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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
運命の迷宮編
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125話 窮地

 後ろを振り返ると、フランケンが切断した腕をひっつけていた。


 相変わらずむちゃくちゃな奴だな。だがちょっとは時間が稼げるか。

 今は数秒でも貴重だ。


 と、俺の少し後ろを走っていたマリが俺を追い抜いた。


 速い!


 マリがドアに近い付いたところで急停止した。


 どうした?

 とは言わない。理由はすぐにわかったからだ。


 階段へ続くドアからぬっと現れるものがいた。

 欧米人のような顔つきでボディビルダーのような体つきをした男だった。

 見る限りゾンビではないようだ。

 服装が乗員のものと異なり白一色で揃えられている。

 所々が赤く染まっているのは間違いなく血だろう。


「ここは通行禁止デース!」

「誰だ!?」

「フフフ……あなた達も“アレックス”と遊んで下サーイ!」

「アレックス?フランケンのことか⁉︎」

「フランケン……?ノーノー!フランケン違いマス!アレックスデース!」

「そんな事はどうでもいい!お前、侵入者だな⁉︎」

「フフフ、秘密デース!」


 いや、丸わかりだぞ。


 後ろをチラリと見るとフランケン、いやアレックスか、がゆっくりとこちらへ向かって来ていた。

 マッチョと規格外ゾンビ。

 人間を相手にしたほうがまだ勝ち目があるか。


 俺とマリが構えるのを見て男は両手をブンブン振る。

 

「ノーノー!ワタシは戦いは苦手デース」


 ……その体でどの口が言う?


「ちょっとお話シマショウ!ーーストップ!アレックス!」


 マッチョの声に反応してアレックスが停止した。


「ワタシはあなたに興味がありマース!」


 と俺を見るマッチョ。


「……モテてよかったね」

「アホか!」

「そういう意味“だけ”じゃありまセーン!」


 ん?今、コイツ気持ち悪いこと言わなかったか?

 俺の聞き違いだよな?


 マッチョが体をくねらせた。

 俺の全身を悪寒が走った。


 コイツはヤバイ!いろんな意味でヤバイ!

 だが、アレックスがこいつの言うことを聞くならこいつをなんとかすればアレックスを止められるということだ。

 ここはこいつの話を聞くふりをしてチャンスを待つしかない。


「俺に聞きたいことってなんだ?」

「先程アレックスの腕を切断した武器は何デスカー?」


 戦いを見てたのか?奴が言ってるのはケロロの事だよな。


「俺もよく知らん。気になるなら自分で調べればいいだろ」

「それもそうデース。後で調べマース」


 マリが動いた。

 変態マッチョとの距離を一気に詰めると蹴りを放つ。

 しかし、変態マッチョはその右足を片手で何の苦もなく掴んで止めた。


 マリの表情が微かに歪む。

 変態マッチョの表情がさっきまでの穏やかな表情から憎しみを露わにした表情に変わっていた。


「……女がオレに近づくんじゃねえ!腐るだろうが!」


 グギっと嫌な音が鳴った後、変態マッチョがマリをそのまま片手で投げ飛ばした。

 壁に背中から叩きつけられ動かなくなる。


「マリ!」


 マリの右足はおかしな方向に曲がっていた。恐らく変態マッチョに掴まれた時、折られたのだろう。

 バカ力め!

 これでよくもまあ戦いが苦手なんて抜かしやがったな!


「てめえ……!」

「おお、スミマセーン。ワタシ、ホントに戦う気はなかったんデース。このメスブタがワタシに近づいたのが悪いのデース!」


 そう言いながらポケットからウェットティッシュを取り出し手を拭く変態マッチョ。

 どうやらこいつは女が大嫌いのようだ。

 さっきのは聞き違いじゃなかったようだ。


 再び背筋に悪寒が走る。


 落ち着け、俺!冷静になるんだ。

 頭に血が上ったままじゃ助からないぞ!

 だがどうする?

 マリも致命傷を負ったわけじゃないと思うが、あの足では一人で歩くのも厳しいだろう。


「いやー、ほんとあっけないデース。魔法が使えないだけでこのザマでーす!」


 変態マッチョの表情は穏やかなものに戻っていた。

 ともかく今は時間を稼ぐことだ。

 マリがアレでは逃げきれねえし。

 頼むにゃっく!シエスでもいいから救援に来てくれ!


「お前が衛星回線を切断したのか?」

「我々が、デース。チョロいデース」


 この喋り方すげえカンに触るな。

 だが今は我慢だ。

 下手な事言って怒らせても俺に勝ち目はねえ。


「だが、それじゃあお前達も魔法使えないだろ?」


 変態マッチョは不思議そうな表情をしたあと、


「フフフ、アハハハハハッ!」

「何がおかしい⁉︎」

「これは失礼シマシター。……あなたは何も知らないのデスね」

「何?」

「衛星は一つではアリマセーン。そして我々の衛星は使用可能デース!」

「なん、だと?」

「そんなことも知らないとはあなた、下っ端ってやつデスねー」

「うるせえ!」


 なんてこった!こいつの言うことが本当なら上は大丈夫なのか⁉︎


「……私を置いて逃げて」

「マリ⁉︎気がついたのか⁉︎そんなこと出来る訳ねえだろ!」

「……泣かせますね」


 言葉とは裏腹に変態マッチョの顔が再び鬼の形相に変わっていた。


 ヤバイっ!


「……女って生き物はそうやって男の気を引こうとするのデース!ワタシから愛しい人を取り上げるのデース!」

「八つ当たりだろ!」


 変態マッチョがマリへ向かってゆっくりと歩き出す。


「腹が立ちます。煮えくりかえりマース!……お前はオレが直々にバラバラにしてやる!このメスブタが!」


 今なら階段へのドアへ逃げ込めるよ。


 そう誰かが俺の心に囁いた。

 いや、それは俺自身の声だったのかもしれない。


 このまま放っておけば確実にマリは殺される。

 かといって俺に奴を止められるとは思えない。

 後ろにはアレックスが待機しており、変態マッチョの命令でいつでも俺を殺せる。


「……だからって俺一人で逃げるわけにはいかねえだろ!」


 俺は恐怖を、生存本能を意思でねじ伏せた。


「マッチョ野郎!」


 俺の声にマッチョが振り返る。

 俺は渾身の力を込めたパンチをマッチョへ叩き込む。


 マッチョは冷たい笑みで俺のパンチを片手で軽々と受け止めた。

 

 くそっ、ピクリとも動かねえ!


 変態マッチョが俺を見た。

 その視線が熱かった。

 残った手が俺のサングラスを奪った。


「……あなた、イイデス。思った通りデース!ワタシのタイプデース!」

「いっ⁉︎」


 さっきとは比べものにならない程の悪寒が走った。


「な、何ってんだこの変態野郎!」

「……決めました。あなたは殺すのをやめマス。ワタシの恋人にシマース!」

「ふざけるな!」

「あなたはアレックスのように裏切らないで下さいね?」

「人の話を聞け……何っ⁉︎」


 こ、コイツ、


「自分の彼氏?をゾンビにしたのか⁉︎」

「そうデース。それしかなかったのデース」

「な、何がそれしかなかっただ!」

「ちなみにアレックスが最初に殺したのはワタシからアレックスを奪ったバカ女デース。フフフ、デース!」


 この野郎っ!


「大丈夫デース!いずれこの世界からすべての女を消して見せマース!男だけの世界、天国デース!」


 男だけの世界、だと?

 ……こいつは生かしておけねえ。


 

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