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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
運命の迷宮編
195/247

181話 右腕に宿りし黒竜、って中二かよっ!

「……なんでこうなった?」


 戦いが終わったばかりの周囲を現実逃避するように見回す。

 息がまだ荒いミズキ、右足を引きずっているシエス、そしてにゃっくが一様に驚いた様子で俺を見ている。


 いや、正しくは俺の右腕を、だ。

 俺の右腕は袖が破れており、むき出しになった肘から手首にかけて黒い模様が描かれている。

 何となくドラゴンの顔に見えなくもない。

 今まで黙っていたが実はタトゥーをしてたんだ、なんて事はないぞ。

 あのブラックドラゴンの仕業だ。



 ドラゴンは口先だけだったのか、こちらが強過ぎたのか、ともかく戦いは終始優勢だった。

 戦いに参加しているのはミズキ、シエス、にゃっくだ。

 俺は離れて様子を見ていた。

 流石にドラゴン相手に接近戦を挑む気にはならなかったからな。

 ケロロを遠隔操作しようとしたがいうことをきかない。

 そもそもケロロに遠隔操作機能はないと言ってたから、作った奴が暴走して勝手につけた機能なのだろう。

 通常はオフになっているが何かの拍子に機能する、とかじゃないだろうか。

 で、今回はその何かが起きず機能しないって訳だ。


 それでも少しは役に立とうと弱点を探すためブラックドラゴンを透視したが特に弱点らしいものはなかった。

 うっかり、そう、うっかりミズキを見てしまったが全身にラグナを纏っていたからだろう、全く透けなかった。


 ちっ、

 いや、違う!これでいいんだ!

 最初に透視するのは……以下省略!

 

 という事でできる事のなくなった俺は、気を失ったままのにゃん太郎が服の中から落ちないように支えながら流れ弾に当たらないように離れて戦いを見ていたんだ。


 戦いの終盤、シエスは“最高の銃”の撃ち過ぎによるエネルギー不足で動きが鈍くなった。

 その隙をつかれ、ドラゴンの尻尾の直撃で吹き飛ばされ右足を痛めた。

 だが、ドラゴンの反撃はここまでだった。

 ラグナを纏ったにゃっくの一撃でドラゴンの尻尾は切り落とされ、これまたラグナを纏ったミズキの双剣がドラゴンの首を斬り落とした。



「……見事だ」


 首を切り落とされてもドラゴンはまだ生きていた。

 戦闘態勢を解かずドラゴンの様子を探るミズキとにゃっく。


「ふふふ。構えなくともよい。我にはもう戦う力も意思もない」


 その言葉が事実であるかのようにドラゴンの首を除く体が消滅していく。


「何か言いたい事があるのか?」

「……ふむ。お前は……」


 俺をじっと見るブラックドラゴン。


「なんだ?」

「お前は弱いな」


 く、この野郎!

 負けた奴の言われたくねーぜ!

 ……俺は何もやってねえけどな!


 戦闘中はすっかり忘れていたが、またも馬鹿にされ、下等生物と言われたのを思い出した。

 怒りが再び湧き上がってくる。


「……だからなんだ?」

「……」


 ドラゴンは一瞬表情を変えたように見えた。


「……なるほど。そういう事か」

「は?どういう事だ?何言ってる?」


 しかし、ドラゴンは俺の問いに答えなかった。

 はいはい、俺の言葉を無視するのはいつもの事だよな!


