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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
運命の迷宮編
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124話 シエスの秘密

 闇皇帝は俺達が乗るトラックからそう遠くない場所に駐車していたトラックの荷台にストン、と降りた。

 闇皇帝が現れた<歪み>は既に消えていた。


 にゃっくが今まで動かなかったのはこいつの気配を察していたんだな。

 俺がここに来てから感じていた違和感もコイツだったのかもしれない。


 しかしここで闇皇帝かよ!

 フランケンとゾンビだけでも手一杯なんだぞ!


 闇皇帝が俺達に向かって笑みを浮かべた。


「……かわいい」

「何言ってんだ!あれはどう見ても俺達を見下してる顔だぞ!」

「……でもかわいい」

「そんなこと言って場合じゃない!アイツは手強いぞ!ってマリ!右!ゾンビが上がってきてる!」


 マリは無表情のままゾンビの手をガンガン足で踏む。

 ゾンビの手が荷台から離れて下に落ちた。


 闇皇帝は人を操る力を持っていたようだがマリは大丈夫なようだな。

 魔法使いやラグナ使いには効きにくいのか、今回は使う気がないのか。


 俺達がゾンビの相手をしている間に闇皇帝はトラックの荷台から俺達の方へまっすぐ歩いて来いていた。


「……空中を歩いてる」


 そう、闇皇帝の体は既にトラックの荷台から離れて宙に浮いていた。

 トリックではない、皇帝猫の能力、空中歩行だ。

 真下にはゾンビがうろついていたが、闇皇帝は全く気にする様子はなかった。


 すごくマズイぞ。

 奴がファルスや皇帝拳を使えば、例え俺達に当たらなくてもこの荷台を簡単に壊すことが出来るだろう。

 下に落ちたら最後だ。群がるゾンビを全て退ける事は不可能、

 つまりジ・エンドだ。


 にゃっくが俺を見た。

 すぐにその意図を読み取った。

 俺が頷くとにゃっくは俺の肩から降り、闇皇帝に向かって歩き出した。


「頼むぞ、にゃっく!」


 闇皇帝の相手はにゃっくに任せるしかない。

 俺の知る限り、にゃっくは最強の皇帝猫だ。

 にゃっくなら一騎でも闇皇帝と互角に渡り合えるだろう。

 俺は荷台に上がって来ようとしたゾンビの顔に蹴りを入れた。

 ゾンビが荷台から落下する。

 嫌な感触が足に残った。

 落下したゾンビが立ち上がりまた上ってこようとする。


「埒が明かねえ!」


 頭を潰せば動きが止まるのはわかってる。

 頭ではわかっているのだが、いざやろうと思っても体が拒絶するんだ。

 今の蹴りだって手加減してしまった。

 例え相手が死体だろうと人間だ。さっきまで俺達と同じで生きていたんだ。


 だが、そんな事を言ってられるのも時間の問題かもしれない。



「伏せて下さい!」


 シエスの声に反応して体を沈める。


 次の瞬間、がしぃーん、と何かがぶつかる音が聞こえた。

 俺の目の前を顔が半分潰れたゾンビが通り過ぎた。

 どうやらフランケンが投げたゾンビをシエスが盾で打ち返したようだ。


 互いに人間離れしてやがる。

 って、フランケンは既に人間じゃねえか。

 そしてシエスだが、


「大丈夫、でしたか?」

「あ、ああ、っていうか、お前こそ大丈夫か?」

「問題ありません、よ」

「いや、そうは言ってもだな……」

「……そうは見えない」


 そう、シエスの口から白い煙が出てたんだ。


「……お前、オーバーヒートしてんじゃないのか?」

「何を言ってるのデス?ボクは人間デス」

「いや、人間は口から煙なんか出さないぞ」


 俺の言葉でシエスは自分の異常に気づいたようだ。


「……どうやらボクの秘密を明かすときが来たようデス」

「ロボットなんだろ?」

「……でしょ?」

「……」

「何沈黙してんだよ?早くしろよ。時間ねえんだぞ」

「……ボクは人間ではありません。組織が極秘裏に開発したアンドロイド、デス」

「やっぱりな」

「……だと思ってた」

「チトセ達はまったく気づいていないようでしたが」

「お前、俺達の話聞いてたか?」

「盾を振り回すのは思った以上に体に負荷がかかったようデス」


 俺の言葉を無視し、そう言った次の瞬間、シエスの服のあちこちが裂け肌色の突起が現れる。

 それが皮膚を偽装した体のカバーだと後で気づいた。


 シュー、と服の裂けたところから熱風が吐き出される。


「お、おいっお前⁉︎」

「大丈夫デス。放熱しただけデス」


 すぐに放熱は収まり、肌色の突起も服の中に消えた。

 シエスはフランケンの動きを伺いながらゆっくりと背中の装置を下ろした。


「それ、使うのか?」

「ん?違いますよ。戦いに邪魔なので」

「そうか」


 だったらもっと前に降ろせよ。紛らわしい!


