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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
運命の迷宮編
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165話 狂信者

 俺は間違いなく頭のネジが数本飛んでる魔法使い、ミュートと共に十四階へ来ていた。

 俺に見せたいものがあると言うのだ。

 にゃっくは止めたが俺は付いていく事にした。

 罠の可能性は高い。

 だが、それよりも好奇心が勝った。


 ミュートが左腕に包帯をしているのに気づいた。


 出会った時からしてたか?

 ……わからん。

 パーティと戦闘した時に怪我したのかもしれんな。

 どちらにしても魔法使いなら回復魔法で、持ってなくてもポーションで治せるんじゃないのか?

 ポーション買うくらいの金はあるだろう、

 と思ったが聞かなかった。



「ここが十四階か」

「どうかされましたか?」

「いや、なんでもない」


 俺に十四階での記憶はない。

 ちょっとだけワクワクしていたがすぐに冷めた。

 他の階と別段珍しいものはなかったからだ。

 何度か魔物と遭遇したが、ミュートは強かったし、にゃっくもいるので俺の出番はなかった。

 とはいえ、俺もただついて行ってるわけじゃない。

 すぐに対応できるようにアディ・ラスはちゃんとかけてるぜ。


 ミュートは魔物達を俺の知らない攻撃魔法で難なく片付けていく。

 向こうの世界の人間であるミュートは当然EMUを持っていないが、なくても問題ないようだ。

 下の階へ降りる度に魔粒子の濃度が濃くなっている気がしたが、それは正しかったようだ。


 ここまで降りればEMUなしでも魔法が使えるってことか。

 ……いや、待てよ。

 もう地上とさえ通信できないんだからEMUも使い物にならないんだっけ?

 俺、持ってねえからわからんな。

 ともかく本当の魔法使いなら、呪文を覚えている魔法使いなら問題なく魔法を使えるってことか。

 ……にしてもあれ程バンバン魔法使えるほど魔粒子多いか?


 ミュートの持つ魔法で役立ちそうなものがあれば覚えてやろうと考えていたのだがそんなに甘くなかった。

 魔法使いは脳に呪文が刻み込まれており、魔法を使うときは魔法名を叫ぶだけでいい。

 わざわざ呪文をフルで唱える必要など全くない。

 呪文を唱える利点として魔粒子消費を抑えることができるが、簡単な魔法でも呪文は長すぎて必要なときにすぐ使えないからそんな事する奴はいない。


 ミュートは魔法だけではなかった。

 魔物に接近を許した時、黒い鞭をどこからか取り出して敵を絡め、そのまま吸収した。


 ……あの鞭、まるで生きてるみたいだな。

 にしてもあんま気持ちのいい武器じゃねえな。

 嫌なものを思い出すぜ。



 ミュートが向かっていたのは比較的大きな部屋だった。

 床は血に染まり、人の腕らしきものが転がっていた。

 イレイムによる掃除がされていないところを見ると戦いからそんなに時間は経っていないのだろう。


「もしかして来るのが遅かったか?」

「え?……ああ、ソレですか」


 ミュートは俺の視線の先にある腕を見て、言葉の意味を理解したようだ。


「いえいえ、関係ありません。指の形からしておそらくバーカンのものでしょう。申し訳ありません。早くあなた様にお会いしたくて片付けに手を抜いてしまいました」

「てことはここで仲間を殺したのか?」

「はい。あ、でも誤解しないでください。彼らは仲間ではありません。あくまでもこの運命の迷宮の深層へ向かうために手を組んだだけです」

「俺達に鞍替えするから不要になったか?」

「手厳しいですね。でもまあそう考えてもらってかまいません」


 ミュートは全く罪悪感も感じさせぬ飄々とした表情で言い切った。


「で、見せたいものってなんだ?特に珍しいものはなさそうだが」

「はい。見せたいものは……これです」


 ミュートはそういうと左腕の包帯を取った。

 その腕は黒く染まっていた。

 ドス黒く染まったその腕には見覚えがあった。


「……黒竜か」

「そう!その通りで……はい?」


 ミュートが困惑した顔を見せる。


 うむ、やはりこのネタは通じないか。

 いや、乗られても困ったけどな。

 って、じゃあなんでこんなこと言ったんだ、俺?


