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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
運命の迷宮編
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107話 悪霊の棲む家5

「もう三十分くらい経つよな?」

「遅いわね……何かあったのかもしれないわね」

「案外、下着漁ってたりしてな」

「進藤先輩じゃないですから……あ、別に深い意味はないです……」

「そりゃそうだよな。そのまんまだしな!」

「冗談です……」

「そうだといいな」

「じゃあ、それも含めて調べに行きましょう」

「全員で行くのか?もし本当に悪霊がいたらマズくないか?」

「その時は私が渋谷さんを守るわ」

「……新田先輩、カッコいいです。……新田先輩は」


 渋谷さん、今の言い方非常に気になるぞ。

 ま、まあ俺は大人だから、細かいことにいちいち突っ込んだりしないけどな!


 しかし、大丈夫か?

 悪霊がいた場合、戦えるのは新田さんとみーちゃんだけだ。

 ちょっと前までのみーちゃんは機嫌が悪く当てになりそうもなかった。

 元とはいえ組織の者がそれでいいのかと思わなくもなかったが、この件が終わったらパソコンの組み立てをするとわかってやる気が出たようだ。

 エアコンを暖房にして室内の温度を上げたことも大きいかもしれない。

 悪霊がいたとしても今まで渋谷さんが無事だったんだ。大した力は持ってないだろう。

 それにシエス一人よりはこの二人?の方が上だよな、たぶん……って、ちょっと待てよ。

 なんで倒す方向で考えてんだよ、俺!

 悪霊がいるか調査するだけだよな?

 倒す必要はないよな?


 ……でもなあ、新田さん、「攻撃こそ最大の防御よ!」とか言って突っ込んで行ったりしないか?

 ……十分ありうる。


 ここは釘を刺しておこう。



「新田さん、ちょっと」

「何?」

「いいから。渋谷さんはちょっと待てて。みーちゃん」


 みーちゃんは俺の意図を理解したのだろう、新田さんの腕からジャンプして渋谷さんのそばに降りた。

 言うまでもなく渋谷さんの護衛のためだ。


「何?」

「確認だ。俺達は悪霊がいるかを調べるだけだぞ?」

「そこは臨機応変でしょ」

「新田さんとみーちゃんが霊を倒す力を持ってることが渋谷さんに知られるのはマズイぞ。渋谷さんは一般人でしかも同じ大学に通ってるんだ」

「口止めすればいいでしょ」

「約束してもうっかり口を滑らすこともあるだろ?そうなると後々面倒だぞ」

「じゃあ、進藤君はシエスが危険な状態だったとしても見捨てるの?」

「そ、それは……」


 あいつはロボットだし……本当にそうなのか?

 あいつ、本当にロボットなんだろうか?

 万が一という事もあるか……。


「それは、できないか」

「でしょ?」

「あくまでも最後の手段だからな!」

「わかってるわよ」


 新田さんの満面の笑み。

 俺はその笑みを何度も見たことがある。


 ……ダメだな。このイノシシは。


「……何か言った?」

「別に」



「も、もしかして今晩、どちらが上に乗るかの相談ですか……きゃ」


 なんでこんな時にそんな話すんだよ?


