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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
運命の迷宮編
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番外12 悪者退治

 目の前に怯えた表情の男が尻もちを付いている。


 ついさっきまで僕を見下していた男と同一人物とは思えないなぁ。


「表情豊かだね」


 別に羨ましくはないけど。


「誰か助けてくれ!殺人鬼だ!殺される‼︎」

「無駄だよ。この辺りは滅多に人が通り掛からないんでしょ?そう言ってなかったかな?」


 ここは廃ビルの二階。奥まった部屋で男が言ったように大声を出しても外には届かないと思う。

 そんな人気のないところへ僕は偶然入り込んでしまい、犯罪の現場に出くわしてしまった、


 というのはもちろん嘘さ。

 友達が人の悪意を感知したからやって来たんだ。


 さっきまで騒がしかったけど今この場にいる、生きているのは僕とこの男、そして彼らに連れ込まれた女性。今は気を失っているのか倒れたままピクリとも動かない。

 衣服が乱れていないところを見るとギリギリ間に合ったみたいだ。


「た、頼む!助けてくれ!俺が悪かった!もう二度と悪い事はしない!な、頼む!」

「うーん、そう言われてもねぇ」


 ワザとらしく彼の仲間、だったものを見る。

 辺りに散らばった手足。

 それはさっきまでその男のとりまきだった者達だ。

 彼らは僕の姿を見つけると新たな獲物がのこのこやって来たとニヤニヤ笑いながらサバイバルナイフを手にしながら近づいてきた。

 卑猥な事を言っていたものもいたから中には両刀がいたのかもしれない。


「君がリーダーなんでしょ?君より罪が小さい、と思われる友達が死んじゃったんだよ。それなのに君だけ助かるのはおかしくないかな?」

「おかしくないっ!」


 即答しちゃったよ。


「か、金ならいくらでも出す!コイツらを殺したことも黙ってる!な、いいだろう⁉︎頼むっ!」

「彼らを殺したのは僕じゃないよ」

「わ、わかった!そういう事でいい!そう、コイツらは勝手に死んだんだ!」


 どうやら信じてないみたいだね。

 ま、普通の人ならそう思っても仕方ないけど。


「僕のせいにされちゃってるじゃないか」


 僕の右隣に立っている漆黒の人影のような姿をしたレイマを見る。


「だ、誰と喋ってんだよ……」


 レイマは普通の人には見えないんだよね。

 レイマが小さな唸り声を上げた。


 今、笑ったのかな?


 このレイマの名前は二十七号。

 つまり二十七番目のお友達だ。

 この二十七号が近づいてきた男達に黒い触手を放って一瞬で切り裂き、食らったんだ。


 レイマは人を食らう。

 いや、人しか食らわない。

 中でも人の悪意が好物みたいなんだ。

 悪人を優先的に食らう。

 悪人だけ食らうんだったら放っておいてもいいと思うんだけど、あくまでも優先順位の問題で、最後にはどんな人間でも食らう。

 人の悪意を食らう事でレイマは強くなる、と僕は思っている。


 他の生き物は眼中にないみたいで敵対しない限り殺す事もない。

 少なくとも僕は見たことがない。


 ちょっと油断してたなぁ。

 今の今まで僕のいう事を素直に聞いてたからね。命令を待たずに殺しちゃうとは思ってなかった。

 失敗失敗、次は気をつけないと。


 さっき悪意を食らって強くなるって言ったけど、恐怖も好物みたいだ。

 だから二十七号は取り巻きを先に殺して、リーダーに恐怖という調味料を加えた。

 あとは食べるだけ、かな。


「お、俺の親父は政治家なんだぞ!俺に何かあったらお前、ただじゃ済まないぞ!」


 リーダーは父親の名を口にしたけど、全然知らない。政治に興味ないし。


「君さあ、お父さんにどうやって知らせるの?」

「そ、それは……」

「あ、もしかして化けて出るのかな?枕元に立って知らせる?それは興味深いなぁ」


 リーダーは壁に背をつけながら立ち上がった。


 おや、もしかして戦うつもりかな?

