156話 15階の出会い1
目を開けると目の前にどっかで見た事のあるような奴がいた。
二メートル近い巨体にランドセルを背負った変なやつ。
「プリンセス・イーエス⁉︎」
顔は違うし、声も違う。
体格も前と比べると細い気がするが、こんなところにこんな格好した奴が他にいるはずがない!
「チトセ、目覚めたのデスね」
声のした方を見るとシエスがソファから立ち上がるところだった。
「目覚めた?……って、ここベッド?部屋?ここどこだ?」
「休憩所デス」
「何?て事は十二階が休憩所だったのか?」
「……」
「どうした?」
「……いえ、ここは十二階ではありません。十五階デス」
「十五階?」
俺が覚えているのは三号機に左腕を吹っ飛ばされたところまでだ。その先の記憶がない……って、腕!腕がっ!……て、あれ?ある?腕吹っ飛ばされたのは夢だったのか?いや、違う。そんなずはない。袖だってなくなってるし……。
「なあ、俺、腕吹っ飛ばされなかったか?」
「はい」
「だよな?なんであるんだ?」
「覚えてないのデスね?」
「ああ。十一階で腕吹っ飛ばされてからの記憶がねえ」
「……そうデスか」
「どうやって治したんだ?」
「ポーション、デス」
「ポーション?……もしかして」
確かジャンパーのポケットに突っ込んで……あれ、あるぞ。
だが、ポケットから取り出したポーションは見たことない形と色をしていた。
「それは十三階で手に入れた物、デス。前の物は既に使用してありません」
「そうか」
前のポーションはそんな効果があったのか。
腕を再生するってすげーな。
<領域>での回復力凄かったけど同じように再生出来るんだろうか?
「で、それは俺が自分で飲んだのか?」
「はい」
「そうか。全然記憶ねえ」
「ここへ来るまで大活躍でしたよ。でもやはり別人だったのデスね」
別人ね。
考えるまでもない。魔王のやつだよな。
人の体勝手に使いやがって!
と言ってやりたいところだが文句言える立場じゃねえか。
シエスが言う通り大活躍したのなら悔しいが命の恩人って事になるんだろうし。
「チトセ?」
「あ、ああ。悪い、考え事してたぜ。その説明は後だ。キリンさんの許可がいる」
「キリンの……了解デス」
「じゃあ、状況を教えてくれ。三号機はどうなった?」
「“出来る方”のチトセの作戦で地上に飛ばしました」
「言い方考えろよ。つまりテレポートの紋章をつかったんだな?」
「はい」
なるほど。
あれが魔物判定されれば休憩所に入ってこれないはずだが……いや、今はいい。
その後は魔物との遭遇はほとんどなかったらしい。
おそらく三号機が倒していたんだろう。
「で、こいつは味方でいんだな?」
「つうほうしました」
何処にだよ?
「彼女はプリンセス二式デス。プリシスとお呼びください」
「プリンセス二式?ってことはプリンセス・イーエスの改良型か?」
「はい。あなたが大破させたプリンセス・イーエスの予備機を改修したのデス」
「予備機あったのか。って、誰が大破させたって?」
「ボク達シエスシリーズの完成でプリンセスタイプの予備機は破棄されるはずだったのデスが、ミカエルさんの操縦とぷーこ様の声当てがあまりに見事だったので有人機計画が見直されたのデス」
「大破の話はスルーかよ。てかよ、声は関係なくねえ?っていうかぷーこいらなくね?」
「失礼デスね!」
「おまわりさん、ここです」
「お前はさっきから何言ってんだ?って、まあいい。て事はだ、こいつ、プリシスも誰かが操縦してんだよな。流石にみーちゃんって事はないよな?」
「それは、秘密デス」
何が秘密だ。
しかし、あのランドセルが操縦席ならやっぱり皇帝猫が操縦してんだよな。
みーちゃん以外にそんな器用な奴がいたのか。
皇帝猫ならまた天使の名前じゃねえだろうな。
いや、別に天使の名前でもいいけどよ。
「よろしくな、プリシス」
「おまわりさん、ここです」
「おいシエス、さっきからこいつとの会話が成立しねえけど大丈夫か?」
「仕方ありません。単独行動ではあらかじめ登録した言葉しか話せないのデス」
登録した言葉だと?
