160話 四魔
「ミズキ、四魔の事を教えてくれないか?」
「ん?ヨンマ?」
「あ、ああ悪い。十六階を守る四体の魔物の事を四魔って呼ぶことにしたんだ」
シエスがな。
シエスはどこか誇らしげな顔をしている。
「なるほど。わかったよ。僕も四魔って呼ぶことにするよ。で四魔の説明だったね」
「ああ」
「四魔は東西南北に配置されているんだ。これは迷宮がシャッフルしても変わらない」
「それは助かるな」
「で、こいつらに名前はない」
「じゃあ、今までどう呼んでたんだ?」
「僕は東西南北にいるから単純に北の魔物、南の魔物、って呼んでる。ま、大体みんな同じような呼び方してるね」
「名前がないってことは四魔はここでしか出現しないのか?」
「少なくとも僕は見たことはないよ。この十六階を守るために作られたのかもね」
「有り得るな。倒されても復活するんだもんな」
「どうやらまたボクの出番、というわけデスね」
「どういう事?」
「魔物に名前でもつけるんだろ。さっきの四魔みたいにな」
「ふうん。名前つけるのそんなに楽しいかい?」
「俺にはよくわからん」
「確かにチトセのセンスではそうでしょう」
「つうほうしました」
「なんだと?」
「つうほう……」
「だからお前じゃねえ」
あ、プリシスの頭がちょっと下がった。
ヘコんだか?
「まあまあ、そのゴーレム、プリシス?に乗ってる子も悪気があるわけじゃないし」
「それはそう……ん?ミズキ、プリシスの事わかるのか?」
「どういう意味だい?」
「いや、ゴーレムって。その、人だと思わなかったか?」
「チトセ、僕をバカにしてるのかい?」
「あ、いや、そういうわけじゃないが、ほら、こいつ、見た目は人そっくりだろ?」
「見た目はね。でも気の流れを見れば生命体か、そうでないかわかるだろ?」
「そうなのか?」
「……本気で言ってるかな?」
「はっきり言うぞ。本気で言ってる」
「……うん、僕は君達を買い被ってるのかもしれないと思い始めてきたよ」
どうやら今の言動で俺の評価はぐっと下がったようだ。
シエスが俺にだけ見えるようにぐっと親指を立てた。
何がグッジョブだ!ワザとじゃねえよ!
「話が逸れたな。で四魔ってどんな奴なんだ?どんな能力を持ってんだ?」
「それはね……」
「待って下さい」
「どうした?」
「百聞は一見にしかず、と言います」
「いや、情報収集は必要だろ。普通に」
「それにミズキの情報を鵜呑みにしては危険デス!」
「僕が嘘をついているとでもいうのかな?」
「おい、シエス!」
「……そうだね、じゃあお手並み拝見といこうかな」
くそ、ミズキの奴、機嫌悪くしちまったじゃねえか!
俺は楽して勝ちたいぞ!
死んだら終わりなんだからな!
「こいつのことは無視して俺にだけでも教えてくれよ」
「チトセ、情けなさ過ぎデス!だから玉無しと呼ばれるのデス!」
「なんだと!誰がそんなこと言ってんだよ⁉︎ぷーこか?ぷーこだな⁉︎ぷーこの野郎!」
くっそー、結局情報入手できなかったじゃないか!
十六階へ降りた。
通路は北と西に伸びていた。
「どっちだ?」
「どっちでもいいよ。とにかく端に行けば魔物の部屋に着くよ」
「結構いい加減だな」
「迷路がシャッフルされるからね。意味ないんだよ」
「成る程」
確かにここは迷路が変わるんだったな。困ったもんだぜ。
あ、俺達もシャッフルさせたんだっけ。
やったのは魔王だけどな。
と言うことはミズキの邪魔をしたかも知れんな。
十六階に現れる敵はどれも強そうだった。
だった、というのは俺が動く前にシエスとミズキが倒してしまうからだ。
敵の動きから判断しても素の俺では間違いなく避ける事もできないだろう。
ミズキの強さは本物だな。
腰に二本の剣を装備しているから両刀使いだと思っているが、今のところ右の剣しか使っていない。
それもまだまだ余裕に見える。
にしてもシエスは何ムキになってんだ?
