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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
運命の迷宮編
131/247

122話 規格外

 さてどうする?


 俺の考えがまとまる前ににゃっくが動いた。

 こちらへ向かってくるゾンビを一瞬にして切り裂いた。


 死体とはいえ、容赦ないな。


「よし、じゃあ取り敢えず階段に戻って……⁉︎」


 俺達が入って来たドアから誰かが現れた。

 その体はフラつき酔っ払っているかのようだ。

 ゆっくりとこちらへ向かってくる。

 そいつ一人ではなかった。次々と駐車場へ流れ込んでくる。

 どれも体の一部に深い傷を負っており、その状態で歩くなど自殺行為だ。

 もちろん、まだ生きていれば、の話だ。


「何てこった!」

「おそらく上の階から降りて来たのでしょう」

「そうだろうな。って事は上に行ってたら鉢合わせだったな」

「ボクの英断のお陰で難を逃れましたね」

「そうだったか?まあ別にいいけどよ」

「……どうする?」


 マリはシェーラと違い冷静だな。

 いや、やる気がないだけか。

 まあ、あのゾンビの中に一人で突っ込まれるよりはマシか。

 にゃっくも今度は突撃したりしない。相手の数が不明だからだろう。


「このままここにいるのは危険だよな。どうするか」

「取り敢えず避難しましょう」

「避難?何処にだよ?」


 シエスが指差したのは荷台が箱型のトラックだった。


「もしかして荷台の上か?」

「はい」


 確かに動きが鈍くほとんど知能がない(はずの)ゾンビじゃ高さが二メートルを軽く超える荷台の上まで追いかけてくるのは難しいはずだ。


「荷台の上で助けが来るの待つってことか。でも目立つよな?」

「当たらなければどうということはありません」

「そりゃそうだが、って何が当たるんだ?」

「……」


 まあ、迷ってる時間はないか。


「よし、それで行こうぜ。行けるかマリ?」

「……問題ない」


 シエスはなんだかわからない装置を背負い、更に盾と重装備にも拘らず、それを感じさせない身軽さでジャンプすると荷台の屋根を掴み、そのまま腕の力だけで荷台の上に登った。


「お前、凄いな!もしかして本当に強いのか?」

「最初からそう言ってます。信じてなかったのデスか?」

「ああ」

「失礼デスね」

「はは。よし、次はマリ、って」


 マリは俺の言葉を待たず行動を開始していた。

 運転席の突起を上手く利用して運転席の屋根に上がり、荷台へ移動した。

 無表情なのにその顔はどこか誇らしげに見えた。


「チトセ、急いでください」

「わかってる」


 ゾンビが結構近くまで迫っていた。


「ボクが手を貸しましょうか?」

「いらねえよ。この程度なら人の手を借りるまでもない」


 肩に乗っていたにゃっくがジャンプして荷台に乗る。

 俺もマリに倣って運転席の屋根に乗ってから荷台に移動した。

 ぱちぱちとシエスが手を叩く。


「よく出来ましたね」

「こんなの普通だろ」

「……まねしー」

「うるせい!ここに登るのはこれが一番楽だろう!誰だって思いつくわ!」


 さて、荷台に登ったもののこの選択は本当に正しかったのか?

 

 

 俺達が荷台に避難してから三十分が過ぎた。

 その間もゾンビは増え続け、見えるだけでも二十体くらいいる。

 そのほとんどが俺達がいるトラックの周りに集まっていた。

 荷台の上に登ろうとする者も何体かいたが、俺やマリがやった方法を思いつくものはいなかった。シエスのようにジャンプして登ろうとする者もいなかった。



「ここまで登って来られる奴はいないみたいだな」

「計算通りデス」

「しかし、こいつらなんで俺達の場所わかるんだ?」


 新たに現れたゾンビはまず俺達に向かって来る。

 そして襲うのが無理だと諦めてトラックから離れる者とそのまま残り続ける者とに分かれる。

 ほとんどはトラックの側から離れない。


「少なくとも目じゃないよな。両目が潰れてるやつもいるし、音か?」


 映画ではそういう設定のゾンビもいたな。


「いえ、おそらく生命エネルギーでしょう」

「生命エネルギー?」

「はい。向こうの世界のアンデットは生命エネルギー、生きている者の位置を察知する能力がありました。もちろん、この者達が向こうのアンデットと同様の存在なら、デスが」

「なるほど。だからゾンビ同士で襲わないのか」

「そうデス」


 俺はスマホを見た。相変わらず圏外のままだった。


「マリ、シェーラは今度いつ出て来れるんだ?」

「……不明」

「不明?」


 マリはコクリと頷いた。


「ダブルの能力は不安定なのデス」

「そうなのか」


 まあ、魔法が使えない今、シェーラが出てきても面倒を起こすだけか。


 突然、駐車場の照明が落ちた。


「うおっ⁉︎」


 サングラスかけてるから何も見えんぞ!


