180話 今更言われても
「ドラゴンの事、詳しく教えてくれないか?」
「ああ。そのドラゴンは……」
……あれ?
「どうかしたのかい?」
「ミズキはドラゴンの事わかるのか?」
「どういう意味だい?」
「あ、いや、ミズキの世界のドラゴンと俺達の世界のドラゴンだが、名前は同じでも同じ魔物なのかと思ってな」
「ああ、確かにね」
ミズキとドラゴンの特徴を確認したが、こっちの世界のドラゴン(こっちは実在しないが)と同じだった。
と、ここまで来て今更だが重大なことに気づいた。
「今更だけどよ、俺達何で会話できてるんだ?」
「本当に今更デスね」
「悪かったな」
最初から普通に会話できたから気づかなかったんだよ。
「僕は僕の世界の言葉を話してるけど」
ミズキの口の動きをよく見れば聞こえてくる言葉と口の動きが違う時があった。
海外映画などで日本語吹き替え版を見ている感じに近いか。
「リアルタイムに翻訳されてるってことか。この島に特別な力が働いてるんだな」
「正しくはこのダンジョンに、デス」
「シエスは知ってたのか?」
「当然デス!」
「便利なダンジョンだな」
「疑問があるんだけどいいかな?僕が聞いている声は本人なのかな?」
「おお、確かに」
翻訳されてるって事は聞こえてる声は本人ではなく声優が……ってな事ないよな!
会話にタイムラグはないんだ。あればもっと前に気づいているはずだ。
「本人デス。仕組みまではわかりません」
「そういう魔法があるんだろうね」
「だな」
ダンジョン全域に翻訳?の魔法か。
相当スゴいけど親切すぎねえか。
ユーザーフレンドリー、じゃなくて冒険者フレンドリーてか。
「じゃあ、ダンジョンから出たらチトセ達と会話できなくなるのかな?」
「そうデス」
「まあそうなるか」
「デスがボクがいるから大丈夫デス。ボクはどちらの言葉もわかりますから通訳出来ます」
そう言ったシエスの顔はどこか誇らしげだった。
「なるほど。一先ず安心だな」
お前がおかしな意訳をしなければだがな、と心の中で付け加える。
「話をもとにもどしましょう」
「ああ、悪かったな。ドラゴンだよな」
みんなにこの先に待ち構えているドラゴンについて話した。
この先にいるドラゴンは全身黒のブラックドラゴンだ。全長は十メートルは超えそうなほどでかい。俺達に気づいているかはまったくわからない。
少なくとも鎮座してしている場所から動く気配はない。
「聞いた限りだとそのドラゴン、軽く百年は生きてそうだね」
「そうなのか?」
「あくまでも大きさから判断してだよ。四魔みたいな特別な魔物ならわからない」
「……」
「どうしたシエス?」
「……ブラックドラゴン、デスか」
「何か心当たりがあるのか?」
「そうなのかい?」
「ボク、というよりチトセが、デス」
「俺?」
「そのドラゴンはもしかしたら……」
あー、なんかコイツ馬鹿なこと言いそうな気がする。こいつに対しての嫌な予感は百パーセント当たってる気がするぞ。
「かつてチトセの右腕に封印されていた黒竜……」
「黙れ、阿呆」
「え?チトセの右腕に⁉︎」
「信じるな。寝言だ寝言。こんな時のアホなこと言ってんじゃねえ!」
奇襲の案も出たが、ドラゴンは知能が高い。交渉次第では戦わずに済むかもしれない。
俺は戦馬鹿共をどうにか説得することに成功した。
「……ドラゴン、こっちに気づいてるよ」
「そうなのか。じゃあ、奇襲ってのはもともと無理だった、てことだな」
透視魔法を解いてるので俺には様子はわからない。
透視魔法は魔粒子の消費が激しいし、うっかりミズキを見たりしたら何を言われるかわかったもんじゃないからな。
それに最初に透視するのは新田さんと心に決めているのだ!
ふっふっふっ……。
「ミズキ!チトセが透視してます!」
「ば、何いきなり言いだすんだこの馬鹿が!」
「チトセの性欲反応増大を確認。間違いないデス」
俺がにやけていたとしても後ろいるシエスに見えるはずはねえよな。
てことは本当にそんな機能ついてるのか?
いや、そもそもそんなもんわかるのか?
「お前な……」
「少しは緊張しなよ。もう敵はすぐそこだよ」
「あ、悪い。でも俺は透視してねえからな」
「嘘デス」
「別にどっちでもいいよ」
「へ?」
「僕は裸を見られても気にしないよ」
「え?そうなのか?」
「冒険してれば男と一緒に水浴びする事もあるしね」
「そ、そうなんだ」
今この一瞬、冒険者が素晴らしいと思ってしまった。
くそっ、その言葉、もっと早く聞きたかったぜ!
見ないように気をつけてたのによ!
……って、いかんいかん!だから最初に見るのは新田さんだ!
「……この事は後でしっかり報告します」
「誰にだよ?ってか、虚偽の報告はやめろ」
ミズキが立ち止まり俺達を睨んだ。
すみません。
「己の力を過信した愚か者共よ。ここより先はお前達のような下等生物が来るべきところではない。早々に立ち去るが良い。さすれば今回は見逃してやろう」
ドラゴンが鎮座する大きな空間へ入った時のドラゴンの第一声がこれだった。
「チトセ、下等生物呼ばわりされましたよ」
「うるせえ」
確かにドラゴンから見れば俺達は愚か者なのかもしれねえ。
だが下等生物呼ばわりは許せん。
俺の中で膨れ上がる怒り。
それに気づいたのかドラゴンに圧倒されたのか、にゃん太郎がピクっと一瞬動いた後、動かなくなった。
気を失ったようだ。
まあ、これからの事を考えればその方がいいだろう。下手に動き回られても気が散るしな。
あと、お漏らしされなくてよかったぜ。
にゃん太郎をドラゴンの所へ一緒に連れて行くか一瞬迷った。
だが直ぐに答えは出た。考えるまでもなかった。
この階に絶対に安全な場所などない。
そんな所にこいつ一匹(こいつは騎と数えるのはおかしいよな)残しても俺達が全滅したら生き残れないだろう。
なら一緒に行動しても同じだ。
さっきまで感じていた恐怖と緊張は怒りで消滅していた。
俺はにゃっくを右肩に乗せ、気を失ったにゃん太郎を服の中にして一歩進みでる。
体の動きは悪くない。
ブラックドラゴンと目が合った。
「ブラックドラゴンよ。俺達も出来ればそうしたいんだ。だがその前に一つ教えてほしい」
「言ってみるがいい」
「俺達は下の階へ行きたいんだ。階段はあなたの後ろにあるドアの向こうにあるのか?」
「そうだ」
「その階段へ向かう道はここを通る以外にもあるのだろうか?」
「ない」
「俺達を通してくれないか?俺達に戦う意思はないんだ」
「……」
ドラゴンが不審な目でミズキ達を見る。
やばっ、コイツらはやる気満々だった。
「コイツら緊張してるせいだから!」
「どちらにしても出来ぬ相談だ。下へ降りたければ我を倒すしかない」
ちっ、やっぱりダメかよ。
「交渉決裂だね」
嬉しそうに言うミズキ。
「ここはやはりチトセお得意の力づく、という事デスね!」
「誰がだ!この平和主義者の俺に向かって何言ってやがる!」




