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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
運命の迷宮編
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136話 得たものと失ったもの

「ふあああ……」


 ベッドから起き上がり時計を見ると十二時を過ぎていた。


「もうこんな時間かよ」


 自分の客室にいることを確認してベッドから降りた。

 


 事件が解決したのはキャンピングカーに移って二時間ほど経った頃か。

 うとうとしていたところをにゃっくに叩き起こされた。

 

 そっとカーテンを開け窓の外を見ると赤のジャケットを着た集団が見えた。

 救援部隊だった。

 俺達は彼等に護衛されながら自分の部屋に帰ってきたと言うわけだ。



 スマホを確認するがアンテナは立っていない。


「まだダメか」


 救援部隊の話によれば衛星回線は使えるようになったらしいが、完全復旧には時間がかかるらしく接続制限を行なっているそうだ。

 俺のような下っ端は当然ながら制限される側ってわけだ。


 襲撃してきた敵についても詳しく知らされていないが、この船に潜入出来たのは内通者がいたかららしい。


 今回の事件でどのくらいの犠牲者が出たんだ?

 駐車場だけでも三、四十人はいたよな。

 これだけの死者を出してどう対処するのか。

 報道せず行方不明扱いにでもするのだろうか。

 いやそれよりもだ、死んだ人達には悪いが今一番に知りたいのはこの後どうするかだ。

 すでに予定を大幅に遅れている。

 暗出島行きを中止してで引き返すのか、強行するのか。

 俺としてはすぐにでも帰りたいところだ。


 コンコン。


 ん?


「はい?」

「……私」

「おお、マリか」


 俺はドアの鍵を開ける。

 ドアの前には着替えたマリが立っていた。

 ほのかにシャンプーの匂いがする。

 備え付けのやつだな。


「どうした?」

「……入っていい?」

「ああ」


 部屋で待機と指示があったはずだが、マリには緊急の連絡が入ったのかもしれない。


「……今起きたばかり?」

「ああ。お前は大丈夫か?どこか異常はないか?」

「……問題ない」

「そうか。で、どうした?」

「……連絡があった」

「あ、やっぱりお前のスマホは使えるんだな」


 マリが小さく頷く。


「で、なんだって?」

「……任務は続行。ただし航路を変更するため到着は遅れる」

「マジかよっ⁉︎もう連休中に帰れねえぞ!」

「……千歳には向こうでどうしてもやってもらいたい事があるらしい」

「なんなんだよ、一体それは?」

「……私は知らされていない」


 はあ、参ったな。

 でも最悪の事態だけは避けられたな。

 電話使えるときに新田さんにお願いしといてよかったぜ。

 ……ん?お願い?


 にゃっくの視線に気づいた。

 どこか心配しているように見える。


「……どうしたの?どこか痛い?」

「あ、いや、違う。そのなんだ、俺、新田さんに何かお願いしてたような気がするんだが何頼んだのか思い出せないんだ。大事な事だった気がするんだが。お前、知ってるか?」

「……妹の事でしょ?」

「妹?なんで妹が出てくるんんだ?」

「⁉︎」

「な、なんだよ?なんでそんなビックリした顔するんだ?にゃっくもだ。お前ら普段表情変えないからすごい不安になるぞ」

「……お前、マジで言ってんのか?」

「ん?お前、シェーラか?突然変わんなよ、びっくりするだろ」

「そりゃこっちのセリフだ!お前がおかしな事言うから驚きで入れ替わっちまったんだよ!」

「シェーラ、言ってる事がよくわからんぞ。俺はおかしな事を言った覚えはないぞ」

「お前、本気で、本当に本気で言ってんだよな?な?」


 シェーラの奴、マジだな。

 俺、そんなにおかしな事言ったのか?

 ……わからん。


「悪いが、何がおかしいのか教えてくれ」

「……わかった」


 シェーラは真っ直ぐ俺の目を見て言った。


「以前のお前は自分の事をロリコンアンドシスコンだと公言していた」

「嘘つけ!」


 こいつは真面目な顔して何言ってんだ!


「俺がそんな事言うわけないだろ!」

「……」

「……」

「な、何だよ、なんで黙んだよ?にゃっくもどうしたんだ?そんな顔するなよ、スッゲー不安になるだろ!」

「……今のは冗談だ」

「な、なんだ、やっぱりか。びっくりさせやがって……」

「ロリコンはな。本当にそうかはわからんが」

「違うに決まってんだろ!」

「だが、シスコンだと言ってたのは本当だ」

「は?何言ってんだ?」

「……」

「確かに年の離れた妹だから可愛いぜ。それは認める。だが、誰だって年の離れた妹を持てばかわいいと思うだろ?周りからシスコンだと思われるんじゃないか?」

「……千歳、他人がどうこうじゃない。お前本人がシスコンだと言ってたんだ。今のお前はそれを否定しているんだ」


 にゃっくを見ると厳しい表情で小さく頷いた。

 

 にゃっくが認めるって事はシェーラの言っている事は本当なんだろうな。

 にゃっくは冗談を言わないしな。

 じゃあ、俺は本当にシスコンだったのか?自分の事をシスコンだって言ってたのか?


 妹の姿を思い浮かべる。

 一緒に遊んだ時の事を思い出してみる。

 確かに可愛がっていたし、シスコンをだと言った記憶も微かに残っていた。だがそれは冗談で言ったんじゃないのか?


「にゃっく、俺は、変わったのか?」


 にゃっくが無言で見つめる。


 本当に俺が変わったのなら原因は一つしかない。


 魔法だ。


 魔法を取得した時の頭痛。

 あれは呪文を脳に記憶させるときに起こる痛みだと思っていたがそれだけじゃなかったんだ。

 記憶する場所に既に他の記憶があっても問答無用で上書きするんだ。

 アディ・ラスによって上書きされ消えた記憶の中に自分をシスコンだと言い切る程妹を可愛がる大切な思い出があったのだろう。



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