123話 闇、再び
「しかし、あいつはなんなんだ?」
「フランケン、デス。今そう決めたじゃないデスか。記憶力がないのデスか?」
「そういう意味じゃねぇ!なんでアイツだけ特別なんだって意味だ!」
「そうならそうと言ってください」
「それくらい察しろ!」
「少なくとも乗員じゃないデスね」
「なに?確かにあいつジャンパー着てねえがそれはちょうど脱いで……」
「そんな事ではありません。乗員の中にフランケンと特徴が一致するものは見つかりませんでした」
「そんなのいつ調べたんだよ?」
「ボクは出来る男デスから」
「だから説明に……」
にゃっくが俺の服を強く掴んだ。
「……来る」
マリのつぶやきに「何が」と聞く必要はなかった。
フランケンがさっき片腕をもぎ取ったゾンビを俺達に向かって投げたんだ。
「マジかよっ⁉︎」
フランケンと俺達との距離は十メートル以上は離れてんだぜ!
なのに投げ飛ばしたゾンビは俺達のすぐそばまで飛んで来た。
わずかに飛距離が足りず、車の前で落ちたがこれで投石、いや投ゾンビが終わるとは思えない。
その証拠にフランケンは肩をぐるぐる回していた。
まだやる気満々だ。
「……人に物を投げてはダメ」
「いや、まあ、その通りだけどな」
「人は物ではないデス。いえ、ゾンビは物と扱っていいのでしょうか?」
「そんな事はどうでもいい!フランケンの野郎、遠距離攻撃に切り替えやがった!またゾンビを投げてくるぞ!」
こいつには知能がある!
面倒な奴に目を付けられたぜ。
さてどうする?
俺のクララ、じゃなくてケロロ?だったか、なら奴に巻きつけて体を切断することは出来ると思う。
……後でめっちゃ気持ち悪くなりそうだが。
だがそれにはある程度の距離まで近づかないとダメだ。
こんなにゾンビがいる中ではまず無理だ。
じゃあ、シエスはどうだ?
「シエス、お前は遠距離攻撃する武器はないのか?」
「ありません。今回のボクは接近戦に特化されています」
「その言い方、お前自身が戦闘兵器に聞こえるぞ」
「……」
否定しない?
「じゃあ、マリは?」
「……今は無理」
「だよな」
となるとやはりにゃっくか。
にゃっくはラグナを使えるはずだ。
新田さんはラグナを飛ばしていたからおそらくにゃっくも出来ると思う。
“顔取り”との戦いで使った技、あれならフランケンを確実に倒せるだろうが、あの技は自分への反動も大きい。
あの技を使った後、寝込んじゃったからな。
こいつがラスボスかもわからないんだ。安易に使うわけにはいかないよな。
それにしてもだ。
最初フランケンが接近した時に皇帝拳で切り裂けばそれで終わりだった気がするんだが、なんでそうしなかったんだ?
相手の力を見誤ったのか?シエスが邪魔だったのか?
それとも……。
フランケンが今の距離を保ったまま俺達の車の周りを歩き始めた。
「何してるんだ?」
「……考えてる?」
「……チャンス、デス」
「何がだ、シエス?」
シエスがニヤリと笑った。
その笑みには見覚えがあった。
ぷーこがよく見せる笑みだ。
あ、こいつ、絶対バカな事を言うぞ。
「このまま放っておきましょう」
「どうしてだ?」
「そうすればフランケンはやがてバターになります」
「お前は既にバカーだがな!」
「失敬ですね」
「童話と現実をごっちゃにするんじゃねえ!」
「え……、あれは現実の話ではないのデスか?」
「そんな訳あるか!」
まったくこいつは緊張感をなくす事言いやがって……
「……来る」
フランケンが再びゾンビを投げた。
今度は距離があり過ぎた。俺達の頭の上を超えて背後に落ちた。
「今のはちょっとやばかったな」
マズイな。
飛距離は十分だし、コントロールも悪くない。
次は荷台に落ちて来るぞ。
だが、予想に反してフランケンが投げるゾンビは荷台に乗るものはなかった。
投げられたゾンビ達は俺達が乗るトラックの周りから離れない。
「アイツ!ゾンビを俺達にぶつけるのが目的じゃねぇ!ゾンビを俺達の周りに集めてんだ!」
「そのようですね」
「だが、いくら集めようがこいつらに荷台へ登る知能はないぞ」
フランケンの動きの意図が読めねえ。
「シエス、フランケンは乗員じゃねえと言ったな?」
「はい」
「じゃあ、誰なんだ?」
「恐らく襲撃者の一人ではないかと」
「つまり自分達のゾンビ攻撃で自滅したって事か?」
「恐らく」
「それが本当ならバカっぽいが……ん?」
フランケンの動きが止まった?
こっちを見てるな。
フランケンの腕がゆっくりと上がり、こちらを指差した。
その瞬間、今まで勝手気ままに動いていたゾンビ達の動きが変わった。
運転席の屋根に登り始めるものが現れた。
さらにゾンビ達が協力し合い、肩車して荷台に上がろうとするものも現れた。
「……まさか、フランケンが遠隔操作してる⁉︎」
「ゾンビをビット代わりに使うとは敵ながらやりますね……」
「ビット?」
「あ、チトセはドラグーンと言った方がわかりやすかったデスね」
「どっちもわかんねえよ!」
「……遊んでる暇はない」
マリの言う通りだ。
俺達は荷台に上がろうとするゾンビの手や頭を蹴って荷台から落とす。
その中で、にゃっくだけは動かなかった。
「にゃっく!」
俺の声に反応してにゃっくが俺の服をギュッと握った。
いや、違う。
タイミングが同じだっただけだ。
俺は新たな気配を感じた。
気配がする方向に目をやるとそこに<歪み>が発生していた。
そしてそこからぬっとでっかい頭の子猫が現れた。
白い毛並みにドス黒いオーラを纏った皇帝猫。
闇皇帝だった。