「お前は、“お前自身”は弱過ぎる」

「そんな事お前に言われなくてもわかってるぜ」

「この先、深層に向かうのに力不足だ。全く足りていない」

「大丈夫だ。次の階で終わり……」

「故に我が力を貸そう」

「おい、話は最後まで……って何だって?」


 だが、ブラックドラゴンはまたも俺の問いに答える事はなく、その首が発光し始めた。


「な、なんだ⁉︎」


 にゃっくが俺を守ろうと飛び込んでくる。

 だが、少し遅かった。

 光となったドラゴンの首が俺の右腕に吸い込まれる。

 次の瞬間、右袖が吹き飛び、光が収まった時にはドラゴンの紋章?のタトゥーが描かれていた、

 というわけだ。



「なあ、これどういう事だ?」


 ミズキに尋ねるが難しい顔をして首を横に振る。


「わからないよ。今までこんなの見たことないよ。その腕、何か変化はあるのかい?」


 右腕を振ったり、手を握ったりしてみる。


「……特にない。今までと変わってないな。このタトゥーが入った以外」

「力を貸すって言ってたよね。どう使うんだろう?」

「さあ?……おい、ドラゴン、いるなら返事しろ」


 だが、返事は返って来なかった。


 視線を感じた。

 シエスがじっと俺を見ていた。


「なんだシエス、お前はなんか知ってるのか?」

「当前デス!」


 その自信ありげな表情に嫌な予感がする。

 こいつ、ろくなこと言わねえな。


「まあ、ここで悩んでてもしょうがねえ。この先にキリンさんがいるんだ。キリンさんに聞くぜ」

「何を言ってるのデス!ボクが知ってると言ってるじゃないデスか!」

「いやいい。キリンさんに聞くから」

「ちょっとチトセ、シエスの話も聞くだけ聞いたら?」

「そうデス!」

「いや必要ないから」

「後悔しますよ!」

「聞くともっと後悔しそうだ」

「まあまあ、ちょっと休憩したいし。シエス教えてよ」


 そう言ってミズキはその場に座り込む。

 

 む、

 確かに休憩は必要か。

 戦いに参加してなかった俺に反対できる訳ないしな。


「仕方ありませんね!」

「じゃあいい」


 と言ってもシエスは話を続ける。

 

「さっきのブラックドラゴンはもともとチトセの右腕に宿っていたのデス!」


 ああ、そうな、そういう馬鹿な事言うと思ってたぜ。


「え?そうなの⁉︎」

「はい。恐らくこのダンジョンの影響で封印が解け解放されたのでしょう!」

「何で隠してたんだい?」

「嘘だ嘘。何故信じる?大体、このアホの言ってる事はさっきドラゴンが言った事と矛盾してるだろ?」


 と言った後、ミズキの目を見てわかった。

 嘘だとわかってる。わかってて話に乗ってるだけだ。

 俺が睨むとミズキは肩をすくめた。


「冗談は置いといて本当に何ともないのかい?」

「ああ」

「チトセ、よかったデスね!」

「何がだ?」

「これで堂々と、『右腕が疼く!』とか『くっ、鎮まれ黒竜よ!』とか中二全開で出来ますよ!」

「やらねえよ!てか黒竜がいるのは事実だからやっても中二じゃねえだろ!」


 とはいえ、こっちの世界の人間は中二だと思うんだろうなぁ。

 俺は絶対そんな事言わねえぞ!

 ……キリンさん、解除の仕方知ってるといいな。


 ……ん?


 服の中でもそもそとにゃん太郎が動き出し、すっと体の割におっきな頭を出して、「終わったの?」みたいな顔をして俺を見る。


「終わったぞ」


 そう言ってにゃん太郎の頭を撫でてやる。


 うーむ、こいつの顔見てると近所を散歩してる気分になる。

 緊張感なくなるぞ。


「ドラゴンの事は後回しだ。次の階にはキリンさん達がいるはずだ。でもすぐに合流出来るとは限らないから慎重に行こうぜ。特にシエス!」

「何故ボクなのデス?」

「お前が一番危なっかしいからだ。その足は大丈夫なのか?右腕の銃、銃口が溶けてなかったか?」

「問題ないデス!確かにもう銃は撃てませんが今の戦闘でレベルアップしました!ドラゴン相手でも銃なしでも問題ないデス!」


 いや、それは無理だろう。

 大体レベルアップってなんだよ?

 とは言っても人の言うこと聞かねえし、このまま行くしかねえよな。


 休憩後、俺達は二十階へ降りた。


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