17話 ボーリングは楽しい?
「進藤ってボーリングしたことある?」
学食で皇が突然そんなことを言い出した。
「普通あるだろ?お前はないのか?」
「実はないんだよね」
「へえ、そりゃ珍しいな」
「今度行かない?」
「いいけど、どうしたんだ?……あ、今描いてる漫画の資料集めか?」
「いや、そうじゃなくてね、実はさ、昨日つかさちゃんとちょっともめてね」
「……」
「で、どっちの言い分が正しいか勝負で決めることになったんだけど、勝負方法は平等に二人ともやったことのないもので決めようということになったんだ」
「で、ボーリングか」
「うん」
なんでそうなった?争いの元はまた記憶違いか?なんか関わると面倒になりそうだな。
「あ、わりい、その日はちょっと都合が悪いんだ」
「いつにするかまだ決めてないけど」
しまった!俺としたことが!
「都合は進藤に合わせるよ」
く、どうにか逃れる手はないか?
「そういえば妹ちゃんはプレゼント喜んでくれたかな?」
「おお!ばっちりだった!親父に完勝したぜ!」
俺は即答した。
「それは良かった。で、どうかな?」
くっ、
いやわかってたさ、そう来るってことはな。だが俺の可愛い妹の話だぞ!スルーできる訳ないだろ?
「しかしな、あ、別に嫁さんがどうこうじゃないんだ。俺一人だろ?ちょっとやりにくいというか・・・」
「誰か誘えばいいじゃないか」
「確かに俺の可愛い妹は三歳になったから始めるにはちょうどいいかもしれないな。公園デビューには立ち会えなかったし……」
だが、こいつらの夫婦喧嘩を見て悪い影響を受けないか心配なんだよな。
「……僕はちょっと進藤が心配になってきたよ」
「ん?何を言ってるんだ?妹思いのいい兄貴だろ?」
「そうかな?……そうだ、新田さん誘ってみたら?」
「お前も勘違いしてるようだが俺と新田さんはただの友達だ」
「友達なら別に問題ないんじゃない?」
あれっ?確かにそうだな。
「これを機会に二人の関係を進展させてみようよ」
「簡単に言うなよ。誘ってもきっと来ないぜ。っていうかお前は俺と新田さんをくっつけたいのか?」
「そういうわけじゃないけど、……じゃああの子は?」
「あの子?」
「ほら、前にファミレスに来てた子」
くそっ見られてたか。
「あれはただのあほだ。友達じゃない」
「でも前に大学にまで会いに来てたって先輩から聞いたけど?」
何だと⁉先輩って︎漫研の奴らだよな。あいつ等、会議に集中してたんじゃないのか?何でもマンガのタネになると思って情報収集は怠らないってことか?油断ならない奴らだな。
あれは別人だ、と言いたいとこだが話がややこしくなるか。
「……ちょっと大学に興味があっただけだ。別に待ち合わせしてたわけじゃない」
「確かにあちこち見てまわってたみたいだね」
ほう、本当に興味があったのか。何だろう、ちょっと複雑な気分だ。
「なんかね、モデルになってくれないかって頼んだんだけど断られたんだって」
ん?あのとき玉砕した奴か?……わからん。漫研の奴らの顔など覚えてないからな。
ぷーこなら飯おごるって言えばひょいひょいついていきそうだが、アヴリルはないな。
……ぷーこ、大丈夫か?自分で言ってて心配になってきたぞ。変な奴らについてったりしてないよな?なんか出来が非常に悪い妹を持った気分になったぞ。
「どうした?」
「いや、なんでもない……‼︎」
俺は新田さんがトレーを持ってウロウロしているのに気付いた。
どうやらいつも一緒に食事をしている女子達のテーブルはすべて席が埋まってしまったようだ。
そういう場合は、先に座った奴が席を確保しておくもんだろ。それともなんか用事で遅くなるからとか新田さんが前もって断っていたのだろうか?
……まさか、さりげなく嫌がらせされているってことはないよな?
そういや、にゃっくが来たときのあの変な噂は結局誰が流したんだ?今じゃまったくそんな話しなくなったから気にしてなかったが。
俺は新田さんと目が合い、思わず手を上げてしまったが、「新田さん!」と同じ学部の男子が誘う声が聞こえたので慌てて下げた。
しかし、新田さんは呼んでくれた人達に謝りながら俺たちの席へ来た。
「誘ってくれたよね?」
「あ、ああ」
新田さんが俺の横に座る。
ちょっと周りの視線が気になるぜ。
新田さんのメニューは味噌ラーメンとオニギリだった。炭水化物攻撃か。いや、別に深い意味はない。
ちなみに俺達はランチセットの生姜焼き定食だ。
「新田さんはボーリングって好き?」
「お、おいっ」
皇め、強硬手段に出たな!俺もなんで手を上げてしまったんだ?こうなることは予想できたはずなのに。
……だが、体が勝手に動いてたんだよな。
……ホントに来るとも思ってなかったし。
「ボーリングですか?」
「実は進藤とボーリングしようって話になったんだけどね、僕が妻を連れてくると進藤一人だからどうしようかって話してたんだ」
「皇くんて本当に結婚してるんだ」
ちょっとばかり嫌がらせをしてやろう。
「相手は幼馴染なんだぜ」
「そうなんだ。なんかそういうのもいいわね」
それだけ聞けばな。
む?皇の奴、「いやあ」なんて照れてやがる。おい、俺は嫌がらせで言ったんだぜ。そんな反応するな!
「ちなみに二人の愛読書は『羅生門』、だよな?」
「『羅生門』って『芥川龍之介』の?」
「そう」
「え、違うよ。いきなり何を言うんだよ」
「あれ?そうだったか?」
お前らの生き方はどう見ても羅生門だろ!
「ほんと二人は仲がいいね。同じ学校出身だったりするの?」
「全然」
「まったく違う」
「それでそんなに仲良くできるんだ。うらやましいな……」
「……」
「で、話戻すけど、もしよかったらどうかな?」
「いつ?」
この"いつ"は本当にスケジュールを確認するためじゃない。断る理由を作るためだ。「あ、ごめんなさい、その日はちょっと」とかな。
そうだよ、さっき俺が失敗した作戦だよ!さすが新田さんは慣れたもんだ。
「来週の土曜日の午後なんだけど」
「……って、ちょっと待て。いつかはまだ決めてなかっただろ?」
「まずい?」
「いや、ちょうどシフトは空いてたと思うが……」
ま、いいか。どうせ断るために聞いたんだろうし。
「……返事は後でもいい?」
ほらな!
「ああ、いいぜ」
「ダメだったら進藤は妹ちゃんを連れてくるから無理はしなくていいよ」
「おい!まだ決定してないぞ!俺の可愛い妹だって予定の確認は必要なんだぞ!」
ボーリングはともかく、お前ら夫婦に会わせるのは教育上よくないんだよ!
「ふふ……じゃあ、明日連絡するね」
で、次の日。
新田さんからOKの返事をもらった。
なぜ?
実は皇、ナンパうまいとか。
いや、でも待て。普通の会話だったよな?
テクニックらしきものは何もなかったと思うぞ。
……実は俺に気があったりするとか?
親への紹介も済んでるし……ダメだ、嫌なことを思い出してきた。
単純にボーリングがしたかっただけだろう!うむ!
……俺は本番前に練習しておくべきなのか?
結局、バイトを休むわけにもいかず、ぶっつけ本番に挑むことになった。
皇夫婦は初心者だし、新田さんも久しぶりって言ってからな。問題ないだろう。




