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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
運命の迷宮編
177/247

163話 脅しだろ

 前方で動くものがあった。

 姿はアメーバのようだ。薄い赤い色をしており、地面を這っている。


「敵っ⁉︎」


 だが、身構えたのは俺だけだった。


「チトセは見るの初めてでしたね」

「何?」


 周りの態度から敵ではないとわかったが、不安は消えない。


「なんなんだ?」

「アレはイレイムだよ。いわゆるダンジョンの掃除屋。こちらから攻撃しない限りに何もしないよ」


 掃除、って普通の掃除じゃないよな。


「もしかして魔物の死体とか片付けるのか?」

「魔物、だけじゃないけどね」


 ああ、そうだな。

 アレが定期的にダンジョンを掃除するから魔物の死体が散乱してたり腐臭が漂ったりしないんだな。


「イレイム、だっけ、あれはダンジョンに必ずいるのか?」

「必ずじゃないよ。いる方が少ない」


 俺達はイレイムの仕事を邪魔しないようにそばを通り過ぎる。


「こいつ、俺達をどうやって判断してんだ?動いてるからか?」

「多分ね。詳しくは知らない」


 イレイムは“ゴミ”を飲み込んだ後、ソレを消化するのか、どこかへ運ぶのか。

 コイツの後を追った物好きがいたそうだが、そのまま戻ってこなかったらしい。

 話をしたミズキも聞いた話らしいので本当かはわからない。



 十五階へ登る階段近づき、後ちょっとという所にそいつらはいた。

 四人組のパーティ。

 服装から判断すると向こうの世界の住人だ。

 もしそうならこのダンジョンと一緒に転移させられてきた者達だろう。


「お疲れ様」


 リーダーらしき者、見た目だけで判断するなら完全に悪党、が労いの言葉をかけてきた。


「そんな悪党ヅラで言われてもね」


 おおっ、ミズキ、ズバッと言っちゃったな。

 実はいい人で本心から言った可能性だってあるだろ?


「ははは、言ってくれるじゃねえか、ミズキ」


 ん?


「知り合いか?」

「さっきまで忘れてたんだけどね。というか一生思い出したくなかったね」


 ミズキは言葉、態度どれを取っても嫌悪を隠す気はない。


「話なら後にしてくれないか。早く休みたいんだ」

「何勝手に口出してんだ!うちのリーダーはミズキと話があるんだ!」


 後ろにいた一人が俺を睨む。

 

 ……戦士、いや、盗賊ってところか。

 魔法は使えないな。武器には魔法がかかってるか。

 とはいえ、俺のアディ・ラスを貫通する程の威力はない。

 一対一なら負けないな。

 ……って俺、何分析してんだ?


「えーと、バカ、だっけ?僕の方も言わせてもらうよ。このパーティのリーダーはチトセだ。話なら彼を通してほしいな」

「だ、誰がバカだっ!俺はバーキンだ!」

「うるせえ」

「す、すんませんっ!」


 リーダーに叱られ俺に逆恨みの目を向けるバカ。

 いや、バーカン?どうでもいいや。


「じゃあ、リーダー、チトセだったか。お前に相談があるんだが」

「それ、今、ここで話す必要があるか?宿屋とかでいいんじゃないのか?」

「他の奴に知られたくない」

「冗談だろ?ここ階段のすぐそばだぞ。ヒソヒソ話する場所じゃないだろ」

「「「……」」」


 俺の正論は相手パーティ全員の反感を買ったようだ。

 いや、全員じゃなかった。

 一人だけ俺と目が合うと怯えた表情をして慌てて目を逸らした。


 気の弱い奴だ。こんな所まで来られる力があるんだから相当レベル高いんじゃないのか?

 周り助けられただけなのか。

 ってどうでもいいか。


 まあ、こいつらがここで話をしたい理由は考えなくてもわかる。

 交渉決裂した時に無理矢理にでも言う事を聞かせるためだ。

 宿屋のある十五階は戦闘禁止だからな。


「チトセ、ちょっとだけ時間をくれ。俺の仲間は短気でな」


 いや、あんたが一番短気そうだぞ。その握り拳、どっか殴りたいだろ?


