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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
運命の迷宮編
171/247

157話 15階の出会い2

 俺達がいたのは宿屋の二階の部屋だった。

 部屋の作りや内装を見ればここが家の中だというのはわかった。

 だが、まさかダンジョンの中に宿屋があるなんて思わないから、そういうデザインなんだと勝手に思い込んでたぜ。



 休憩所に魔物は侵入できない。

 これはこのダンジョンのシステムだ。

 ただし、人に飼われてたりする魔物は例外らしい。

 その判断はあのシャドーエムがやっていると言われているが本当かはわからない。


 にゃっくが警戒していたのは魔物ではなく人だったのだ。

 休憩所はあくまでも魔物が侵入できないだけだ。

 街中での戦闘は禁止になっているが、あくまでも規則であって戦おうと思えば戦うことができる。

 滅多に起こる事はないがゼロではないのだ。

 ちなみに規則を破った場合はペナルティが課せられるということだ。

 ペナルティの執行はシャドーエムによって行われ、処刑された者もいるとの事だ。

 シエスの話では現在いくつかのグループが街に滞在しているらしい。

 この宿屋にも俺達以外に泊まっている者達がいるそうだ。



「街というからにはいろんな店あるんだよな?」

「はい」

「他には何があるんだ?そうだ服屋は?」

「あります」


 よしっ、このボロ服着替えられるぜ!

 下着の着替えしか持ってきてねえからな。


「他には食べ物屋、武器屋、アクセサリー屋などがありますので冒険に必要になる物が揃えられます」

「ほう。そりゃすごいな。向こうじゃダンジョンに街があるのって普通なのか?」

「いえ、珍しいほうデス」


 て事は他にもあるって事か。


「ところで当然金要るんだよな?この宿代とかどうしてるんだ?」


 俺の知る限り宝箱に金はなかった。


「ボクがお金を持っています」

「金持って来てたのか?」

「はい。それにダンジョンで手に入れた不要物を換金しました」

「そうか」


 こいつ売れるような物拾ってたか?

 いや、俺の意識のない時に何か手に入れたのかもな。

 俺も知らないポーション手に入れてたし。


「俺の服買い換える余裕あるか?」

「大丈夫デス」


 よし、どうやら裸足生活はすぐに卒業出来そうだ。

 俺達の冒険はまだまだ続くぜ!


「っじゃねぇ!」

「どうしました、突然大声出して。発情期デスか?」

「んなわけあるか!」

「失礼しました。年中無休でしたね」


 マジぶっ壊してやろうか、こいつ。


「アホな事ばっか言ってねえで、キリンさん達は?キリンさん達との連絡は?ここにいないのか?」

「はい。街を探しましたがいませんでした」

「プリシスは?」

「つうほうしました」

「……なんだって?」

「つうほう……」

「お前じゃねえ!おいっシエス!」

「三号機が高速で街を走り抜けるのを見かけたそうデス」

「三号機!そいつはおかしくなる前か?ってわからねえか」

「おまわりさん、ここです」

「わかったわかった」


 なんか精神的にも疲れてきたぜ。


「キリンさん達はもっと下にいるって事だな。どんだけ先行ってんだよ。俺達の身になれよ、まったく」

「目的のものはもっと下なのでしょう」

「目的のもの?」

「失礼、一人言デス」


 アンドロイドのくせに独り言ね、ほんとよくできてるぜ。


 ぐー!


