175話 戦士の条件
「カオル、僕からもいいかい?」
「うん?」
「君が使ってる剣はどこで手に入れたんだい?」
「この剣?」
四季が剣を出現させる。
「そう、それもだよ。剣を自由に出現させるのも気になってたんだ。それは剣の力かい?それとも君の力?」
「うーん、剣の力、なのかな?僕もよくわからない」
「わからない?なんで?」
「前に大事故に遭ってね。目覚めたらこの剣を出せるようになってたんだ」
ミズキは驚いた顔をして俺を見た。
「そういうのって君達の世界ではよくあることなのかな?」
「よくはないぜ。ただ、その事件で力を得た奴が他にもいるのは確かだ」
「へえ、そうなんだ。チトセもそうなのかい?」
「俺?俺は違う。その事件の被害者じゃねえし」
「じゃあ、その事件に関係なく特別な力を身につけることがあるって事だね」
あれ?……そうなる、のか?
「ねえミズキ。君はこの剣が欲しいのかい?」
「欲しいね」
「そうなんだ。……どうしても、っていうなら僕を倒してみる?僕自身の力じゃなかったら君のものになると思うよ」
一瞬、ミズキの目の色が変わった気がしたが、
「……やめとくよ。僕は強盗じゃないからね」
「それはちょっと残念。ミズキは強いから戦ったら面白いかなって思ったんだけど」
と笑顔で言う四季。
「やめろよ、そういうのは」
俺が楽してダンジョン進めねえだろ。
「わかってるよ。僕も仲間で争う気は無いよ」
ホントか?
ちょっと疑わしいな。
ちょっと離れたところでにゃっくとにゃん太郎が何事か話している、ように見えた。
先輩として戦いのアドバイスでもしてんのか?
「なあ、ミズキ」
「ん?なんだい?」
「皇帝猫には戦士タイプとそうじゃないのがいるんだよな?」
「そうだよ」
「どうやらにゃん太郎は戦士タイプじゃないみたいなんだが、その二つの違いってなんなんだ?見た目じゃ全くわからん」
「さあ、そこまではわからないね」
「そうか」
「ごほんっ!」
ま、しょうがないか。
「ごほんっ、ごっほん、デス!」
「風邪か?」
「違います!アンドロイドは風邪ひきません!」
「そうか。それはよかったな」
「そうではありません!何故皇帝猫専門家のボクに聞かないのデス⁉︎」
「お前もぷーこみたいに出任せ言うんじゃないのか?」
「失敬な!ぷーこ様もボクも真実しか語りません!」
もう嘘ついてんじゃねえか。
「まあまあ。とりあえず聞いてみようよ」
「そうだな。じゃあ話せよ。どう違うんだ?」
「仕方ないデスね!」
嬉しさを隠しもせず説明を始めるシエス。
「戦士タイプとの違いの前に皇帝猫、いえユーマオンについて語らなければならないでしょう」
「いや、そんなのいらんから。要点だけでいいから」
「ダメデス!」
この野郎!
シエスの話を要約するとこうだ。
皇帝猫、いやユーマオンは本来群れで行動するものらしい。
その群れの中の十パーセントが戦士タイプになるそうだ。
戦士タイプとなったユーマオンは特殊能力を得る。
”空中歩行”とか”それほしい”だ。
群れの中で戦士タイプの数は常に十パーセントを維持するらしく、戦死などで戦士タイプが少なくなると群れの中から新たな戦士タイプが生まれるそうだ。
一度戦士タイプになると元に戻る事はないらしい。
そのため、普通のユーマオンの数が減り、戦士タイプの数が十パーセントを超えると、余剰分の戦士タイプが群から離れるそうだ。
にゃっくやみーちゃん達はそうやって群れから離れたということだろうか。
にゃん太郎のような普通のユーマオンが単独行動するのは、人と共に生きることを選んだり、群れが敵に襲われて散り散りになった場合などだ。
「なあ、にゃん太郎は組織に属してんのか?」
「そうデス。ミカエルさんの元でプリンセスの操縦を学び、今ではナンバーワンのプリシス乗りデス!」
みーちゃんが組織抜けたからな。
「パイロットはあと何匹、いや何騎いるんだ?」
「……秘密デス」
今の表情……もしかしてにゃん太郎しかいないんじゃねえか?
