149話 シャッフル
「頼む!助けてくれ!俺は人間なんだ!」
「仮にあなたが人間だとしても我々を襲った事実は変わりません」
「反省してる!二度としねえ!」
うーむ、下手に生け捕りにしたのは失敗だったか?
死の危険があったんだ。正当防衛は成立したよな。
もちろん、こんな異世界のダンジョンでこっちの法律を持ち出すのはおかしいと思うけどよ、俺には比較するものねえもんな。
「なんで捕まえちまったかなぁ」
やったのは確かに俺だ。
その行動は覚えている。
だが、どうしてそれをやろうと思ったのか。
その考えの至った経緯がまったくわからない。
その部分だけすっぽりと記憶が抜け落ちてるんだ。
「それにしてもチトセはケロロの操作が上手くなりましたね。まるで自分の手足のように使いこなしています」
「そうなんだよな。このダンジョンに入ってからまた俺の思い通りに動くようになったんだ。本当に俺の手足のように」
ケロロに意思を送る。
「ぐ?ぐああっ!し、絞まる!やめてくれ!」
再び俺の意思を感じ取りケロロは縛りを緩めた。
「おかしいデスね。ケロロにそこまでの機能はないはずなのデスが……」
「まあ、それより今はコイツをどうするかだ」
にゃっくは男、ジスを敵と認識しているようだ。
ずっと睨んでいる。
抱えている腕を緩めれば速攻で始末するだろう。
それもありだけどよ、人間だったら後味悪いよなぁ。
なんか魔物である証拠とかないかな……。
……ん?
「どうしました?」
「コイツ、お前の攻撃を受けたのにピンピンしてるよな?これ、普通じゃないよな?」
「はい。少なくともすぐに動けるはずはありません。死んでいてもおかしくなかったはずデス」
「そ、それはこのマジックアイテムのおかげだ!」
「マジックアイテム?」
ジスの視線の先、右腕には黄色い宝石が埋め込まれた腕輪がはめられていた。
「その腕輪か?」
「そ、そうだ!さっき宝箱を見つけてその中に入ってたんだ!コイツは怪我を治すだけでなく痛みを遮断するんだ!」
「ほう。確かに痛みを感じなければ動けるかもしれないな」
「そうだろう⁈そ、そうだ!この腕輪をやる!だから助けてくれ!」
「あなたを始末した後とればいいだけデスよ?」
おお、シエ・ツー、なんだその悪党ヅラは!
なんか変なスイッチでも入ったか?
「そ、そんなことしねえよな?な⁈」
「俺に言われてもな」
「腕一本切り落としてみますか?」
「液状化チェックか」
「はい」
何もしないよりはマシか。
「や、やめてくれ!こんなところで腕無くしたら絶対助からねえ!」
「我々に負けた時点であなたは死んでいるのデスよ」
「でもよ、やっぱ人間だったら後味悪いよな。他にいい手はないかなぁ」
「ではチトセの得意魔法を試してみてはいかがデスか?」
「それはどっちの事を言ってんだ?」
「言うまでもないと思いますが?」
それは俺も最初に考えた。
「高レベルの魔法なら魔物か人間か見分けられるんだったな?」
「はい」
「俺の透視魔法なら見分けられると考えているんだな?」
「はい。私のデータにない魔法デス。ロストマジックである可能性が高いデス。ロストマジックは得てして強力なものが多いデス」
「実は俺もそれが一番確実なんじゃないかと思っていた」
「では……」
「だが断る!」
誰もが喉から手が出るほど欲しがる透視魔法!(俺調べ)
それを手に入れて最初に使用した相手が壁だぜ⁈
それだけでも許せねえのに次は男だと?
そんな事が許されるか?
許されていいのか⁉︎
いや許されねえ!
最初に透視するのは新田さんと決めていたんだ!
新田さんもそれを望んでいるはずだ!(確認はしない)
だから次使うのは絶対新田さんにだ!
俺の言葉を聞いたシエ・ツーは笑顔で親指を立てて見せた。
「グッジョブ!デス!」
「は?何が?」
「いいデス!いいデス!チトセならやってくれると思っていましたデス!」
なんかよくわらんがシエ・ツーは納得したようだ。
「……なあ、話がついたところでそろそろコレ、解いてくれないか?」
「いつお前を解放するって話になったん……ん?」
体が揺れる。
いや、地面が揺れている⁉︎
「地震かっ⁉︎」
「……違います。これは迷宮が再構成する前触れデス」
「なんだとっ⁈」
「誰かがテレポートの紋章を使用したようデスね」
「くそっ!」
ジスと俺達との間に白いカーテンが形成され始める。
やばいっ!ジスと離れる!
ケロロを呼び戻すのとほぼ同時にジスの姿はカーテンの向こうに消えた。
揺れが収まり、周囲を覆っていた白いカーテンが消えると周りの様子はすっかり変わっていた。
さっきまで通路にいたはずだが、今は大きな部屋の中にいた。
背後はすぐ壁だ。
前方にドアが見える。
だが、その前には三人の冒険者が立ちふさがっていた。
「……ゾンビ、デスね」
「みたいだな」
どの冒険者も体に欠落があった。
首がおかしな角度に曲がったままこちらを見ている(ようみえる)者もいる。
どれも魔物に殺されたという感じではない。
鋭い刃物で切られたような傷が目立つんだ。
ゾンビ達がゆっくりとこちらに向かってくる。
宝箱が目に入った。すでに開けられ後のようだ。
一瞬、ジスの言葉が頭をよぎった。
「仲間割れかもな」
「デスね」
元、人との戦いは船で十分経験した。
さっきのように躊躇することもない。
「さっさと片付けて下への鍵探そうぜ」
「はいデス」