 ってそんな訳ないよね。


 リーダーは出口に向かって走り出した。


「……それは無理だと思うよ」


 リーダーはドアに辿り着く前にレイマの触手に切り裂かれた。

 ポトリ、と右手が床に落ちた。

 

「また勝手に……、まあ殺すつもりだったからいいけど、ちゃんと残さず食べなよ。部位が残ったら猟奇殺人になっちゃうじゃないか」


 わざわざ殺した事を教える必要はない。

 前の連続殺人鬼と違うんだからね。


 その時だった。


「それは待って」


 声をかけたのは倒れていた女性だった。

 ゆっくりと立ち上がる。


「そいつらの部位はそのままにしておいて」

「どうしてかな?」


 その女性の容姿は整っていた。

 まあ、乱暴しようとする相手だからそれは当然かな。

 年は二十代前半ってところかな。


 この人、この状況を理解してるんだ。

 ……ワザと連れ込まれたのかな?


「自分を乱暴しようとした相手だけど末路に同情したのかな?死んだ事を親に教えてあげよう、とか?」

「違うわ」


 レイマがまた勝手に行動しようとするのに気づいた。


「止まれ」


 レイマの動きがピタリと止まる。

 女性は構えを取っていた。それは素人の構えじゃない。

 その目が僕とレイマを交互に見ている。


「君には見えているんだね」

「……ええ」

「君はムーンシーカーじゃないね。超能力者?」

「……なんでムーンシーカーじゃないとわかるの?」

「それはね、わかるから、としか言いようがないね」

「そう、あなたはムーンシーカーなのかしら?」

「そうみたいだよ。自覚ないけど」


 僕は月見衝動を起こさないし。


「そうね、あなたは普通のムーンシーカー、と言ったらおかしいかもしれないけど違うみたいね。あの化け物を操るくらいだし」

「僕のことはいいから話の続き。君は彼らの事を知ってたのかな?」

「ええ。私は依頼を受けて奴らの犯罪を暴くために近づいたの。奴らに捕まって行方不明になった人もいるらしいわ。その人達は恐らくもう……」

「死んでるだろうね」

「……ええ」

「ところで君が捕まったのは演技?」

「……」


 むすっとした表情を見なくてもわかる。

 演技ならもっと前に、リーダーが生きている内に手を打ってるはずだからね。


「……奴らの中にムーンシーカーがいたのよ。そいつの力で自由を奪われたの」


 そういえば一人いたね。

 二十七号が速攻でとりまきを食らったのはリーダーに恐怖を与えるためじゃなく、そのムーンシーカーが目的だったのかも知れないな。

 その人の能力を取り込んでたら面倒だなぁ。


「さっき”依頼”って言ったよね?君は探偵か何か?」

「まあそんな感じよ」

「そ、じゃあ、後は任せるよ」

「え?」

「あ、そうだ。彼らの犯罪を調べてたんだよね?」

「ええ、でももう……」

「なんとかなるかも」

「それって、」

「二十七号。彼らの記憶から分かる範囲で犯罪を教えてよ」


 ぐぐ。


「そんな不満そうな声出さないでさ」


 レイマは食らった人の記憶を残している。どれくらい保っているのかは知らない。

 黒剣、“永遠”の名を持つ剣の力を使って二十七号から彼らの記憶を得る。


 ああ、本当にクズだなあ。全員死んで正解だったよ。



「スマホ持ってるよね?ちょっと貸して」

「え?ええ」


 僕はレイマから得た情報を彼女のスマホのメモアプリに書き込んだ。


「……という事だよ」

「あ、ありがとう」


 時計を見るともうすぐ日が変わる。

 ホテル探さないと。


「じゃ、僕はこれで」

「ちょ、ちょっと待って!」

「何?僕は急いでるんだけど?」

「わ、私がいうのもなんだけど、見ず知らずの私に後の処理を任せていいの?」

「いいんじゃないの」

「……あなたの事、警察に言うかもしれないわよ?」

「そんなの誰も信じないよ」

「そ、それはそうかもしれないけど……」

「それにさ、」

「何?」

「僕、強いから」


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