した時、ケロロは俺に向かって来た。


「なっ?……と、止まれ!ケロロ!」


 だがケロロは俺の言う事を聞かず、あっと言う間にグルグ巻きにされる。

 床に転がる俺ににゃん魔王がゆっくりと近づいて来る。


「考えが甘かったな。お前の行動などお見通しだ」

「くそっ!何故だ?!なんで俺の言う事を聞かない⁈」

「教えてやろう。ケロロは俺の支配下にあるんだよ」

「何?支配下?」

「ケロロはな、“アレキサン”の手によって“マグ”と化してたんだ」

「アレキサン?マグ?……!!」


 そう言葉に出した瞬間、情報が流れ込み理解した。

 アレキサンとは魔王の赤き翼から生まれた眷属。赤翼王の事だ。

 その赤翼王が作った強力な力を秘めた道具の総称がマグだ。


 確かアレキサンはマグを百八つ作ったはずだ。

 ならケロロは百九番目のマグなのか?

 って、そんな事よりケロロは赤翼王によってマグにされていたのか!

 それで声に反応するようになってたのか。

 組織の技術者の誰かが勝手に追加した機能じゃなかったのか!


 赤翼王は一体いつそんなことを……って、だから今はそんな事気にしてる場合じゃない!



「千歳の言う通りすぐに終わったな」


 にゃん魔王はかわいい笑顔で俺を見下ろしながら俺の頬に肉球を押し付けぐりぐりする。


「お前にもにくきゅうマークをくれてやるぞ」

「くっそー!」


 にゃん魔王を捕まえる絶好のチャンスだが、俺を縛りつけるケロロを振り解く事ができない。

 アディ・ラスを腕に集中しているにも拘わらずだ。



 くそっ、あまりにカッコ悪すぎだろ、俺!

 何か、何か手はないのか!……手……腕、そうだ!右腕!

 俺の右腕には黒竜がいるじゃねえか!

 ここで使わず、いつ使う!?


「おいっ!黒竜!出番だぞ!」


 返事はない。

 ただの屍……って言ってる場合じゃねえ!


「こらっ!黒竜!返事しろ!手を貸すんじゃなかったのか!!」

「……」


 みんなの冷たい視線を一身に受ける。

 その場にいたはずのシエスやミズキまで一緒になって。


「……進藤、そういう事は時と場所を選んでするものだ」

「何人を諭すように言ってんだよ先生!本当にいるんだ!黒竜は!俺の腕の中に!」

「うむ、君の心の中でずっと生き続ける事だろう」

「いや、ちょっと待てって!妄想じゃないぞ!本当にいるんだよ!信じてくれよ!」

「くくく、面白いな。だからお前は……!!」


 にゃん魔王は突然の奇襲をかわしきれず、頬に一筋の傷ができる。


「ほう、やるな。やはり最後の相手はお前か。……にゃっく」


 そう、今の奇襲はにゃっくだった。

 キリンさん達が束になっても傷ひとつ付けられなかったのに、かすり傷とはいえついに魔王を捉えたのだ!

 にゃん魔王は漫画とかでよくあるように傷口に触れて血を舐める仕草をするつもりだったようだが傷に手が届かず諦めた。


 いや、本当にそのでっかい頭、色々不便だよな。

 って、今はどうでもいいか。


 にゃっくは無言のままにゃん魔王と対峙する。


「いけるぞ!頼んだぞにゃっく!マグは俺が押さえておく!」

「押さえる?」

「その姿で?」

「日本語おかしいデス」

「……」


 みんなの冷たい視線を一身に受けた。


 ……すげー痛い。

 心が。


「い、いいだろ!そういう事でよっ!」


 余計なツッコミすんじゃねえよ!

 ちょっとくらいカッコつけさせてくれよ!


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