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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
運命の迷宮編
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番外10 ぜりんVSアルタン再び

 「やられたー」


 倒れた新田せりすの目に入ったのは進藤家のリビングの天井だった。

 さっきまで新田せりすは世界征服を目論む悪の組織ワルンの怪人アルタンだったが、魔法少女ぜりんになりきった進藤千歳の妹七海のベアハッグによって倒されたのだった。


 せりすの上に乗ったまま七海は魔法少女ぜりんの歌を歌い始める。

 微妙に音程がズレている事にせりすは気づいたが黙っていた。


(本人は楽しそうだし、今の私は倒されちゃったから話すとまずいしね)



 なんでこんな事をしているのか。

 それは言うまでもなく進藤千歳に頼まれたからだ。

 あれ以来、進藤千歳とは連絡が取れない。メールも何度か送ったが返事はない。

 気は進まなかったが、妹の事になると周りが見えなくなる千歳の事だ。

 無視したら後で何言われるかわかったものじゃないし、何でもいうこと聞くといったのだ。

 借りを作っておくのも悪くない。そう思ったのだ。

 せりすは進藤家に電話し、その事を話すと是非にということだったので今日行く事になったのだ。


(二、三時間も遊べば十分でしょう)


 そんな軽い気持ちで進藤家に向かった新田せりすだったが、迎えに現れた進藤母と七海を見て大きな過ちを犯した気がした。


「お帰りなさい」

「いえいえ、お帰りなさい、はおかしいですよ」

「あら?そうかしら?」

「おかえりなさい、おねえちゃん!」


(しっかり仕込まれてるわね)


 七海の背後から頭のでかい子猫が現れた。


(みーちゃんじゃない、この子がウリエルって子ね)


 千歳から聞いた通りしっかり七海のボディガードをしているようだった。


「ささ、早く上がって」

「お邪魔します」


 リビングで待っているとぜりんの格好をした七海が現れた。

 やる気まんまんであった。


「やっぱりぜりんごっこなんだ」


 七海はすでにせりすの役を決めていた。

 近所のお姉さんに化けて近づいて来た怪人アルタンである。

 唯一魔法ではなくベアハッグで倒された最弱の怪人である。


 「なぜ、アルタン役なの?」と七海に聞いても「んんっ」と言うだけで詳しい説明はなかった。



 七海の歌が終わったところで、せりすは上半身を起こした。

 

「じゃあ、次は何する?次は違う遊びしようか?ゲームする?私持って来たのよ」


 幼児でも楽しめそうなゲームは持っていなかったので、来る途中に足し算ゲームなる教育用ソフトを買ってきた。

 もちろん後で千歳に経費?として請求するつもりだ。


「んー……」


 七海はちょっと考えて首を大きく横に振った。


「いや?」

「ん!」

「じゃあ……」

「ぜりんごっこ!」

「あ、そう……」


 嬉しそうに魔法ステッキを振る七海を見てせりすはゲームへの誘導を諦めた。



 ぜりんごっこ第二回戦もせりすの役はアルタンだった。


「ひっさつー、ぜりんべあはっぐぅー!」


 せりすに抱きついた七海がぎゅーと抱きつく。

 幼児の力とはいえ結構強い。


(進藤君だったら鼻血出してるかな?感動して失神……は流石にないか)


「んー!」


 七海が顔を上げ抗議する。


(はいはい、倒れろって事ね)


「あー、やられたー」


 せりすはゆっくり仰向けに倒れた。

 七海は満足げな顔でまたぜりんの歌を歌い始める。


(「私はアルタンが変装してたんじゃなく本当に近所のおねえちゃんだったのよ」っ言ったらどうなるかな?)


 せりすはそんな意地悪をしたい衝動に駆られたが我慢した。

 泣かれたら後で面倒だからだ。

 そしてその事を千歳に知られたら約束は無かったことにされるだろう。

 それだけならまだしも妹を傷つけた者に千歳が何をするかわからない。

 それがせりすだったとしても。


(本当に異常よね。あれは病気レベルだから)


 この時のせりすは千歳が妹への興味を失っている事をまだ知らない。


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