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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
運命の迷宮編
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番外11 不幸の紙

 計三度せりすはアルタンとなり、ぜりんに倒された。

 七海はまだやる気満々だった。


 幼児は体力に限界がない。

 もとい、限界を知らないから倒れるまで遊び続ける。

 せりすはそこまで付き合う気はなかった。

 何より七海は何故か自分にアルタン役ばかりさせ、内心面白くなかった。

 日本の法律では悪役は親がやるものだと定められている。

 と進藤千歳が言っていたのを思い出し、内心頷く。


(今回はお母さんが悪役をすべきなのよね)


 だが、その進藤母は出迎えの現れて以降姿を見せていない。


(逃げたわね、絶対逃げたわね!)


「んー、こんどはねー、おねえちゃんはねえー、あるた……」


(言わせるか!)


「七海ちゃん!お姉ちゃん、ちょっと疲れちゃった。一休みさせて、ね?」


 七海は不満そうな顔をした。


「あたしはまだまだげんきだよ!」

「うんうん、でもね、私はちょっと疲れちゃったの。だから、ね?」


 七海は不満そうな顔をしながらも小さく頷くとせりすの横にちょこんと座った。

 途端にとうとうとし始めた。


(よしっ、計算通りよ。やっぱり本人が気づいてないだけで相当疲れてたわね)


 七海はせりすにもたれかかると一分も経たずに寝息をたて始めた。


(勝ったわ。あとはそっとソファーにでも寝かせて……は寝相が悪かったら落ちちゃうからダメね。となると……⁉︎)


 せりすは視線を感じた。

 ウリエルだった。

 ウリエルはせりすをじっと見ている。


(……まさかこのネコ、私の邪魔をする気じゃないでしょうね?)


 ウリエルは動かない。ただじっとせりすを見ている。


(……まあ、いいわ。ともかく進藤君との約束は果たしたわよね。あとはお母さんに挨拶して帰るだけ、……って、さっきから全然見かけないわよね。キッチンからは音がしないから上で掃除でもしてるのかしら?)


 探しに行こうかともたれたかかっている七海をそっと離そうとした時だった。

 ウリエルが動いた。


 ウリエルが反対側から七海を支える。

 つまりせりすから離れないように押し返したのだ。


(このネコ!やっぱり私の邪魔をする気ね!)


 ウリエルはせりすに恨みはない。

 ただ七海のための行動が結果としてせりすの邪魔をする事になっただけだ。

 理由はどうあれ、せりすからすればウリエルは自分の邪魔をする敵だった。


(こんな時みーちゃんがいれば説得してもらうんだけど、全然上から降りてこないわね。ゲームに夢中なのかしら?それとも探偵事務所に行ってる?)


 せりすはリビングを見回すと壁にかかっている小さな掲示板が目に入った。

 予定表だった。

 母、父、千歳、七海、にゃっく、みーちゃん、ウリエルの順に名前が並んでいた。


(普通、父親が一番上じゃ、まあ、いいけど。で、みーちゃんはと、今日は夜戻りか……って猫の予定誰が書いたの⁉︎……まさか進藤家の人も皇帝猫のことを、組織の事を知ってる⁉︎……いえ、そんなはずはないわよね……。まあ、いいわ、ともかくみーちゃんがいないならウリエルの説得は難しそうね。やっぱりお母さんが戻って来るまで待つしかないか)



 だが、進藤母はなかなか現れなかった。


(……まずいわね。このままじゃ、元気になった七海ちゃんとまたぜりんごっこをする羽目になるわ)


 せりすはアルタン役はもう御免であった。

 とパタパタと上から降りて来る足音が聞こえた。


(助かったわ。これでやっと帰れるわ!)


 リビング現れた進藤母は真剣な表情をしていた。


「せりすさん、私に何か隠してない?」

「はい?」


(何?この真剣な表情……まさか組織の事に気づいた?)


「あの、何のことですか?」

「……隠し通すつもり?」

「あの、私、他人ですから隠し事、というかお母さんが知らない事はたくさんあると思いますが」

「そう、あくまでもしらを切るのね」

「一体何のことを言ってるのですか?」

「これを見てもまだそう言えるかしらね」


 そう言って、進藤母が後ろで隠し持っていた一枚の紙をせりすに見せた。


「それはっ‼︎」

「そう、離婚届よ!つまり、せりすさん、あなたはすでに千歳と籍を入れているわね⁉︎」


 進藤母の表情は探偵が決定的な証拠を出し、犯人を追い詰めた時に見せる表情そのものだった。

 あまりに見当はずれだったのでせりすは一瞬言葉を失った。


「あなた達が密かに籍を入れていたことには驚いたけど、もう離婚の危機になってると知ってもっと驚いたわ」

「えーと、あの……」

「もし私がこれの存在に気づかなければ息子は私の知らないうちにバツイチになっていたかもしれないわね……」

「あの、違います」

「いいの。安心して、悪いのは千歳よね。だからここは冷静に話し合いましょう、ね?」


 優しい笑顔をせりすに向ける進藤母。


「いえ、冷静になるのはお母さんのほうです。離婚届たった一枚で飛躍しすぎで……」

「何を言ってるの!このたった一枚の紙で人生が大きく変わるのよっ!」

「あ、あの、七海ちゃんが起きちゃうのでもう少し声を小さくしてください」


(あー、もうっ、つかさぁー!進藤君も進藤君よ!なんでそんなものいつまでも持ってるのよっ!なんで私がこんな面倒に巻き込まれるのよっ!こういうのは進藤君の役目でしょ!)


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