174話 ラグナ使い
何度も言うが四季は強い。
ミズキも強い。
シエスもポカをよくやるが強い。
この三人は現れる魔物を苦もなく蹴散らしていく。
十七階の魔物は今までより強いはずなんだがなぁ。
という事で俺は当然としてにゃっくも出番はない。
いや、にゃっくはキチンと自分の役割を果たしている。
俺のボディガードだ。
どっかのロボットは完全に忘れているようだが。
流石だな!にゃっく!
で、問題はこいつだ。
「おい、にゃん太郎。お前はいつまで俺の服ん中にいるんだ?」
俺の声が聞こえていないはずはないが、何の反応もせずじっとみんなが戦う姿を見ている。
優しくそのでっかい頭を突く。
なあに?
というような顔で俺を見た。
その愛くるしさから思わず頭を撫でてやる。
嬉しそうに喉を鳴らすにゃん太郎。
くそっ、めちゃくちゃかわいいじゃねえか。
って、そうじゃねえ!
「お前はプリシスの操縦以外に出来る事ないのか?っていうか、“重さ”があるぞ。お前は重力をコントロールできないのか?」
皇帝猫には重力を制御する能力がある。
空中歩行出来るのは重力を制御できるからだ。
同じ皇帝猫であるにゃっくは俺の右肩に乗っているが全く重さを感じない。
本当なら三、四百グラムくらいはあるはずだ。
気配すらも消し、頬に体毛が触れなれけばそこにいるのを忘れてしまう時がある。
俺の言葉が理解できたのか、にゃん太郎はもそもそと服の中から出てきてにゃっくと反対側の左肩に乗った。
そこまでは良かったのだが、様子を見てるとバランスが上手く取れずフラフラして危なっかしい。
で、肝心の重さだが全く変わらない。
こいつ、俺が「肩に乗れ」と言ったと思ったのか?
「もういい。危なっかしいし、肩がこるからやめろ」
今度は通じたようだ。
にゃん太郎は悲しそうな顔をすると、もそもそと俺の服の中に潜った。
って、そこ定位置かよ?
まあ、こんな状態じゃあ、危なっかしくて一人歩きなんかさせさられねえけどよ。
「なあ、にゃっく。にゃん太郎は皇帝猫なんだよな?」
にゃっくは小さく頷いたようだった。
「て事はやっぱり戦士タイプじゃないって事かぁ」
にゃっくは小さく頷いたようだった。
やっぱりかあ。
しかし、戦士タイプとそれ以外ってどう見分けんだ?
見た目じゃ全くわからんぞ。
「終わったよ」
「お疲れ。今回も楽勝だったみたいな」
シエスが不満を口にする。
「チトセ、ボク達が戦っている間、お喋りデスか。余裕デスね」
「まあな。お前らが強いから安心してられるぜ」
「チトセ、ここがダンジョンである事を忘れてないでしょうね?」
「お前も俺が護衛対象だという事、忘れてねえだろうな?」
「……」
「おい、こらっ!」
「……そういう話もありましたね」
「過去形にすんじゃねえよ!」
「あ、そういえばそんな話聞いたような気もするね」
ミズキ、お前もかよ。
まあ、当然だよな。
今まで全くそういう扱いされてなかったからな。
「進藤君て、実は大物だったのかな?」
「そんなんじゃねえよ。ただ、まあ、なんと言っていいのか……」
どこまで話していいのやら。
「俺はここで何かするのに必要らしい」
「らしい?」
「ああ、俺も詳しく説明されてねえんだよ」
「下っ端デスから!」
「うるせえよ!」
「心当たりはあるのかい?」
「なんとなくはな」
「もしかしてマナ、あ、魔粒子って言うのかな、のキャパシティが異常に高い事が関係してるのかな?」
「お前、わかるのか?」
「うん。以前会った時は全く感じなかったけど、今は別人みたいだよ」
「そうか?」
「うん。だから再会した時はまた化け物が化けてるんじゃないかって疑ってたんだ」
また、だと?
……まあいいか。
「シキ、あなたは魔粒子の量がわかるのデスか?」
「なんとなく、だけどね」
やっぱすげーな。四季は何でも出来そうだよな。
「俺はこの場所でしか出来ない強力な魔法を使うために呼ばれたんだと思ってる」
「……」
「どうした四季?」
「なんでもないよ。無理はしないようにね」
「ああ」
さっきの間がちょっと気になるが聞いても答えないだろう。
「という事で、シエス、お前暫く休め」
「何が、『という事』なんデス?」
「確かにいきなりだったね」
「ああ、わりい。ほら四季がパーティに入った事で戦力的に余裕が出来ただろ?今だって三人で戦う必要はなかったと思う」
「確かにね」
「それならば四季が休んでればいいデス!」
「いやいや、お前自分の状態ちゃんと把握してるか?」
「確かにね」
「うん、休んだ方がいいね」
「どういう意味デス?」
おいおい、マジかよ?