ナンバーワンじゃなくてオンリーワンじゃねえのか?
「納得しましたか?」
「するかよ。長々と話したが俺の質問に答えてねえぞ。戦士タイプと見分ける方法はどうした?」
「それは、」
「それは?」
「気合いデス!」
「ダメだこりゃ」
「うん、ダメだね」
「うん」
俺達がシエスを集中口撃してるところへにゃん太郎が戻ってきた。
当然のように俺の懐に潜り込む。
「おい、にゃん太郎」
どうしたの?
というような顔で俺を見る。
かわいいので頭を撫でてやる。
……うむ?……これは!
「おいシエス。俺は戦士タイプと見分ける方法がわかったぞ」
「ははは。チトセ如きにわかるわけないデス」
「ははは。相変わらず失礼なロボットだな」
「ふふふ。アンドロイド、デス」
「で、どう見分けるんだい?」
「四季、気になるのか?」
「ちょっとね」
「そうか。じゃあ、教えてやろう。普通のユーマオンは……あほ毛がない!」
俺の言葉にハッとした顔をするシエス。
「あほ毛?」
「……チトセの癖に」
「お前、ホント失礼なロボットだな」
「アンドロイド、デス!」
「ねえ、進藤君、あほ毛って」
「逆毛デス!」
「うるせえなぁ。わかったよ。にゃっく、てか戦士タイプは頭に逆毛が生えてんだよ。普段は隠れてるけどな」
「逆毛レーダーデス!」
「レーダーって事は敵を感知する能力があるのかい?」
「ああ。だが想像してるのとは逆だと思うぞ」
「逆?」
「ああ。逆毛レーダーは敵の存在を感知するんじゃねんだよ。逆毛を見た相手が大声で叫んで自分の存在を知らせるんだよ」
「相手が知らせてくれるんだ?」
「そうだ」
「戦士タイプってそんな面白い能力があるんだ」
「ミズキも知らなかったのか?」
「うん」
「で、何を叫ぶのかな?」
うーむ、そこ聞くか。
「やってみればわかるね」
「へ?」
ミズキがにゃっくに近づく。
「いや、ちょっと待て!」
「大丈夫。ここで大声出しても外には聞こえないよ」
「敵が来てもすぐに片付けるよ」
ミズキだけでなく四季も興味深々だった。
「俺が気にしてんのはそこじゃねえ!」
ミズキがにゃっくの頭に手を伸ばす。
まあ、にゃっくが簡単に頭を触らせる訳ない……あれ?
にゃっくはミズキから逃げなかった。
ミズキの手がにゃっくの頭に触れる。
嘘だろ!もう間に合わん!
俺はにゃっくから顔を背ける。
直後、
ミズキの卑猥な叫びが部屋中に鳴り響いた。
「……」
「そんな顔で睨むなよ。俺は止めただろ?」
「……真剣じゃなかった」
「んな事ねえ!」
「チトセのは振りでしたね。止めようとした振り、デス」
「嘘つくんじゃねえ!」
この野郎、俺が戦士タイプの見分け方に先に気付いた事、根に持ってんな!
逆恨みもいいとこだぜ!
ロボットにそんな人間らしい感情いらねえだろ!
「大体お前は止めようとすらしなかっただろ!」
「ボクには止める理由がありません」
さらっと言いやがったよ、こいつ。
「……」
「ま、まあ落ち着けって。誰もが通る道だぜ」
「……チトセも叫んだのかい?」
「ああ」
「僕は聞いてないけど」
無茶言うなよ。
「そういえばカオルも絶叫しなかったね?」
よし、矛先が四季に向いた!
後は頼んだぞ!
「僕は欲求不満じゃな……じゃなくてそのあほ毛を見てないんだ」
「……なんで?」
「ミズキに隠れて見えなかったんだ」
ミズキの疑いの目を平然と笑顔で受け止める。
俺は顔を逸らしてたので四季の言う事が本当なのかわからない。
「大体、にゃっく、お前もだぜ。なんで避けなかったんだ?」
にゃっくは無言だった。
「実際に経験しないとわからないこともあります!」
それらしい正論を述べるシエスはどこか嬉しそうだった。




