144話 リアルダンジョンズ&ねこちゃんず
洞窟の内部は入って数分も経たずに人工的なものに変わった。
周りの壁は切り出した石を重ねて造られており、その壁には一定間隔で松明が備え付けられていた。そのおかげで結構先まで見通す事ができる。
しかし、まさか本物のダンジョンに入ることになるとはなぁ……あれ?
もしかして前の訓練がダンジョンだったのはぷーこの仕業じゃなくて元々だったのか?
あいつが追加したのはねこギルドシステムだけだったのか?
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもねえよ。それより何階まで降りるんだ?」
「わかりません」
「わからない?」
「はい。私は八階まで降りたところでチトセ護衛任務を受けましたので」
「ん?てことはお前はこのダンジョンに入った事があるんだな?」
「はい」
「目的地は八階より下って事か?」
「はい。最後の通信で地下十階まで降りた事はわかっています」
「キリンさんに連絡取れないのか?」
「このダンジョン内は電波が届きにいのデス。キリン達と連絡をとるには一、二階差くらいまで近づかないとできないデス」
「待て。それはつまり地下三階以降は地上とも通信できないって事か?」
「そうデス」
「本当にこの装備、人数で大丈夫か?」
「大丈夫デス。私の戦闘力は通常の三倍デス。そしてにゃっくさんもいます。問題ありませんデス」
「三倍って何基準だよ」
「待ってください……敵の反応あり、デス」
「ああ」
シエスに言われるまでもなかった。
肩に乗るにゃっくの足に力が入るのがわかったからだ。
現れた魔物には見覚えがあった。
ビッグマウスだ。
やっぱりあの訓練のやつなのか⁉︎
シエ・ツーは左腕を外す。
「右腕の銃は使わないのか?」
「雑魚相手には勿体ないデス」
「そうか」
それは裏を返せばワーウルフは強敵だったって事か。
現れたビッグマウスは三匹だったが、シエ・ツーはあっという間に片付けた。
にゃっくの出番はなかった。
左腕を元に戻すシエ・ツー。
「その武器、なんて言うのか知らんが便利だな」
「これはいわゆる蛇腹剣デス。シエ・ソードという名がつけられています」
「じゃばらけん?まあ、なんでもいいや。それ“ケロロ”と似てるよな」
「それは当然デス。同じKRRシリーズデスから」
KRR?
ああ、それをもじってクララとかケロロとか付けたのか。
「シエ・ソードだけ名前の付け方違うよな?」
「深い意味はないデス」
「ふうん」
その適当さ、名付け親は間違いなくぷーこだな。
ダンジョンの各階の構造は訓練と違ったが出現する魔物は同じだった。
途中でシャドー・エムが言っていたテレポートの紋章を見つけた。
興味はあったが人数が合わなかったし、人数が合っていたとしてもまた一階からやり直しは御免だ。
「どうして訓練のダンジョンは本物と同じにしなかったんだ?あ、ぷーこがマップを書き換えたか」
「それは違いますデス」
「いや、奴ならやる。そういう奴だ」
「違います。それは不可能なのデス」
「ん?なんでだ?」
「テレポートの紋章を使うとテレポートの場所が移動するのデス」
「ああ、そう言ってたな」
「それと同時にダンジョンも再構成されるのデス」
「……は?それは何か、マッピングしても無駄って事か?」
「そうデス」
「そんな事言ってなかったぞ!」
「私達も実際に挑んで知ったのデス」
「あの野郎!」
その後も現れた魔物はシエ・ツーが一人で倒した。
にゃっくが戦ったのはマクーに挟撃された時だけだ。
俺が戦闘に参加することは一度もなかった。
そして訓練でゲームオーバーとなった地下五階に到達した。
あの時と同じように草原だった。とても地下とは思えない。
天井には不思議な光が灯り、ある程度周囲を見渡す事ができた。
「アディ・ラス」
「チトセ?」
「訓練ではこの階で狙撃されたんだ。ドムック、だったかな」
これで攻撃を受けたとしてもダメージは抑えられるだろう。
「なるほど、デス」
しかしどこに階段はあるんだ?
全然わからん。
「シエ・ツー、階段の位置はわかるのか?」
「わかりませんデス」
ぎゅっとにゃっくが服を掴んだ。
何かいるのか?……俺には感じ取れない。
どおん、と遠くで音が聞こえた。
この音はドムックの砲撃⁉︎
どこからだ⁉︎
とシエ・ツーが正面に立った。
と同時にガン!という音とともに何かが地面に落ちた。
「……鉄球?」
それは直径十センチメールほどの黒い球だった。
訓練ではこいつの直撃でゲームオーバーになったのか。
いや、それより、
「おい!シエ・ツー!大丈夫か⁉︎」
「大丈夫デス」
ドムックの放った鉄球をシエ・ツーは右腕で受けたようだ。
袖が破れている。そこから覗く肌はうっすらと赤く光っていたがすぐに消えた。
ぱっと見だがダメージを負っているようには見えない。
今の赤い光はバリアか?
流石戦闘用というだけはあるな。
「にゃっくさん、お願い出来ますか?」
にゃっくは俺の肩から飛び降り一目散にかけて行き、すぐに姿が見えなくなくなった。
ぐおおおぁ。
しばらくして何かの、ドムックだろう、の悲鳴が聞こえた。
にゃっくは何事もなかったかのように戻ってくるとぴょんと俺の肩に乗った。
「さんきゅ、にゃっく」
「ご苦労様デス」
ドムックの放った鉄球を拾い上げる。
む、結構重いし硬いぞ。
こんなの食らったらアディ・ラスを使っててもやばかったかも知れんな。
「お前こんなの食らって無傷って頑丈だな。シエスだったら腕くらい吹っ飛ばされてたんじゃないか」
「当然デス。私は“にゃんダリウム”合金製なのデス」
「は?なんだって?」
「詳しくはお教え出来ませんが、にゃんダリウム合金を採用したことにより、バリアを張る事ができるようになったのデス!防御力の大幅な向上はもちろんのこと、軽量化、そして稼働時間の向上にも成功したのデス!」
「やっぱりあの赤く光ってたのはバリアか?」
「そうデス」
なるほど、そんなに防御力が高ければシエスが装備していたバカでかい盾は不要ってことか。
……って、あの盾役に立ってたか?
「これが何を意味するかわかりますか?」
「知らん」
「私はシエ・ツーであり、“にゃんダム”でもあるのデス!私がにゃんダムデス!」
「そうか、よかったな」
「……たったそれだけなんデスか?」
「それだけってなんだ?」
「他に言うことないデスか?」
「ない。さっさと階段探そうぜ」
「……これだから隠れオタクは」
ブツブツ言ってるシエ・ツーを無視して階段を探す。
ドムックはあの一体だけだったようだ。
途中でマクーやウォルーが襲ってきたがにゃっくが軽く一蹴。
そして下へ降りる階段を見つけた。




