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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
運命の迷宮編
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105話 悪霊の棲む家3

 俺達は藤原探偵事務所の最寄駅である神無月駅の隣、長月駅にいた。

 ここから渋谷さんの家までは徒歩で二十分ほどのところにあるらしい。

 渋谷さんはいつも駅まで自転車で来ているとのことで今も月極駐輪場へ自転車を取りに行っているところだ。

 待ってる間に俺はキャリーバッグからみーちゃんを出してやる。

 不機嫌そうに見えるのは気のせいじゃないだろう。

 結局、パソコンパーツはひとつも箱から出すことなく調査に来ちまったからな。


「みーちゃん、もうちょっと我慢してね」


 新田さんが抱き上げ、そっと頭を撫でるが、機嫌は治りそうもない。

 そこへ自転車を押しながら渋谷さんが現れた。


「どうかしましたか?」

「いや、なんでもない」

「そう、ですか」

「さあ行きましょう」

「はい」



 長月駅で降りたのは初めてだ。

 電車の窓から見た限り特に珍しいものはなかったが、実際降りてみるとやはり何もなかった。


「ここ、何もないですよ、ね?」

「普通じゃないか。俺んとこも同じようなもんだ」


 とは言ったものの、それはあくまで”普通に見えるモノ”についてだ。

 今の俺はいろいろあって普通の人には見えないものが見える。


「……進藤君、見えてた?」

「……ああ」


 やっぱり新田さんにも見えるか。

 さっき通り過ぎた交差点に幽霊が立っていたんだ。

 その姿はサラリーマン風の中年男性だった。交通事故で亡くなったのだろうか。

 昔の俺なら間違いなく顔に出ていただろうが、今の俺は幽霊が見えた程度で慌てたりはしない。

 幽霊は俺が見えていることに気づかなかったようだ。

 みーちゃんが何もしなかったところを見ると悪霊ではないのだろう。

 ……いや、機嫌が悪くて何もする気がないだけかもしれないな。

 あとでアヴリルとキリンさんにメールしとくか。


「どうかしました?」


 渋谷さんが不思議そうな顔で俺たちを見た。

 やはり渋谷さんには見えていなかったか。


「いや、なんでもない」

「……ああ、そういうことですか」

 

 渋谷さんは顔を赤らめた。


 あんた、一体何を考えたんだ?

 と問い詰めてやりたいが、逆に聞き返されても面倒なので黙っておくことにした。



「……あれ?」

「どうした?」

「家の前に……」

「ん?家の前?」


 およそ三十メートルほど先の家の前にタクシーが止まっていた。


「あそこが渋谷さんの家?」

「ええ……」


 俺たちが数メートルまで近づくとタクシーのドアが開き、一人の少年が降りてきた。

 シエスだった。

 今日のシエスの服装はカジュアルジャケットにジーパンといたって普通だった。

 言うまでもないがあのでかい盾は持っていない。

 シエスが俺たちの方に気づき驚きの表情をする。


「チトセにセリス、それにミカエルさん、奇遇デスね」

「奇遇、だと?」

「シエス、あなたここに何しに来たの?」

「ボクは皇帝猫をこの近くで見たと言う情報を得て確認に来たのデス」

「どこでその情報を得たんだ?」

「秘密デス」


 怪しい。なんかタイミング良すぎないか?


「……あなた、もしかして事務所に盗聴器しかけてたんじゃないの?」

「そんな事はしてません」

「……」

「……」


 うむ、この二人相性よくないな。

 

「あの……この方とは知り合いなのですか?」

「あ、ああ悪い。こいつは王子シエス。喫茶店のウェイターだ」


 多分ロボットのはずだが、一般人に言えんよな。


「ウェイター、ですか?」

「はい。ボクは喫茶店”ねこねこね”の看板ウェイターデス」

「ねこねこ、ね?」

「そうデス。もし近くに来た時はよろしくデス」


 そう言って、ジャケットの内ポケットから名刺を取り出して渋谷さんに渡した。


「おまえ、名刺なんか持ってたのか?」


 シエスのくせに生意気だぞ。


「はい。チトセもどうぞ」

「そうか……ん?」


 名刺の肩書きにまで”ねこねこね看板ウェイター”と書いてあった。


「……普通書かないわね」


 俺の受け取った名刺を覗き込んでそう呟く新田さん。

 俺も同意見だ。


「で、おまえは渋谷さんのとこの猫が皇帝猫か確認に来たのか?」

「そうデス」

「皇帝猫?」

「あ、ああ。このみーちゃんは”皇帝猫”って品種らしい」


 ほんとは猫じゃないけどな。


「この子にそっくりなガブちゃんも皇帝猫ということですか?」

「話を聞いた限りではたぶんそうだ」

「もしガブちゃんが皇帝猫だったら何かあるんですか?」

「いえ、何もありません。ただ珍しいので近くにいるのでしたら見てみたかっただけデス」

「……」


 それちょっと理由として弱くないか?


 と思ったのだが、渋谷さんは特に不審に思わなかったようだ。


「チトセ達も皇帝猫か確認に来たのですか?」

「あ?ああ、まあそんなところだ」

「もしよろしければボクも見せてもらえませんか?ボクは怪しいものじゃないデス。チトセとは特別な関係なんデス」

「え?特別な関係?……」

「おい、変な言い方するな!ただの友達だろ!」


 いや、友達と言いたくないがそう言うしか思いつかなかった。

 と、渋谷さんが顔を赤くして俺を見た。


「何?」

「進藤先輩は……両刀……なんですね」

「違う!俺はノーマルだ!」

「いえ、いいんです。さっきの新田先輩の態度も納得しました」

「だから違う!」


 だが、渋谷さんは俺の話をスルー。

 いやまあ、俺の話をスルーするのは彼女に限ったことじゃないが。


「もしかして、王子さんも霊が見えたりするんでしょうか?」

「あ、ちょっと……」

「ボクのことはシエスとお呼びください」

「あ、はい、シエス、さん」

「霊ですが、ボクは見ることができます。霊退治はボクの得意分野の一つでもあります」

「え?そうなんですか?」


 あー、なんかまた面倒になってきたぞ……。


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