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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
運命の迷宮編
172/247

158話 15階の出会い3

 女冒険者は入口で立ち止り、店内を見回す。

 服装は全身黒で統一されており、腰に短めの剣を二本装備している。


 この冒険者、どこか新田さん、というか澄羅家の人(じじいとおやじは除く)が持つ雰囲気に似ている気がする。

 姿は全然似てねえんだけど、なんでそう思うんだろう。


 女冒険者と目が合った。

 と、女冒険者が真っ直ぐ近づいてくると正面に立った。


「ちょっといいかい?」

「あ、俺?」

「そう」


 もしかして、じっと見てたのをガンつけしてたとか思われたか?


「えーと、何か?」

「君、いや、君達は別の世界から来たんだね?」


 違うと言っても向こうの知識ないし、この格好だしな。


「別の世界から来たのはあなたのほうじゃないか?」

「あ、そうか。そうだね!あははは。ごめんごめん!」


 陽気な女だな。


「で、話はそれだけか?」

「まさか!今のはただの好奇心。これからが本題」


 そういって女冒険者が顔を近づけてくる。


 アップで見ても美人だな。

 って違う違う!


 慌てて椅子を後ろにズラして距離を取る。


「あ、ごめんごめん。またやっちゃったよ」

「あ、いや、別に気にしちゃいないよ」


 と、隣でシエスの表情が厳しくなっているのに気づいた。

 なんだこいつ、もしかして彼女は敵?

 しかし、にゃっくは特に警戒した様子はない。


「ねえ」

「あ、ああ、悪い、なんだっけ?」

「そうそう、まだ自己紹介してなかったね。僕はミズキ、よろしくね」


 ミズキ?

 なんか日本人ぽい名前だな。


「俺は千歳だ。よろしく」

「チトセね、君がこのパーティのリーダー?」


 シエスを見ると無言で小さく頷いた。


「そうみたいだ」

「そうみたい、って変なパーティーだね。まあいいか。で話だけど単刀直入に言うと僕と手を組まないかい?」

「手を、組む?」

「意味がわからないか。見かけない顔だと思ったけど、やっぱり来たばっかり?」

「ああ」

「じゃあ、今十六階がどういう状況か知らないんだね?」


 十六階の状況?


 シエスは沈黙。

 プリシスは、


「ちょべりば!」


 なんかよくわらん言葉を吐きやがった。



「じゃあ説明するよ。っと、ここいいかい?」


 そう言って空いてる席を示す。


「ああ、どうぞ」

「どうも」


 そこへさっきの元気なウェイトレスが現れる。


「いらっしゃいませっ!ご注文はお決まりですかっ?」

「そうだね、僕はよく冷えたエールをもらおうかな」


 朝っぱらから酒かよ、いや待てよ。今何時だ?

 ……ってスマホ電池切れしてんじゃねえか!


「はいっ、エールですねっ!他の方は追加のご注文はありますかっ?」

「おまわりさん、ここです」

「はい、果物たっぷりジュースのお代わりですねっ!」


 ウェイトレスがパタパタ音をたて去っていく。


「じゃ、話を続けるよ」

「ああ」


 今のにツッコミなしか。別にいいけど。


「十七階へはね、今までのように鍵見つけて下りる、っていうのとは違うんだ」

「どう違うんだ?」

「十七階へ下りるには十六階を守る四体の魔物を全て倒す必要があるんだ。それも時間内にね。それで初めて十七階へ通じるドアが開くんだ」

「確かに今までと違うな」

「そうなんだよ。困ったもんだよね」

「時間内に倒せなかったら?」

「倒した魔物が復活する」

「やっぱそうなるか。だから協力か」

「そういう事。僕一人で頑張ってみたんだけど、どうやっても他の魔物がいる場所に着く前に時間切れになっちゃうんだ」

「ちょっと待て」

「何?」

「一人だと?」

「そうだよ」

「パーティは?」

「今は組んでないよ」

「つまり守護してる魔物を君一人で倒したのか?」

「そう言わなかったかな」


 聞いたよ。信じられねえから確認したんだよ。


「その魔物強さはどのくらいなんだ?」

「僕より弱いね」

「そりゃそうなんだろうけどよ」


 全然強さわかんねえ、と言っても質問の仕方が悪かったな。


「その魔物、レイマって事はないよな?」

「レイマ?何それ?」


 あれ、レイマじゃ通じないのか。


 シエスが補足した。


「あなたの世界では“ルシフ”、あるいは“シファ”と呼ばれているはずデス」

「ああ、ルシフね、違う違う。ルシフと比べたら全然下っ端だよ」

「それを聞いて安心したぜ。ところでその四体は同じ魔物なのか?」

「違うよ。それぞれ種族も攻撃方法も違ったね。どれが一番強いかは言えないね。人によって得手不得手あるからね」

「ん?もしかして四体全部倒した事あるのか?」

「倒したよ。倒す順番関係あるかなぁと思ってね、でも関係なかったよ」


 ……なるほど、ミズキは相当強いようだ。

 時間制限さえなければ一人で十六階を余裕で突破出来るようだ。

 ……ミズキが嘘をついていないならば、だが。


「仮に手を組むとしてもだ、あと二組いるんじゃないのか?」

「え?」

「え?」

「……」

「もしかして俺達で三体の魔物を倒せ、と?」

「無理?」

「無理も何も俺達はその魔物達の強さを知らない。レイマより弱いのはわかったがそれだけじゃ全然情報が足りない」

「そうだね、確かにいきなりは危険だね。じゃあ、ちょっと試しに倒してみる?僕も君達の力知りたいし」


 簡単に言うな、こいつ。


「時間制限があるんならもっとパーティを誘って確実に倒すべきじゃないか?」

「それは無理」

「何故?」

「まだ言ってなかったけどもう一つルールがあるんだ。十七階に降りられるのは最大四人なんだ」


 四人、四体の魔物……そういう事か。

 俺達と組めば人数は丁度四人か、にゃっくはカウントされないしな。

 席を奪い合う事はないってか。


「俺達が三人パーティじゃなかったら?」

「え?違うのかい?」


 お、焦った顔もいいな、って何言ってんだ俺。


「いや、これで全部だけどよ」

「ふう、ビックリさせないでよ」

「でもよ、他に三人パーティいるんじゃないか?なんで俺たちなんだ?」

「なんとなく、かな」

「なんだそれ」

「うーん、なんと言ったらいいのか難しいんだけど……」

「なんだよ」

「実は僕もよくわからないんだ」

「は?」

「あ、いや、君達がそれなりの力を持ってることはわかるんだ。でもそれだけじゃなくて……」


 なんでそんなにじっと俺を見るんだ?


「……チトセが似てるからかな?」

「似てる?誰に?」

「それは……」

「ミズキの性欲反応増大を確認」

「おまわりさん、ここです」

「⁉︎」

「お、お前らはいきなり何言い出すんだ!」

「事実デス」

「じゃ、じゃあ、チトセ、考えといて!」


 そういうとミズキはテーブルに代金を置いて逃げるように去っていった。


「……任務完了デス」

「何のだよ?」

「つうほうしました」

「何をだよ?」


 全くこいつらは何を考えてるんだか。


 そこへウェイトレスが現れた。


「はいっ、果物たっぷりジュースのお代わりお待ちどうさまですっ!」

「頼んでねえよ」


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