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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
運命の迷宮編
187/247

173話 シエス、吠える!

「さあ!はっきりさせましょうか、シキカオル!」

「馬鹿野郎!戦闘中だぞ!時と場所を考えろ!」


 十七階へ降りてほっとする間も無く俺達は魔物と遭遇した。

 とはいえ、四季の強さはプリシスの比ではない。

 戦いはすぐに終わった。

 俺とにゃっくの出番はなし。

 にゃん太郎は……いうまでもないよな。



「さあ、シキカオル、ボクの質問に答えてもらいます!答え次第によっては強制排除します!」


 部屋にいた魔物を一掃したあとも戦闘態勢を解かず四季に詰め寄るシエス。

 対する四季は笑顔を絶やさずリラックスしている感じだ。


 シエスには悪いが四季が負ける姿は想像できない。

 あの剣の力はそれほど圧倒的だ。


「何だい?僕に答えられる事ならいいけどね」

「彼、余裕だね」

「いや、まあ、そうだな」


 ミズキはムーンシーカーの事をどの程度知ってるのだろうか。

 向こうの世界にもムーンシーカーのような症状を持つ者がいるのか。

 後でこっそり聞いてみるか。


「どうやってこの島に来たのデス?いえ、その前にどうやってこの島のことを知ったのデスか⁉︎」

「君達とは別の組織かな?仲間にならないかって誘われたときにこの島のことを知ったんだ。魔物が棲む島があるってね。そこにはRPGに出てくるようなダンジョンもあるって」

「それは何という組織デスか?」

「名乗ってたかなぁ……興味なかったし覚えてないよ。入るのも断ったし」

「ではどうやってこの島へ来たんデス?」

「ヒッチハイクで」


 俺ん時と同じ答えかよ。


「成る程、とボクが納得するとでも?」

「ダメ?進藤君は納得したけど」

「チトセとは違うのデスよ!チトセとは!」

「こら待て!俺だって納得なんてしてなかっただろ!」

「え?そうだったかな?」

「そうだ!」

「で、どうなんデス?」

「さっき話した組織にさ、『僕もその島に連れてって』ってお願いしたらOKしてくれたんだよ」

「そんな馬鹿な。普通組織に入る条件とかつけないか?」

「……いえ、ボク達を混乱させるための陽動に使えると思ったのかもしれません。上陸したのはあなただけじゃないのでしょう?」

「うん。上陸した後は別行動だからどこに行ったのか知らない」

「それを信じろというのデスか?」

「でも事実だよ」

「シエス、少なくとも四季はあの狂った連中の仲間じゃない。それは俺が保証する」

「……そうデスか」

「納得してくれた?」

「まだデス。一番大事な事が残っています。あなたはここに何をしに来たのデスか?」

「決まってるじゃないか。ダンジョンがあるなら攻略でしょ?最下層に行ってボスを倒す。それ以外に何があるのかな?」

「それは無理だ」


 気づけばそう呟いていた。

 その声は四季にも聞こえていたらしい。


「なんでそう思うのかな?」

「あ、いや、なんでって……」


 俺も知りてえよ。

 って言えねえしな……そうだ、


「地震がよく起きてるの知ってるか?」

「うん、そうらしいね」

「それはこの世界からダンジョンが消える前兆らしい。いや下手したら島自体だ。もうそんなに時間は残ってねえんだ。とても“地下百階”まで到達出来るとは思えない」

「このダンジョンは地下百階まであるんだ?」

「ああ、そうだよな?シエス」

「ボクは知りません」


 ……あれ?


「俺、シエスに聞いたんだじゃなかったか?」

「違います」

「じゃあ、ミズキ……」

「僕も言ってないよ。っていうか初めて聞いたよ」

「あれ?……悪い。なんかとごっちゃになったのかもしれねえ……ともかくだ、時間が少ないのは確かだから。特に目的がないなら俺達に構わず切り上げて島を出て行ったほうがいい」

「ちなみにこの世界から消えたダンジョンはどこに行くのかな?」

「さあな。元の世界に戻るのか、別の世界に行くのかだろうな」

「成る程。それはそれで楽しそうだね」

「楽しそうって、お前な、ここはレジャーランドじゃねえぞ」

「僕には刺激一杯の楽しいレジャーランドだよ」


 ……うん、こいつ、本気で言ってるな。



「シエス、四季への質問は以上でいいな?」

「……とりあえず、デス」

「よし、ちょうどいいからここではっきりさせようぜ」

「何をだい?」

「もちろん今後の事だ。俺達は十七階へ降りるために組んだパーティだがすでに目的は達成した。で、この後も一緒に冒険するか、別れるかを決めようぜ」

「なるほどね。僕はもうしばらく一緒に冒険したいかな。あ、僕の目的を話してなかったね。って言っても普通の冒険者、で通じるかわからないけどお宝探しだよ。けど目当てがあるわけじゃないし、君達の邪魔はしないと約束するよ」

「いいのか?このままダンジョンにいると……」

「大丈夫だよ。僕はもともと君達の世界の住人じゃないからね」

「助かる」

「僕もしばらく一緒に行動したいかな。たまにはパーティ組んで冒険も面白そうだし、十六階のような仕掛けがあると面倒だし」

「サンキュー、四季」


 よし、これで俺は楽できるぞ!