「じゃあ、一分」

「……お前、いい度胸してるな」


 お、本性の一端が見えた。


「で、相談て?」

「……俺達と手を組め」

「俺達にメリットは?」

「水晶玉を手に入れて終わりじゃないだろ。その後でヤラレたら意味がない。だろ?」


 意味ありげに凶悪な笑みを浮かべるリーダー、とバカ。


 それは俺も考えていた。

 確かに俺達は四魔を倒す目処はたった。

 しかし、戦いはそれだけじゃない。

 四魔の元へ向かう、倒した後扉のある中央に向かう。

 ここまでをほぼ一人で対応しなくてはならないのだ。

 十六階へ行けるのは四魔を倒した者じゃなく、水晶玉を扉の前に持ってきた者なのだ。


「なるほど。で、その護衛をしてやるから分け前をよこせか?」

「そういうことだ」

「ちなみにいくらほしいんだ?」

「ここで金な訳ないだろ。そうだな、水晶玉を二つ貰おう」

「二つもか」

「悪い話じゃないだろう、全部取られるよりはな」


 このやろう。

 話を断ったら、四魔を倒した後で襲って奪うって言ってんだよな。

 こんな脅しをかけてくる奴らだ。本当に二つで済むのかも怪しいぜ。


「即答はできないな」

「俺達は今、答えがほしいんだ」

「じゃあ、他を当たってくれ」

「……どうやらお前にはもう一つの交渉の方が効果がありそうだ」


 敵のパーティが敵意を露わにする。

 バカが舌舐めずりをして俺を見る。

 

 これから戦いになるだろう。

 今度こそ、直接人を殺してしまうかもしれない。

 だが“そんな事”よりも、人殺しをそんな事で済ませてしまえる程、今の俺の心は怒りに染まっていた。


「一つ聞いていいか?」

「なんだ?命乞いか?」

「ははは、面白い事を言う」

「何だとっ⁉︎」

「俺達は一人で四魔を倒す力がある。それは知ってるな?知ってるから手を組もうと言ってきたんだろ?」

「ああ」

「一方のお前達はそれができるか甚だ疑問だ」

「な、なん……」

「黙れ、バカ。まだ俺の話は終わってない」


 俺の言葉に激怒し、すぐにも切り掛かって来そうな勢いだったバカを仲間の一人が止める。

 さっきから俺を避けるような行動をしてた男だ。

 その行動が予想外だったのか、驚いた顔でその男を見るバカ。


 俺達、いや俺を手助けするような行動に出る男の意図はわからないが静かになったので話を続ける。


「自分達で四魔すら倒す力のない、下等生物であるお前達がなんで俺達に勝てると思うんだ?」

「下等生物だとっ!」

「……言ってくれんじゃねえか、口だけ男」

「そうだ!全て知ってんだぞ!テメエだけ何もしてねえじゃねえか!」

「……」

「確かに俺達は一人で門番野郎を倒すのは厳しい。だがな、人には向き不向きがあるんだよ」

「……ほう」

「俺達は魔物より人間って奴を相手にするのが得意なんだよ」


 ……人間?


「なあ、ミズキ。俺達の中に人間いたか?」

「酷いな、少なくとも僕は人間だよ……君はちょっとわからなくなってきたね」

「俺?」


 あ、そうだな、俺は人間だよな。何でカウントしなかったんだ?

 ……まあいいか。


「もういいぜ。聞きたいことは聞いた。始めるか?」

「ああ」


 リーダーが答えると同時に右腕を挙げる。

 が、何も起こらない。


「どうしたっ!ミュート⁉︎魔法はまだかっ⁉︎」

「リ、リーダー!ミュートがいません!」

「何っ⁉︎」

「一人さっきコッソリ帰って行ったぜ」

「なっ……」


 動揺を全く隠さない敵パーティ。

 思わず演技じゃないかと疑ってしまうほどだった。

 魔法使い?の逃亡で勝機はないと見たらしく、捨て台詞もなく逃げていった。

 その逃げ足の速さは称賛すべきものだった。


「……敵の撤退を確認、デス」

「早く宿屋に帰って休もうぜ」



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