 サングラスを取る。


「これでもよく見えん。ま、当たり前か」


 数分で照明は点灯した。

 と同時に駐車場に警報が鳴り響いた。おそらく船内全体にだろう。

 俺はサングラスを掛け直す。


 ガガガガ……


「ん?放送……」

「静かに」


『……緊急事態発生!本船は敵の襲撃を受けています!現在応戦中ですが排除に至っておりません。また敵の攻撃により牢屋より魔物が放たれ、襲われた乗員のアンデッド化も確認されています。感染拡大を防ぐため地下一階以下へアンデッドの抑え込みを行い、ロックをかけました。今現在地下にいる者は連絡があるまで部屋のドアの鍵を閉め、出来るだけ音を立てずに待機してください。敵及び魔物排除の後、救出に向かいます。なお、現在衛星との回線がダウンしており、復旧の目処は立っていません。乗員は十分注意願います。繰り返します……』

「……なるほど。追いやられて行き場がなくなったアンデッドがここに集まってきたのですね」

「そういう事はもっと早く言えよ!俺達は自らアンデッドの溜まり場に来ちまったって事かよ⁉︎」

「おそらく敵の攻撃で連絡網が遮断されていたのでしょう」

「まあ、まだ生存者がいるとわかってちょっと安心したな。あとは助けが来るのを待っ……⁉︎」

「チトセ、どうしました?」


 なんだ?なんか嫌な感じがする。

 これは……、


 俺は嫌な感じがする方向に目を向ける。

 その先は俺達が入って来た階段のドアだった。

 そのドアが開いた。

 と同時に数体のゾンビが倒れ込んできた。

 それらを踏み潰して現れた者、それもゾンビのようだが明らかに他のゾンビと違う。

 何故なら、そいつは……、


「お、おい、シエス!アイツはなんだ⁉︎ゾンビを食ってるぞ!ゾンビは仲間を襲わないんじゃなかったのか⁉︎」

「……」

「おい、シエス……⁉︎」


 げっ、奴と目が合っちまった。


 気のせいだと思いたかったが、気のせいじゃなかった。

 そいつは俺に向かってニヤリと笑いやがった。

 次の瞬間、こちらへ走り出した。


「って、アイツ走ってるぞ!」


 進路上にいるゾンビを突き飛ばす。その勢いは衰える事なく数メートル近くまで来るとジャンプした。

 高い!そして凄い飛距離だ!


 俺の目の前に迫る規格外のゾンビ。

 次の瞬間、規格外のゾンビが吹き飛んだ。

 シエスが盾をゾンビに叩きつけたのだ。


 どおーん、


 規格外のゾンビは壁に激しくぶつかった。


「シエス、助かったぜ」

「当然デス。これが僕の任務デスから……でもまだ終わりじゃありません」

「何?」


 規格外ゾンビが立ち上がった。

 その右腕はシエスの盾をもろに受け、肩から下が潰れていた。


「頭を狙ったのですが、腕で防がれてしまいました」

「だが、あれじゃもう使えないだろう」


 その考えは甘かった。


 規格外ゾンビは使い物にならなくなった右腕を左手で掴むと強引に引きちぎった。

 その右腕を投げ捨てると近くを歩いていたゾンビを捕まえ、その右腕を引きちぎり、無理やり自分の右腕に押し付けた。


「……無茶苦茶だな。そんなんでくっつくわけ……ってくっ付くのかよ⁉︎」


 信じられない事にそれで右腕が動いたのだ。


「なんなんだ、アイツは……」


 よく見ればズボンが裂けむき出しの右足も違和感がある。

 ……まさか、あの右足も他の奴のか?


「フランケンシュタインかよ……」

「……千歳、人気者ね」

「嬉しかねえよ、っていうかこの状況で他に言う事ないのかよ⁉︎」

「……ない」


 ……あー、そう。


「以後あのゾンビを”フランケン”と呼称することとします。いいデスね?」

「勝手にしろ」


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