179話 ダンジョンにお約束の魔物
ぷるぷると震えるにゃん太郎をミズキから引き取る。
にゃん太郎はすぐに俺の服の中に潜り込み、中から涙目で俺を見る。
そこにさっきまでの自信はまったくない。
「四季のことは気にするな。あいつの意志だ。だがこれからは勝手な行動はするなよ」
俺の言葉が理解できたのか小さく頷いたように見えた。
「しかし、彼には驚かされるね。いつもあんななのかい?」
「さあな。四季の事はそんなに詳しいわけじゃないんだ」
「そうなんだ」
「それよりミズキが一緒に行かなくてホッとしたぜ」
「いやいや。流石に僕は無理だよ。少なくとも今の状況で取る行動じゃないよ」
「そうだよな」
しばらくして落とし穴が塞がり、通路は元に戻った。
だからといってすぐに通るわけにはいかない。
「さっきのトラップはなんで発動したんだろうな」
「アレじゃないかな?」
ミズキが指差す辺りの床を見る。
ん?何もないようだが……いや、あれか?
「あの小さな凹みか?」
それは何かの衝撃で凹んだように見えたが、言われてみれば意図的に作られたように見えなくもない。
「うん」
「確認するから動くなよ」
さっき開いた落とし穴の範囲に誰もいないのを確認してその凹みに向かってケロロを伸ばす。
ケロロの先端がその凹んだ面を押す。
途端、再び床が消え、闇が広がっていく。
「間違いないようだな」
「そうだね」
靴裏の溝に小石などが挟まったりしない限りその凹んだ面に触れることはない程小さな凹みだ。
にゃん太郎のような小動物狙いの罠なのか?
何考えて作ったのか理解できんが引っかかってしまったんだから無意味とは言えねえよな。
再び現れた落とし穴を覗く。
「四季!いたら返事しろ!」
ダメ元で叫んでみたが、予想通り四季からの返事はなく、しばらくして落とし穴は塞がった。
四季が抜けたので隊列を変更した。
先頭ミズキ、俺とにゃっくとにゃん太郎、後方にシエスだ。
戦力が大幅にダウンしたがミズキも強いから後一階降りる程度なら何とかなるだろう。
「なあ、ミズキはトラップとかは見つけられないのか?」
「さっきのは無理だね」
「さっきのは?どう言う意味だ?」
「魔法とかがかかってればわかる時もあるけど、さっきの落とし穴は魔法を使ってないからね」
「なるほど。からくりとかは難しいのか」
「うん。僕は戦闘がメインだからね。他のスキルはおまけ程度だよ。専門には負けるさ」
「やはりボクの出番デスね!」
「いや、お前、トラップ引っかかってばかりだろ。さっきのも気づかなかったし」
「そんな事はありません!計算通りデス!」
「どこが計算通りなんだ?」
「邪魔者であるシキカオルを排除できました!」
「お前はまったく何もやってねえだろ」
まったく困ったロボットだぜ。
その後しばらくして周囲の様子が変わった。
石造りの構造から洞窟になったのだ。
湿った土のにおいがする。
「トラップゾーンを抜けたようデスね」
「なんでわかるんだ?」
「そう情報がありました」
「さっき連絡受けた時か?」
「そうデス」
「一安心かな。油断は禁物だけど」
「そうだな。シャッフルで逆戻りするかもしれないしな。でもよ、無くすのはトラップだけにして欲しかったぜ」
「土は嫌いかい?」
「ていうか、歩き辛い。ダンジョン製作の予算がなくなったから、なんて事はないよな」
「ははは」
しばらく進むと突然ミズキが立ち止まった。
「どうした?」
ミズキは振り返らず声を潜めて言った。
「チトセは気づかないんだね」
俺も声を潜める。
「もしかして魔物がいるのか?」
「うん。間違いなく四魔より強いね」
「マジかよっ⁉︎」
「しっ、デス」
「悪い……ミズキ、お前の言う四魔って最初の四魔か?それとも最後に残された四魔、最も強い奴の事を言ってるのか?」
「最後の奴だよ」
なんてこった。
なんでここに戦バカの四季がいないんだ!
アイツがいれば安心して任せられたのによ!
だが、いない奴の事を考えても仕方ない。
「迂回するか?」
「どうかな。この先の魔物はこの階にいた他の魔物とはレベルが違うからね。特別な魔物だと思うよ」
「そいつを倒さないと階段へたどり着かないとか、か。シエス、情報はないのか?」
「この洞窟エリアのどこかに階段はあるはずデスが、そんな強力な魔物と遭遇したと言う話はありません」
「つまり、キリンさん達は違う道を通って下へ降りたか、キリンさん達が通った後にその魔物が現れた、か」
戦うにしても迂回するにしてもどんな奴か見ておいた方がいいだろう。
「シー・ル・ディー」
さてどんな魔物が……何?
「どうしました?」
「……ドラゴンがいる」
そう、ダンジョンアンドドラゴンズという言葉があるように?ダンジョンにドラゴンはつきものだが、なんでこの階にいるんだ⁉︎
百階まであるならもっと下の階層で出てこいよ!
「そう、ドラゴンなんだ」
ミズキの嬉しそうな声が聞こえる。
「腕がなりますデス」
シエスだけでなくにゃっくもなんかやる気に見える。
……訂正。
戦バカは四季だけじゃなかった。