「……」

「ああ、悪い。ルシフか」

「そうです!その通りです!」


 俺の言葉に歓喜の声を上げるミュート。

 最初の黒竜ネタはなかった事にしたようだ。


 うむ、俺も助かる。


「私は世界再生のためにこの身を捧げたのです!この腕にはルシフの細胞が埋め込まれているのです!」


 俺の中の“俺の知るはずのない記憶”からソレがどんなに危険な行為かわかった。


 ホント冗談言ってる状況じゃないぞ。


「お前、わかってるのか?ルシフは制御できない。細胞は全身に回りやがてお前自身も食われるんだぞ」

「知っております。そう遠くない未来に私は人ではなくなり、自分の意志もなくなる事でしょう。でも本望です!本望ですとも!私はルシフの力を借りて人間を、全ての人間を消し去りたいのです!」


 うわー、こいつの抜けてるネジ数本どころじゃなかったぜ。


 ミュートの表情が人間を皆殺しにしたい理由を話したがっていたが聞かなかった。

 理由に興味はなかったし、聞いたところで納得するとも思えなかったからだ。


 いるんだよな、こういう思い込みの激しい迷惑な奴。

 死にたいなら止めねえから人の迷惑にならないところでこっそり死んでくれよ。

 と、言いたかったが口にしたのは別の事だ。


「ということはお前、遅かれ早かれ仲間を殺す気だったんだな」

「当然です!人間は滅びなくてはならないのです!特にあのような自分の事しか頭にない奴らは生きていても百害にしかなりません!」


 お前が言うなよ。

 うーむ、完全に目がいっちゃってるな。

 てか、目、赤く染まってないか?

 間違いない。

 さっきよりルシフ化が進んでいるぞ。


「おい、落ち着け。首までルシフ化してるぞ」

「え?……ああ、そうですね。申し訳ありません、つい興奮してしまいました」


 俺は困惑していた。

 こいつがいつルシフになってもおかしくない程危険な存在だとわかった、からじゃない。

 黒い鞭を見た時にそうじゃないかと思っていた。

 それよりも事実を知っても恐怖も焦りも感じなかった事だ。



「じゃあ、見るもの見たし、そろそろ帰るわ」

「……」


 ん?

 体が動かない?

 床が薄っすらと光ってる?


 どうやらミュートが仕掛けていたトラップにはまったようだ。

 いつのまにかミュートの手にはバーカンの腕が握られていた。

 その指にはめられた指輪の一つが光っている。


 あの野郎、何が片付けるの忘れた、だ。

 床の血の汚れもトラップを発動するための仕掛けの一つだったんだろうな。

 てことは奴のパーティはこのトラップを作るための贄にされたんじゃねえか?


 俺の肩に乗ってるにゃっくは動かない。

 本当に動けないのか様子を見てるのか不明だ。

 様子見てるだけだって信じてるぞ。



「本題はここからです。我が王よ!」

「“我が王”、お?口はきけるんだな。お前、王とか呼ぶわりに扱いが酷いな、おい」

「私が王と崇めているのはお前ではない。お前の中にいる方にだ!」

「俺、男だけど?」

「……」


 うむ、やはり冗談は通じないか。

 って、こんな時に言う事じゃないよな。

 さっきから何言ってんだ俺?


 俺の冗談で奴のルシフ化が一気に頬の辺りまで進んだ。


 うむ、作戦成功だ。

 本当か?


「お前さ、俺の中に誰がいるって言うんだ?王じゃわからんぞ」

「……」


 おー、睨んでる睨んでる。


「……確かにお前の言うことも一理ある」

「だろ?」


 ミュートはゆっくり息を吸う。

 そして狂気を秘めたいかれた目で俺をじっと見つめると、


「ルシフの中のルシフ、全てのルシフを統べるルシフの王、ファル・シーガ様!私はあなた様の忠実な僕です!この者よりも私の方が間違いなくあなた様のお役に立ちます!ぜひ私の中にお入りください!そして共に人間を滅ぼしましょう!」


 ……ファル・シーガ?

 こいつ、間違えてやがる。

 思いっきり相手間違えてやがる。

 俺は魔王の名を知らない。

 だが、その名ではない事だけは断言できる。

 何故なら、その名は魔王の眷属の名だからだ。

 なぜ知ってるかって?

 それは”俺の知るはずのない記憶”の中にその名があったからだ。


 眷属ってまあ、平たく言えば部下って事だろ。

 魔王さん、自分の部下と間違えられてるぜ!

 ウケるぜ……って、ちょっと待て!

 部下にルシフの王がいるのかよ!

 じゃあ、ルシフは魔王の部下って事にならないか⁈


 ……魔王!お前、やっぱ命狙われて当然だぜ!


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