 やべ、腹が催促してるぜ。


「飯だ、食おうぜ。な、にゃっく」


 にゃっくが小さく頷いた。



 宿屋の一階はロールプレイングゲームでお決まりの酒場だった。

 一階に降りると先客がいた。


 見たところ二人と三人のグループのようだ。

 そう判断したのは席が離れていたこともあるがその二組の服装が全く異なっていたからだ。

 一つはファンタジーロールプレイングゲームでよく見かけるやつでもう一方は現代の服装だ。

 両方のグループから視線を感じたが声をかけられる事はなかった。


 シエスが席を確保しそこに座る。

 彼らと離れた席で小さな声なら内容を知られる事はないだろう。

 魔法や盗聴器とかを使わなければの話だがそれを心配したらキリがない。

 シエスが囁いた。


「チトセ、ボク達の事は話さないでください」

「……彼らはお前の仲間じゃないんだな?」


 彼らとはもちろん現代の服装を着ているグループだ。


「……わかりません。少なくともボクの持つ情報の中に彼らの特徴と一致する者はいません。地上と通信出来れば何かわかるのデスが」

「わかった」


 彼らが変態マッチョの仲間だとしても戦闘禁止だから滅多なことでは襲っては来ないだろう、

 と思いたい。


「向こうもデスよ。服装で判断するのは危険デス。ここには防具屋も服屋もあるのデスから」


 確かに服装を変えて向こうの世界の住人になりすましている可能性もあるか。


「わかった」


 ウェイトレスが注文を取りにやって来た。


「いらっしゃいませっ。こちらがメニューになりますっ。オススメはモーギュのステーキですっ。こちらの世界のお客様にも人気なんですよっ!」


 モーギュ?牛のことか?

 にしても元気なウェイトレスだな。


「元気だけが取り柄なんですっ!」


 やべっ、声出ちまってた?


「と、ところで君はここに住んでるの?」

「はいっ、もうかれこれ半年くらいですねっ」

「半年⁉︎地上に出たくないのか?」

「うーん、そうですねぇ。出たくないといえば嘘になりますけど、地上に出ちゃうと戻るの大変なんですよっ。せっかく手に入れた職を失いたくないんですっ」

「あ、そう」


 向こうの世界は職業難なんだろうか?


「あたしがここを出るのは十分お金を稼いでからですねっ!」

「君は冒険者じゃないのか?」

「元、冒険者ですよっ」


 ちょっと表情が曇ったのでそれ以上この件で話すのをやめた。


「悪いな。無神経に色々聞いちまって。俺、今回初めてだったんでちょっと興奮してたみたいだ」

「え?初めてでここまで来たんですかっ⁉︎それはすごいですねっ!」

「え、あ、いや、それほどでは」

「チトセ!」


 あ、やべっ、情報出しちゃだめだったんだ。

 このウェイトレス話しやすいからついつい口が軽くなっちまったぜ。


「じゃあ注文いいか?」

「はいっ、どうぞっ」


 俺とにゃっくはおススメセットを注文した。

 あ、今更だが、宿屋はペット可だ。にゃっくはペットじゃないけどな。

 シエスは水でプリシスはというと、


「おまわりさん、ここです」

「はいっ、果物たっぷりジュースですねっ」

「え?君、今ので通じたのか?」

「はいっ。この方は毎回同じ物を頼みますのでっ」

「あ、そう」


 このウェイトレス、“果物たっぷりジュース”と“おまわりさん、ここです”が同じ意味だと勘違いしてなきゃいいけどな。


「なあシエス、この街にはどのくらいの人が住んでんだろうな?」

「住人という意味でしたらざっと三十人くらいでしょうか」

「そんなにいるのか。いや少ないと言うべきか。まあどっちにしてもだ、彼らも異世界にいるって気づてるんだよな。結構タフだな」

「当然でしょう。ダンジョンで暮らそうと考える人達デスよ」

「確かにな」



 おススメセットを注文して正解だった。

 名前からして牛に近い動物の肉かと思っていたが、予想通り味は牛肉ですごくうまい。

 隣の世界だからか似た言葉あるんだよな。


 プリシスが運ばれた来た果物たっぷりジュースをストローでちゅうちゅう吸っている。

 

 ほう、“乗ったまま”でちゃんと飲めるんだ。

 流石に飲み物以外は無理だろうな。



 食後の紅茶?を飲んでいる時だ。

 宿屋に冒険者風の姿をした女性が入って来た。

 見た目の年齢は二十歳前後、俺と同じくらいかな。

 ポニーテールがよく似合ってる美人だった。


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