「じゃあそろそろ行……」

「ちょっと待ってください!」


 またかよ……。


「彼らを仲間に加えるには条件があります!」

 

 あー、メンドくせえ。


「何だよ?」

「シキカオルがパーティに入る事で看過出来ない状況になりました!」


 シエスがとても真面目な表情で言った。


 あ、こいつ、ろくなこと言わねえぞ。


「何かな?」

「キャラ被りデス!」


 やっぱりな。


「キャラ被り?」

「シキカオル!あなたがこのパーティに入る条件は“僕”言葉をやめることデス!」

「彼、何言ってるの?」

「あー、ほっといていいから」

「今、このパーティには自分の事を“ボク”と呼ぶのがボクだけでなく、ミズキ、そしてシキと三人になってしまいました」

「ああ。そういう事ね」

「いい機会です。ミズキ、あなたにも“僕”言葉を辞めてもらいます」

「何で僕まで……」

「そうデスね……あなたにはこれから自分の事を話す時は“あたい”にしてもらいます!そしてシキカオル、あなたは“ワシ”デス!」

「ちょっと勝手に決めないで欲しいな!それにそんな簡単に変えられないよ」

「僕も流石に“ワシ”は言いにくいかな」


 明らかに悪意がこもってるな。


「お黙りデス!」

「大体なんでシエスは“ボク”のままなのさ?不公平じゃないか」

「ボクに性別はありません。中性なのでボクが合ってるのデス!」


 ああ、確かに最初は男だったな。今はシエ・ツーの体だから女になってる。っていうかアンドロイドに性別は関係ないか。


 俺には、にゃっくにもか、すげーどうでもいい事で一時間ほど言い合いをしていたが平行線をたどり、結局今まで通りとなった。



「チトセ」

「ん?」

「もっと早く聞きたかったんだけどさ、どうしてプリシスを失ったんだい?」


 やはり聞くか。

 まあ、俺だってそっちの立場なら聞くよな。


「対戦相手が変わってて慌てたのかい?」

「いや、最初は順調だったんだ。倒す時間が決まってなければ余裕だった」

「それ、もしかして四魔が突然強くなった、とか?」

「⁉︎ミズキ!もしかしてお前んところもか⁈」

「うん。僕の相手はダンジョン・ビャッコだったんだけど、六、七分くらい経ったところで急に強くなったんだ。ま、それでも僕の敵じゃなかったけど」

「俺達のところもそれくらいで急に強くなった。油断してたところをやられた」

「だらしないデス!」

「お前は大丈夫だったみたいだな。一番最初に倒したみたいだし」

「当然デス!にゃんダムの名は伊達じゃありません!」

「そうかそうか」

「ボクの相手はダンジョン・ビャッコではなくダンジョン・スザクでした」

「ほうほう」

「未知の相手でしたがボクの敵じゃありませんでした!この右腕の”サイコウガン“一発で倒してやりましたよ!」

「そいつはすげーなー」


 全部聞き流そうとした。次の言葉を聞くまでは。


「あまりに弱すぎて四分ほど余ったくらいデス!」

「そうかそうかそれはよかっ……ん?」

「……あれ?」


 にゃっくがシエスを睨む。


「……ちょっと待てシエス」

「なんデス?」

「十一時十分頃に倒すって約束だったよな?」

「……」

「それなのに今の話だと十一時六分くらいに倒したって事になるぞ」

「四魔が強くなった時間と一致しないかな?」

「ぐ、偶然デス!」

「そう言えば水晶玉の鍵の効果が切れるのちょっと早くなかったか?」

「き、気のせいデス!」

「んなわけあるかっ‼︎やっぱりか!やっぱりお前か!」

「し、失礼デス!ボクは何も悪くありません!」


 この野郎!


「し、しかしまさか四天王システムを採用しているとは……やりますね、運命の迷宮!」

「強引に話を変えようたってな……」

「何だいその四天王システムって?」


 四魔との戦いには全く関わっていなかったので聞き役に徹していた四季が疑問を口にする。

 四季の質問だから無視するかと思ったが話を逸らすチャンスと見たからか、あるは単に説明を聞いて欲しかっただけか、恐らく両方だろうがシエスは嬉々として答える。


「四天王システムとは四天王の誰かが倒れれば残りの四天王が強くなるシステムの事デス!」

「どういうこと?」

「よくわからんぞ」

「ロールプレイゲームでよくある事デス。最初に現れる四天王と最後の四天王では強さが天と地程の差があります」

「ああ、確かに。昔やったゲームじゃ最初の四天王って最後の四天王の居城に現れるエンカウントモンスターより弱かった気がするな」

「そのシステムがこの運命の迷宮に採用されていたのデス!」


 ほんとどうでもいい知識持ってるよな、こいつ。


「つまり、シエスが四魔を倒した事で残りの四魔が強くなったと言うことかな」

「それだと俺達が相手にした四魔が一番強かったって事か?」

「そういう事になるね」


 やっべー、メチャクチャヤバかったんじゃないか!

 よく勝てたよな!

 前もってダメージをたくさん与えてて良かったぜ!


「しかし、チトセ、これで三体目デスね」

「何がだよ?」

「破壊した数デス。プリンセス・イーエス、ボク、そしてプリシス!」

「ちょっと待て!勝手な事言うな!」

「もはやチトセはボク達の天敵と言っても過言じゃないデス。ああ、ついでに三号機も追加しておきましょう」

「ふざけんな!三号機は飛ばしただけだろ!それにプリシスはお前が四魔を早く倒したせいだろ!」

「……記憶にございません」

「お前はどこぞの政治家か!」



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