ミズキへの対抗心が見え見えだぜ。
感情的で本当に心を持ってるみたいだ。
最初に出会った四魔はミズキが北の魔物と呼んでる奴だ。
テニスコート二面程の大きな部屋の中央にどっしりと構えていた。
見た目は亀だ。ただしサイズは段違いだ。
甲羅だけでも五メートルはあるだろう。
「弱点は甲羅から出てる部分ってところか」
「どうだろうねえ」
まだ根に持ってんな。
俺は関係ないのにいい迷惑だぜ。
「チトセ、以後この魔物をダンジョン・ゲンブと呼称します!」
「ああ、お前ならそんな名前つけると思ったぜ」
北の魔物、ダンジョン・ゲンブは俺達の存在に気づいているはずだが攻撃してくる様子はない。
その場をじっと動かないのだ。
「ちょっと拍子抜けだな。すぐに戦闘になるかと思ってたんだが。他もこんな感じか?」
取り敢えずアディ・ラスをかけるのをやめる。
「まさか。この魔物だけだよ。戦う気全くないのは。他の魔物は好戦的だよ。いきなりブレスをはいてくるのもいるよ」
「ブレス?そいつドラゴンなのか?」
「あ、ごめん口が滑ったよ。見てのお楽しみだね」
ミズキは楽しそうに笑った。
「俺は口が滑りまくっても全然構わんぞ」
「ふふ、で、どうするんだい?」
「戦うに決まってます」
「シエス?」
「ただ姿見て終わりでは来た意味がありません」
「まあ、そりゃそうだがよ」
無害そうな魔物を退治ってちょっと気が引けんだよな。
とはいえだ、そんな事言ってたらこの先に進めねえか。
「わかった。どうする?一度に仕掛けるか?」
「ボク一人で十分デス!」
「おまわりさん、ここです」
「うん、じゃあ、俺達はここで待機してるぜ」
「すぐに終わらせます」
そう言ってシエスがダンジョン・ゲンブに向かって歩き出す。
「アドバイスはいるかい?」
「不要デス!」
シエスはダンジョン・ゲンブ手前数メートルで立ち止まった。
「ダンジョン・ゲンブよ、あなたに恨みはありませんが、先に進むため倒させていただきます」
ダンジョン・ゲンブが気だるそうな目でシエスを見た。
シエスが右腕の肘から下を外し、最高の銃を構える。
お、言った通り速攻で勝負を決める気だな!
ダンジョン・ゲンブがシエスに向かって歩き出すが、シエスのほうが早かった。
ビウィーン!
右腕の銃から放たれたビームが狙い違わず甲羅からむき出しの頭部を直撃した。
頭を失ったダンジョン・ゲンブの手足から力が失われ、ドオオン!と甲羅が地面にぶつかる音がした。
「ざっとこんなものデス!」
勝ち誇った顔を見せるシエス。
だが、
「まだ終わってないよ」
「……なんデス?」
振り返ったシエスは衝撃を受け壁まで飛ばされた。
「シエス!」
何が起こった⁉︎
今のは……尻尾?
そう、シエスはダンジョン・ゲンブの尻尾の攻撃を受けたのだ。
「バカな!死んだんじゃなかったのか!……って頭あるじゃねえか!再生したのか⁉︎」
ダンジョン・ゲンブは何事もなかったかのようにゆっくりとシエスに向かって歩き出す。
シエスはどこか故障したのかすぐに立ち上がることができない。
「くそっ!にゃっく!プリシス!行くぞ!」
「待ちなよ」
「ミズキ?」
「うん、シエスの強さはわかったよ。予想通りかな。ちょっと爪が甘かったけどね。ここからは僕が手本を見せるよ」
そう言ってミズキがダンジョン・ゲンブに向かって走り出した。
ダンジョン・ゲンブがミズキに顔を向ける。
攻撃目標をミズキに変更したようだ。
「こいつはね、攻撃する順番があるんだよ!」
そう言うとミズキは同時に二本の剣を抜いた。
「まずは右手!」
そう言って、ダンジョン・ゲンブが振り上げた右の前足を手にした剣であっさりと切断する。
ダンジョン・ゲンブは体勢を崩しながらも尻尾でミズキを攻撃する。
ミズキは尻尾をもう一方の剣で受け流しながら反動を利用して距離を取る。
あの刀身、斬る瞬間と尻尾を受けたとき青く光ったな。
やはりミズキはラグナ使いか。
「次は右足」
ミズキは攻撃箇所を宣言し、宣言通りに手足を切断していく。
とても簡単そうに見える。
そう見えるほどミズキの力は圧倒的だった。
そして残りは頭部のみとなった。
「これで終わりっ!」
ミズキが頭部を切り落とすとダンジョン・ゲンブの体がチリとなって消えた。
その場に握り拳くらいの大きさの黒い水晶玉のようなものが現れた。
「この玉を四つ揃えると下へと続くドアが開くんだよ」
「シエス、大丈夫か?」
「……大丈夫デス。ちょっと油断しました。次はこうはいきませんよ!」
「そうだな」
まったく負けず嫌いだな。
次の四魔のところへ向かっている時だった。
「チトセ」
「ん?ミズキ、どうした?」
「時間切れだよ」
「時間切れ?」
ミズキが手にした先ほど入手した水晶玉を見る。
ん?これ、確か最初黒かったよな?
今は灰色に見える。
ダンジョンの照明の関係、なわけないよな。
「色が変わったか?」
「そう、時間が経つとカギとしての能力が失われるんだ」
「なるほどな」
ダンジョン・ゲンブを倒してから三十分くらい経っただろうか。
確かに制限時間短すぎだ。
一人で四体も魔物倒すのは無理だな。
ミズキは鍵としての機能を失った水晶玉をリュックに放り込む。
「それ、売れたりするのか?」
「うん?ああ、これね、結構高値で買ってくれるんだよ」
「そうなのか」
高く買ってくれるって事はそれだけの価値があるんだよな。
てことは倒しまくれば大金持ちになれるのか?
ってそんな余裕はないか。