「体のあちこちから湯気が出ているぞ。結構無理してんじゃねえか?」
「……」
「四魔との戦いだって相当無理したんじゃねえのか?」
「しかし……」
「お前は戦うよりもっと重要な事あるだろ?」
「チトセの護衛デスか?」
「それもある。だが今は出来る限り早くキリンさん達と合流することだ。違うか?」
「……確かに」
「今は無理する時じゃねえ。戦闘で通信機が故障でもしたら大変だろ?」
「……わかりました」
ふう。
世話の焼けるロボット、いやアンドロイドだぜ。
「という事で暫く戦闘は四季とミズキに任せていいか?」
「僕は構わないよ」
「僕もね」
「サンキュー」
次々と現れる魔物を難なく斬り倒していく四季とミズキ。
うむ、二人でも全く問題なしだ。
いや、一人でも十分なんじゃないか?
ある部屋に入ると宝箱があった。
鍵はかかっていたがミズキが何やら取り出し鍵穴に差し込んだ。
盗賊が使う開錠道具だろうか。
暫く操作した後、カチャっと音がした。
「よし、開いた」
ミズキが宝箱を開けると中には向こうの世界の金貨、短剣、ポーションが入っていた。
金貨は数枚受け取って残りは全てミズキに渡した。
その代わり残りの短剣、ポーションをもらった。
四季は「必要ないよ」と言って何も受け取らなかった。
シエスの状態がまだ不安だったのでこの部屋で休憩を取ることにした。
「ミズキって鍵開け出来るんだね」
興味深々の表情を“作って”四季が言った。
俺にはその表情がつくりものだとわかる。
だが、興味があるのは本当だろう。
ミズキがその事に気付いているかはわからない。
「まあね。一人で行動する事が多いからある程度の事は自分で出来るよ」
「そいつはすごいな」
「ボクもできますよ!」
「いや、張り合わなくていいから」
「ミズキは本当にポーションいらないのか?結構強力な回復魔法がかかってるぞ」
ポーションのビンに貼ってあったラベルを読んだのはミズキだ。
効果はシエスから説明があり、失った手足でも一瞬で再生させる強力なものだった。
「僕にはラグナがあるからね」
「何?ラグナって回復にも使えるのか?」
「そうだよ。と言っても自分限定だけどね。他人の傷を治したりはできない」
「へえ、知らなかったぜ。じゃあ、例えば腕とか失っても再生とかするのか?」
「うーん、それはわからないなぁ。そこまでの怪我をした事がないからね」
「そ、そうか」
俺は腕だけじゃなく足も失ったみたいだけどな……。
そういや、ムーンシーカーの月見衝動はラグナで抑えられるって言ってたっけ?
回復能力の応用かもしれないな。
……あれ?
四季はムーシーカーなのに月見衝動見せないな。
たまたまか?
実は四季もラグナが使える?
だが、今までラグナを使ったところを見た事ねえな。
あの黒い剣が何か関係してるのか?
「あ、誤解したかもしれないから補足するよ。今の話はあくまでも“僕”は、だよ。ラグナを極めた者なら他人の傷も治せたり出来るらしいよ」
「そうなのか」
「いやあ、興味深い話だね。ミズキ、僕もラグナ覚えられないかな?」
「まだ強くなる気か?」
って、やっぱり四季はラグナ使えないのか。
「え?進藤君は強くなりたくないの?」
「そりゃ強くなりてえけどよ」
「カオル、それは難しいね」
「どういう事かな?」
「僕は生まれた時からラグナを使えたんだ。後から身につけるとなると方法は一つしか知らないんだけど……」
「難しいのか?」
「そうだね。方法はね、”ラグナの覚醒石“と呼ばれる宝石に触れる事だよ」
「触れるだけでラグナ使いになれるのか?」
「そうらしいよ」
「それが簡単じゃないと言う事は……」
「そう、その宝石はとても希少なんだ。しかも回数制限あってね、一定人数をラグナ使いにすると砕け散るんだってさ」
「マジか?」
「うん。ラグナ使いになった後なら助言はできるんだけどね」
「そうかあ……あ、でもこの運命の迷宮ならラグナの覚醒石を手に入れる事が出来るかもしれないよね?」
「そうだな。それにこの迷宮は”何でも願いが叶う“って言う話もあるし、それが本当なら直接ラグナ使いにしてもらってもいいよな」
「それはダメだよ」
「へ?ダメか?」
「だってそういうお宝を持ってればさ、それを奪いに来るものが現れたりしてワクワクしない?」
「しねえよ」
俺はビクビクするぜ!
かっこ悪いから口には出さねえけどな!