「えーとだ、なんで登録した言葉の中に『おまわりさん、ここです』とか『つうほうしました』が入ってんだ?他にもっと必要な言葉あるだろ?」
「おまわりさん、ここです」
「うるせえ」
「ほら」
「ほら、じゃねえ。今だって言葉噛み合わねえだろ!」
「つうほうしました」
「今のはギリギリセーフかと」
「何処がだ。完全にアウトだ馬鹿野郎!」
ほんとこの組織、真剣にやってんのかマジで疑うとこあるよな。
「で、この階で合流できたのはプリシスだけなのか?」
「その事デスが」
「なんだよ?」
「プリシスは別の任務で来ているのデス」
「なんだ、そうなのか」
「はい」
「で、プリシスは一人で来たのか?」
「いえ、三人で来そうデス」
「あと二人いるのか。そいつらもプリンセスシリーズか?別の部屋にいるのか?」
「いえ、予備機はプリシスのみです。プリシスがエネルギー変換、基本機能はボク達と同じデス、をしている間に十六階の偵察に出かけたそうなのデスが戻って来てないそうデス」
「どれくらい経つんだ?」
「約三日デス。このまま待機するべきかで迷っていたそうデス」
「ふーん。で、どうするんだ?」
プリシスはちらりとドアの前で警戒しているにゃっくを見て、
「つうほうしました」
「だからなんでそれなんだ?」
「仲間と合流出来るまではボク達と一緒に行動するそうデス」
「そうか、って今ので通じたのか?」
「当然デス!にゃんダムの名は伊達ではありません!」
「はいはい」
とりあえず戦力が増えたのは嬉しい限りだぜ。
「しかし、チトセが元に戻ってよかったデス」
「本当か?もう一人の俺の方が強いんだろ?」
「ボクのエネルギーは満タンになりました。そしてにゃっくさんが復活し、プリシスも加わりました。問題ないデス」
「そうか」
こいつ、何だかんだ言って俺の事を心配してたんだな。
アンドロイドの癖にいいとこあるじゃ……
「これでキャラ被りがなくなります」
「……なんだって?」
「キャラ被りデス。“出来る方”のチトセは一人称が“僕”なのデス。ボクと被ってます!」
……あー、うん、コイツはこう言う奴だった。
シエスシリーズを開発した奴はなんでこんな人間ぽい思考にしたんだろう?
任務遂行の邪魔になるんじゃないか?
「さて、もうちょっと寝てえが腹減ったな」
携帯食ばっかじゃ飽きるし、いざという時のために取っておかないとな。
キッチンに行けば何かあるだろう。
あと服もなんとかしたいけどなぁ。
そこで気づいた。
右足の靴がない事に。ソックスがない事に。
「おい、シエス、右の靴と靴下がないぞ」
「……」
「おい」
「……気づきましたか」
「普通気づくだろ」
「チトセは普通じゃないデス」
「お前に言われたくない、って、だから靴はどうしたんだ?」
「トラップに引っかかって吹き飛びました」
こいつ、軽く言いやがったな!
て事はだ俺は左腕だけじゃなく右足も失ってたのか⁉︎
……よし、普通に動くし問題ない。
しかし、トラップに引っかかっただと?
あの魔王がか?
まあ、魔王でもミスするか。自分の体じゃないしな。
……しかし、だ。
もし俺がやったならシエスは絶倒真っ先にバカのするはずだ。
それがないと言う事は……。
「そのトラップ、引っかかったのは俺か?」
「……」
「おい」
「……それにはお答えできません」
「おまわりさん、ここです」
「お前が引っかかったんだな?にゃっくに聞けばすぐにわかる事だぞ?」
「もう済んだ事デス。時効デス」
「勝手な事言うな。やっぱりお前のせいなんだな⁉︎」
「……あらゆる角度から検証するとそのような解が出る可能性はあります」
「何を言ってやがる!これは貸しだからな!」
ベッドから降りると右足が直に床に触れる。
素足じゃケガするよな。
これからずっと裸足は嫌だぞ。
宝箱から靴出るかな?
いや、もしかしたら休憩所に置き忘れとかが……あればいいな。
ドアに向かうとにゃっくが振り向いた。
「にゃっく、すっかり力を取り戻したみたいだな!」
にゃっくが小さく頷く。
にゃっくに手を差し出した時、ふと疑問が湧いた。
休憩所は安全地帯のはずだ。
魔物は入って来れない。
じゃあ、なんでにゃっくは今までドアの外を警戒していたんだ?
「おい、シエス。この休憩所、」
「チトセ、ここは六階の休憩所とは違います」
「どう違うんだ?」
「十五階は街なのデス」
「何?そんな事が……」
「そしてここにいるのはボク達だけではありません」




