168話 その手、誰の手?
その時の思いつきだけで書いてるのでつじつまが合わないとこがありそうですが、もう少しなのでこのまま突っ走ります。
今更ながらに自分の体の変化に気づた。
外見的な変化じゃないぜ。
具体的にいうと左腕だ。
左腕はこのダンジョンで失った部分だ。
右足(足首から下?)も失ったはずだがこっちの違いはわからん。もともと繊細な動きなんかしないからかもしれない。
気づくキッカケはアディ・ラスの二重掛けだった。
大幅に強化された事で以前との違いに気づいたんだ。
左手を握ったり開いたりする。
既にアディ・ラスの効果は切れているが意識するとその違いがはっきりわかる。
利き腕は右なのだが、今はどちらでも同じように動くのだ。
文字は流石に右手と全く同じとはいかないだろうが、それなりに書ける気がする。
動きは長年の経験から得るものの筈だ。
それがポーションで獲得できるものだろうか?
向こうの世界には経験値が上がるポーションがあるかもしれない。
しかし、仮にあったとしてもこれは違うだろう。
魔王が俺の体を使った事による副作用だ。
恐らくだが、魔王は左利き、または両利きなのだろう。
再生した手足は魔王の経験を引き継いでしまったんじゃないだろうか?
どんどん自分の体が自分のものじゃないものに変わっているようだ。
「困ったもんだぜ」
「はい?」
「いや、なんでもねえ。先を急ごうぜ」
ドアを開けると中から、ゲロゲローン、という妙な鳴き声が聞こえた。
「魔物デス」
「わかってる」
魔物は四体。
見た目はカエルだ。大きさはざっと二メートルはありそうだ。
名前は、……分からん。
少なくとも“ここどこ戦記”には出てきてないな。
この部屋の奥が階段じゃなければドア閉めてさっさとこの場を去る所だ。
「アディ・ラス」
全身を強化魔法が包む。
その効果は基本能力に比例する。
鍛えていればいるほど強力なる。
右手で抜いた短剣を左手に持ち替える。
軽く振ってみる。
やっぱり違和感はないな。
普通に使いこなせそうだ。
……いや、違う。
右手で扱うよりしっくりくる。
まるで手慣れた獲物のようだ。
「来ます」
「やるか」
丁度いい。
自分の体がどうなってるのかカエルどもで試してやるぜ!
しかし、俺の出番はなかった。
にゃっくもシエスも強いからな。
結局、一度も短剣を振るうことなく、そっと鞘に戻した。
ま、戦わない事に越したことはないよな。
うむ!
十五階に降りると、ミズキとプリシスが待っていた。
「やっと戻ってきたね」
「おまわりさん、ここです」
「あ、心配させちゃったか。悪かったな。でも問題は片付いたぜ」
「問題?」
「あの絡んできたパーティだよ」
部屋に戻るとミュートとの事を簡単に説明した。
「……なるほど。つまり君はルシフを倒す力を持ってるんだね?」
「倒したのはにゃっくだって。俺は手を貸しただけだ」
「謙遜しなくていいよ。僕だってルシフを倒した事はあるよ。だけどコアの場所なんかわからないから結構苦戦したんだ」
「そうなのか。って軽く言ったけどルシフを倒せるなんてお前もすごくねぇ?」
「自慢デス!この女自慢してます!」
「つうほうしました」
「うるせえよ」
「はははは。ほんと君達面白いね」
「俺は疲れる」
「ははは。でもね、やっぱり君の方がすごいよ。ルシフにコアがある事は知られているけどそれを見ることが出来る魔法使いなんてそうはいないよ」
「そうなのか?」
「ボクの情報でもそうデス。チトセの魔法は非常に希少デス」
「……君さ、ずっと僕とパーティ組まない?」
「ミズキの性欲の急上昇を確認、デス!」
「な……」
「マジで黙れ。まったくお前は……」
俺の言葉を中断させたのは地震だった。
大きい。
震度五はありそうだ。
「……収まりましたね」
「今のはダンジョンがシャッフルされたってわけじゃないよな?」
「違うよ。間違いなく地震だよ」
ただの地震か、あるいは“世界”がこの島を排除しようとしているのか。
恐らく後者だろう。
「もう時間がないのかもな」
「ん?チトセ、それはどういう意味かな?」
「あ?ああ、この島の存在をこの世界が嫌ってるって話さ」
「この世界?この世界の神がって事かな?」
「わからん。だがどっちでも同じだろ?」
「まあ、そうだね」
さっさと要件済まさないとまずいことになりそうだ。
……って、
「おい、シエス!帰宅予定を確実に過ぎてるよな!家族が心配してると思うんだ。下手すると捜索願い出されてるかもしれねえ!なんとか連絡取れねえか⁈」
「それは大丈夫デス」
「何?」
「こんな事もあろうかとご家族には研修が伸びている事をメールで連絡しているはずデス」
「何?メール?誰が?」
「それはチトセが知る必要はありません。ともかく任務に集中してください」
「なんか納得いかないが、まあいい。さっさと終わらせてさっさと帰ろうぜ」
次の日、俺達は十六階攻略に向かった。
四魔を倒しに行く時、単独行動になるのは危険だったが他に手はない。時が経てばまた邪魔するパーティが現れるかもしれないし、それ以上にもう時間は残されていない気がした。
四魔の強さはわかっている。
往復さえ気を付ければ問題ない。
そう思っていた。
だがその考えは甘かった。




