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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
運命の迷宮編
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186話 目醒めるにくきゅう

 目の前の光景に頭が追いつかない。

 気がついたらにゃん太郎とキリンさん達が戦っていた。

 その状況がまず信じられなかったが、さらに信じられないのがにゃん太郎がキリンさん達を圧倒していることだ。

 

「……うむ、これは夢だな」


 瞬間、右頬を叩かれた。

 にゃっくだった。


「夢じゃない?」


 じゃあ、キリンさん達が手加減してる……てわけじゃないな。


 キリンさんが今放った魔法はライ・ディーだ。

 ルシフにさえ大ダメージを与える魔法だ。

 戦士タイプでもないにゃん太郎なら一発でも当たればそれで終わる。

 だが、その魔法を、いや魔法だけじゃなくミズキや楓さんの剣をも軽くかわす。

 にゃん太郎はミズキの攻撃をかわし際に彼女の肩に乗り猫パンチを頬に放った。

 ミズキは少しグラついたものの踏ん張り、剣を向けるがその時には既ににゃん太郎は肩から移動していた。

 もしにゃん太郎の猫パンチにラグナや魔法が付加されていたら既に勝負はついていただろう。



 キリンさん達が戦いにくいは確かだ。

 何せ相手が小さ過ぎる。

 以前、新田さんも闇皇帝に苦戦した。

 ただ新田さんは実戦経験が少なかったし、小動物との戦いが初めてだったことも大きいと思う。

 戦い慣れしている筈のキリンさん達がここまで苦戦するのは小さいだけが理由じゃないはずだ。

 明らかににゃん太郎が強いんだ。


「……あいつ、いつの間にあんなに強くなったんだ?」


 にゃっくは無言だ。

 俺の肩の上でじっと戦況を見つめている。


「……そこです」


 声がした方へ顔を向けると白い少女がなんかブツブツ呟いていた。

 どうやらにゃん太郎を応援しているようだ。

 少女が俺の視線に気づいたのかこちらに顔を向ける。

 目が合った。


 この少女も美人だよな。……人間じゃなさそうだけど。


 と思った瞬間、その目が細められ、同時に周囲の温度が下がった気がした。

 俺は戦いに視線を戻す。



「……もしかしてにゃん太郎は誰かに操られているのか?」

「その通りデス」


 近づいて来たシエスが俺の問いに答える。

 その後ろから棺を背負った四号機ついてきていた。


「どういう事だ?」

「覚えていないのデスか?」

「ああ。気づいたらキリンさん達がにゃん太郎と戦っていた」

「そうデスか。では簡単に説明しましょう。今、あのプリシスパイロットには魔王が憑依しているのデス」

「魔王が?」

「はい。最初はチトセに憑依していたのデスが、チトセではスペック不足との事で憑依する相手を変えたのデス」

「嘘つけ!って、それよりなんだ、そのプリシスパイロットって。なんでそんな言い方する?あいつは“にゃん太郎”だろ?」

「違います。あの子はまだ一人前と認められていませんので名前がありません」


 ……は?


「いや、ちょっと待て。あいつのトレードマークのハチマキに“にゃん太郎”って……」

「何故それが名前だと思ったのデス?」

「いや、何故って……」

「アレは市販品デス。どこにでも売ってます。トレードマークでもありません」


 な、なんだと⁉︎

 いや、待てよ。確かににゃん太郎、って呼んでも反応悪かったな。

 自分の名前じゃなかったからか。


「なんでもっと早く訂正しなかったんだ⁈」

「どさくさ紛れにチトセグループに入れようとしているチトセの魂胆がわかったのでスルーしてました」

「そんな事考えとらんわ!」



 にゃっくが参戦しないのは俺の護衛だからか、それとも何か考えがあるんだろう。

 だがこいつはどうなんだ?