「まあ、そんなところ」

「あのな……」

「……進藤先輩、更に見損ないました……」

「なんでだよっ⁉︎更にって……」

「さ、行きましょう」

「おいっ」



 二階に上がった時だ。

 奥の部屋から“ドン!”と何かが壁にぶつかるような音が聞こえた。


「なんだ⁉︎」

「行きましょう!」


 俺が止める間もなく、新田さんが勢いよくそのドアを開ける。

 正面にシエスがいた。

 壁にもたれかかりぐったりとしていた。


 部屋を見渡すがシエスの他には誰もいないようだった。


「おい、シエス!」

「……不覚デス」

「何があったの?」

「ば……」

「ば?」

「バッテリー……お腹が空いて動けません」

「……ダメだ、こいつ」

「あ、お腹が空いてるんですか?昨日の残り物ならありますけど?」

「……いえ、ボクはアレルギーがありますので自分で用意した物しか口にしないのデス」

「そうですか」

「今の音は腹が減ってぶっ倒れた音だったのか?」

「それは……」

「みゃ!」


 シエスが答えるより早くみーちゃんが反応した。


 みーちゃんの視線の先、天井近くに直径三十センチメートル程の黒いシミのようなものがあった。風もないのに黒いシミはゆらゆらと揺れていた。


「……あれ、何?」

「<歪み>だ」


 <歪み>を見るのは初めての筈だが確信があった。


「……アレがそうなんだ」

「……あの、何か見えるんですか?」


 そうか、普通の人には見えないんだったな。


「まあ、なんと言ったらいいか……」

「何かいるわ!」

「え?」


 新田さんの言う通り、<歪み>の中から赤い目が見え、じっとこちらを見ていた。

 その目はレイマを連想させた。


 まさかっ、ここでレイマ⁉︎

 

 次の瞬間、それが<歪み>から飛び出し、ベッドの上に降り立った。

 それは皇帝猫だった。

 体毛はみーちゃんと同じく白だ。

 だが、全身にどず黒いオーラを纏っていた。それはあらゆる悪意を固めて作ったかのように思えた。

 明らかに普通の皇帝猫じゃない。


「渋谷さん、こいつがガブちゃんか?」

「……」

「渋谷さん?」


 渋谷さんは呆けた表情をしていた。何も見えても聞こえてもいないようだ。


「大丈夫⁉︎渋谷さん⁉︎」

「気をつけてください、それは闇皇帝、デス」

「闇皇帝?」

「闇に魅入られ落ちた皇帝猫、デス」


 闇皇帝と呼ばれた皇帝猫はニヤリと口を歪めて笑った。

 人を小馬鹿にしたような笑みだ。


「気を、つけてください。闇皇帝は皆ファルス使い、デス」

「ファルス?初めて聞く言葉だぞ?」

「ラグナの対極に位置する力、デス」


 と、闇皇帝の赤目が強く光った。


 やばい!こいつ、何か攻撃してきた⁉︎

 幸い俺の身に変化はない。魔法使いになって耐性が出来たのだろうか?新田さんもみーちゃんも大丈夫のようだ。


「進藤君!」

「え?……ぐっ⁉︎」


 突然、誰かが後ろから俺に抱きついてきた。

 消去法からいっても香水の匂いからしても渋谷さんに違いない。


「お、おい、どうした⁉︎」

「……変態、シスコン、下着ドロ」

「な、何言ってるんだ⁉︎」

「精神攻撃デス。チトセの心の傷を抉っているのデス。……チトセの精神力、大幅ダウンを確認、デス」

「勝手な事言ってんじゃねえ!俺は下着ドロなんかしてねえぞ!」


 どうやら、魔法の類に抵抗力のない渋谷さんは闇皇帝に操られてしまったようだ。

 その細腕からは考えられない力で抱きしめられて引き剥がすことができない。

 更に耳元で囁き続ける。

 有る事無い事……、


 ほとんどない事だぞ!


「……うれしそうね」

「んなわけねーだろ!これリミッターが外れてるぞ!メチャクチャ痛え!おい!渋谷さん!聞こえてねえのか!?」

「それは好都合かも」

「何でだよ⁉︎」

「今なら私が力使っても問題ないわよね」

「いや、覚えてるかもしれねえぞ!」

「その時はその時よ」


 新田さんのラグナが発動し、全身が青いオーラが包む。


「危ないぞ!」

「大丈夫。それに攻撃こそが最大の防御って言うでしょ!」

「やっぱりかよ!このイノシシが!」

「誰がイノシシですって⁉︎」


 やべっ、声出ちまった。


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