「ボクはこれからフランケンに接近戦を挑みます」

「何⁉︎」

「ボクには生命エネルギーがありませんからゾンビは寄って来ないでしょうし、接近戦ならフランケンに勝つ自信があります」


 本当に寄って来ないかはわからんが、確かにアンドロイドのシエスなら噛まれてもゾンビ化する事はないだろうし、フランケンさえ倒せばゾンビが集団行動を取る事もなくなるだろう。


「わかった」

「その間二人だけになりますが大丈夫デスか?」

「ああ、なんとかもたせる!」

「……貞操は守る」

「お前は何言ってんだ!シエスはそう言う意味で言ったんじゃねえ!」

「マリ、流石にチトセでもこの状況で手を出したりはしないでしょう」

「この状況じゃなくても手を出さんけどな!ってこんな時にもバカ話かよっ!お前ら余裕だな!おい!」

「では行きます」

「お、おお、気をつけろよ!」


 シエスは俺に笑みを見せると荷台から飛び降りた。

 が、たちまちゾンビに囲まれて身動きできなくなる。


「あれ?なんでゾンビが集まって、……あ、だ、誰ですか!どさくさに紛れて変なとこ触ってるのはっ⁉︎」

「……ロボットも気にするんだ」


 アンドロイドデス!と訂正する声が聞こえた。


「アイツ余裕だな、ってヤバイぞ!俺達の作戦、フランケンに思いっきりバレてるじゃないか!」


 フランケンがゆっくりとこちらへ向かってくるのが見えた。

 にゃっくは闇皇帝と戦いの真っ最中でとても助けを求められる状況じゃない。


 ……やるしかないのか。


 俺はスマホを操作した。

 アクティブ・ワイヤーのケロロが俺の右腕に巻かれる。


 これで奴の噛みつきはガード出来るはずだ……が、そこまで接近を許した時点で終わりじゃねえか?


 フランケンが三メートル付近まで近づいて来た。

 ゾンビは全てシエスにもとに集まっているのでちょうど二対一の格好になった。


 数で上回ってもな。

 魔法の使えないマリはどの程度戦えるんだ?


 俺の視線に気づいたのかマリが俺を見た。

 俺の無言の問いかけにぽつりと答えた。


「……無理」


 だよな。


 フランケンが俺達が乗るトラックの真下に来た。

 その手が荷台を掴む。

 荷台に乗ってこなかったところを見ると恐らくトラックを横転させてゆっくり始末する気なのだろう。


 仕掛けるなら奴が油断してる今しかない。

 こいつを仕留めるには確実に頭を破壊するしかない。


 ……やるしかない。やらなければこっちがやられる。



 俺はスマホを操作し、右腕をフランケンに向けた。

 ケロロが俺の腕からフランケンに向かって放たれる。

 フランケンは俺の攻撃を察知し、命中する寸前で腕を伸ばして頭を庇った。

 ケロロがフランケンの右腕に巻きつく。


 くっ、それでもっ!


 ケロロにコマンドを送る。ケロロがフランケンの右腕を締め上げ切断した。


 予定とは違ったが、これでも少しは時間を稼げるはず!

 その間ににゃっくかシエスが……⁉︎


 だが俺の考えは甘かった。

 フランケンは片腕一つでトラックを持ち上げ始めたのだ。

 傾くトラック。


「マジかよっ⁉︎」


 辺りの状況を素早く確認する。


「マリっ!向こうの車の上に移動するぞ!」


 マリが無言で頷く。

 トラックが横転する直前に俺達はジャンプして隣の乗用車の上に乗った。

 乗用車の上じゃ低すぎる。

 ゾンビに囲まれたら終わりだ。

 その前にフランケンにやられるだろうが。

 トラックの荷台に登る余裕はないし、乗れたとしてもまた横転させられるだけだ。


「マリ!走るぞ!」


 俺達は階段へ続くドアへ向かった。

 もしかしたら救援が近くまで来ているかもしれない。


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