「シエス、四号機は棺を守る役目があるとしてだ、なんでお前は参戦しないんだ?俺の護衛だからか?なら今はにゃっくがいるから行ってもいいぞ」

「失礼デスね。そんなつもりは全くありません」

「なんだと、この野郎!失礼なのはお前の方だ!」

 

 だが、シエスは俺の言葉をスルー。


「ボクは皇帝猫に対して制限がかけられているのデス。皇帝猫相手では本来の力の三十パーセントも発揮出来ません」

「初耳だぞ」

「正しくはこの機体、二号機がそういう仕様なのデス」

「そうなのか……ん?じゃあ三号機はなんでNスキージャマーなんて皇帝猫を倒すためとしか考えられねえ機能を搭載してたんだ?矛盾してねえか?」

「それはボクにはわかりません」

「そうなのか」

「はい」


 

「流石魔王、デス」

「どうしたシエス?」

「魔王が皇帝猫に憑依するのは最初からの作戦だったのでしょう」

「なに?」

「最大の敵となるであろうボクの力を封じるためデス。三号機を追いやったのもこの布石だったのでしょう」

「それはないと思うぞ」


 シエスは俺の言葉をスルーするだけでなく、とんでもないこと言いやがった。


「残念デス。相手がチトセならリミッターが解除できて全力が出せたのデスが」

「そうか……って、ちょっと待て。お前は俺の護衛だよな?なんで俺相手に全力出せんだ!おかしいだろ!」

「そうなってるのデスからボクにはどうしようもありません」


 ふざけやがって……絶対ぷーこの野郎だな!

 帰ったら絶対お仕置きだ!あの馬鹿野郎!



「どうした?お前達の力はその程度か?」


 プリシスパイロットに憑依した魔王が、勝ち誇った顔でキリン達を見渡す。


 かわいい姿と言葉のギャップがすごいな。


「……っていうか。皇帝猫って人の言葉話せるのか?」

「あのように正確に話す構造にはなっていません。恐らく魔王の魔法でしょう」

「そうか」

「……流石魔王様。ステキ……」


 隣で白い少女、ソラがうっとりした表情でプリシスパイロット……って面倒だ。にゃん魔王を見つめてる。


 いや、あの姿にうっとりはないだろう。


 と思ったら、ソラがこちらを見た。冷たい目で。


「……殺しますよ?」


 うげっ、心読まれてる⁈


「す、すみませんっ、魔王はどんな姿でもかっこいいです!」


 ソラは冷たい目のままゆっくりと頷いてにゃん魔王に視線を戻す。


「情けない男デス。……報告します」

「誰にだよ?」

「ニッタセリス」

「頼むからやめてくれ」

「……更に情けないデス」


 く、くそー。



 シエスといるとムカつくし、ソラは怖いのでここから離れることにした。

 俺達と同じく戦いに参加していない女医の元へ向かう。


 女医は腕を組み仁王立ちでじっと戦いを見ていたが、俺が近づいて来るのに気づき顔をこちらに向ける。


「君は進藤でいいのか?」

 

 一瞬何のことだと思ったが、さっきまで魔王に憑依されていた事を思い出す。


「はい、進藤です」

「うむ、そうか」


 それだけ言うと戦いの視線を戻した。

 俺は葉山先生の横に立ち、戦いに目を向けながら尋ねる。


「先生は戦わないのですか?」

「うむ?私が?冗談ではない」

「そうなんですか」

「私のこの姿を見てそう尋ねるということは……」

「なんです?」

「それはどんなエロゲーだね?」

「ちげえよ!」

「うむ、漫画だったか」

「違う!」

「じゃあ、アニメ……」

「全部違う!悪かった!俺が悪かったよ!」

「うむ、人間素直が一番だ」


 素直っていうか、このやり取りを続けたくなかっただけだ!


「私はな、自慢ではないがこのダンジョンで一度も戦っていない」

「そうなんですか」

「うむ。そう言う約束だからな。私はあくまでもアヴリルの容態が変化した時のためだけに着いて来たのだ」

「なるほど」

「まさか本当に魔王に会えるとは思わなかったがな」

「……先生は向こうの世界の人なんですか?」


 葉山先生が俺の目を見た。

 そして、ふふふ、と笑う。


「秘密だ。女には秘密が多いのだよ」

「なんか前にも聞いた気がしますね」

「うむ?そうだったか」


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