151話 テイ・ルウェポ
入った部屋には魔物がいた。
テイ・ルウェポって名前の魔物が二匹だ。
見た目はサソリに似ている。
大きな違いは全長が二メール程ある事とその尾だ。
尾は毒針ではなく武器の形をしている。
一方は斧で、もう一方は長剣だった。
「どうする?」
聞くまでもなかった。
俺達が行動を起こすより早く一匹が背後に回りこみドアの前を塞いだんだ。
獲物を逃す気は無いようだ。
「選択の余地はないデスね」
「だな」
にゃっくは戦う気があるようだが反応が鈍い。
ここは俺がなんとかするしかないよな。
「チトセ」
「なんだ?」
「楽しそうデスね」
「そんなわけあるか。死ぬかもしれんのだぞ」
全く何言ってんだこいつは。
「今の私では一度に両方の相手は無理デス。少しの間そちらを任せていいデスか?」
「ああ」
「無理はしなくていいデス。足止めだけでいいデス」
足止め、ね。
確かにテイ・ルウェポは強い。
だが恐怖はねえし、負ける気もしねえ。
「別に俺が倒してしまってもいいんだろ?」
「チトセ、それは死亡フラグデス」
「大丈夫だ。俺、そんなもん知らん」
相手にするテイ・ルウェポは尾が斧の方だ。
“ここどこ戦記”によればテイ・ルウェポは魔物の鍛冶屋とも呼ばれている。
言うまでもなくその尾が由来だ。
テイ・ルウェポは金属も食らう。
食らった金属は体内で獲物を狩るための武器に形を変え、尾となって生える。
生えて終わりではなく、金属を食い続けることで強度を増していく。
中には複数の金属を食らい、人工的に作ることが困難な合金製の尾を持つものもいる。
その合金を用いて伝説級の魔剣を作ったという話もあった。
また自ら作り出すだけでなく、今の尾よりも優れた武器があれば、尾を切り捨てすげ替える事もある。
今、目の前にいるテイ・ルウェポは後者だった。
何故わかるかって?
尾からの生え方が不自然だし、斧に柄があるんだ。
テイ・ルウェポが先に仕掛けてきた。
宙に構えていた斧を振り下ろした。
速いっ!
避ける事は出来たが、一回がけのアディ・ラスではギリギリだった。
あとほんの少し反応が遅かったら無傷では済まなかっただろう。
「アディ・ラス!」
再び斧が襲う。
今度は余裕で回避した。
「行くぞ」
ケロロが右腕に巻いた状態から解ける。
一方の末端を掴み、鞭のようにテイ・ルウェポに叩きつけた。
魔粒子を送り込んた一撃だったが、身を覆う甲殻は硬くノーダメージのようだ。
やっぱ、殻も硬いか。
ま、それは想定通りだ。
じゃあ、“ここどこ戦記”と同じ戦法で行くか。
テイ・ルウェポの弱点は脚や尾の付け根だ。
ここは殻で覆われていない。
目も弱点だが的が小さ過ぎる。狙うのはやっぱ、尾の付け根だよな。
斧がなくなりゃ攻撃力も一気に低下するしな。
再び斧が目前に迫る。
今度は難なく避ける。
鋏型の前脚の攻撃が来る前にケロロを尾の付け根に巻き付けた。
「千切れろ」
ぼとり。
「キキキキイイィっ!」
テイ・ルウェポが絶叫を上げる。
「うるせえな」
テイ・ルウェポが鋏型の前脚を振り回す。
ケロロでその前脚を封じて斧を拾う。
「うわっ、やっぱり細胞と融合してやがる」
アディ・ラスで体全体をバリアが覆ってるから斧に直接触れてるわけじゃねえが気持ち悪い。
持った感触はともかく切れ味はバツグンだった。
前脚を狙って斧を振り下ろすとあっさり、抵抗なく切断した。
更に悲鳴を上げるテイ・ルウェポ。
「はははははっ!こりゃすげえなぁ!おいっ」
もう片方の前脚も切り落とす。
テイ・ルウェポは逃走を図ろうとするが、その動きは鈍い。
「バイバイ」
斧で頭を潰すとピクリとも動かなくなった。
「さて、シエ・ツーのほうは……ん?」
シエ・ツーはまだ戦っていた。
その口からはまた煙が出ている。
オーバーヒートしてるのか。
テイ・ルウェポは片方の鋏型の脚を失っていたが、シエ・ツーも無傷ではなかった。
所々服が裂け、ご自慢のにゃんダリウム合金に傷がついていた。
バリアが間に合わなかったのか、バリアを貫通したのかはその場を見てないのでわからない。
さてどうするか。
シエ・ツーに聞いても「助けはいらないデス」って言いそうだしな。
かといってここでシエ・ツーが負けたりしたら困る。
‼︎
殺意を感じた。
テイ・ルウェポだ。
仲間を殺した俺が憎いってか。
だが、それがお前の命取りだ。
シエ・ツーはその隙を見逃さず、テイ・ルウェポに接近すると左腕の蛇腹剣を鞭状から剣に変化させて、テイ・ルウェポの眼球に突き刺した。
間違いなく脳にまで達したな。
すぐにその場を離れるシエ・ツー。
テイ・ルウェポはしばらくの間、脚と尾を無茶苦茶に振り回していたがやがて動かなくなった。
「大丈夫か?口から煙吐いてたぞ」
「全然大丈夫デス。にゃっくさんの方が心配デス」
腕の中でにゃっくが首を横に振る。
その動きは緩慢だ。
「どっちも大丈夫じゃねえだろう」
まったくこいつらは。
「ちょっと休もうぜ」
腰を下ろすとシエ・ツーも素直に従った。
魔物の死体がそばにあり、においも結構きついがあまり気にならなくなってきた。
「エネルギーは大丈夫なのか?」
「エネルギー切れを心配してるのでしたら問題ありません」
「そうなのか?にしては省エネな動きしてねえか?銃も使わねえし」
「説明が足りませんでしたね。体内に固形タイプのエネルギーを搭載しているのですが、これを利用するには変換作業が必要なのデス。通常行動であれば消費した分すぐに供給できるのデスが、戦闘などで大量に消費しますと供給が追いつかなくなるのデス」
「じゃあ、お前がいつも飲んでるやつは」
「ご想像通り液体タイプはすぐエネルギーに変換されます。便利なのデスがこのタイプで持ち運ぶと大荷物になってしまいます」
「なるほどね。で、今の状態は?何パーセントくらいなんだ?」
「二十パーセント程でしょうか」
「どれくらい休めば満タンになるんだ?」
「四、五時間デス」
「結構かかるな」
「ところでお知らせする事があります」
「なんだ?」
「シエス・シリーズの反応がありました」
「何?この階でか?他にも来てたのか?」
「はい。ここには三機全てキリン達の護衛として来ていたのデス」
「シエスも合流するはずだったんだよな。残念だったな」
「仕方がありません。シエス・シリーズ最強の機体として見事な最期だったデス」
「お前、最初と言ってること違うよな?」
「気のせいデス」
「まあいい。やっと迎えが来たんだな。で、いつ合流できるんだ?」
「実はその機体から応答がありません」
「仲悪いからじゃねえか?」
「失礼デスね!」
「で、お前はそれをどう考えてるんだ?」
「……最悪、敵の手の渡った可能性も……」
「おいおい勘弁してくれよ」




