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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
運命の迷宮編
106/247

97話 藤原探偵事務所

「千歳、あんた新しいバイトしないの?」

「何だよ、いきなり」

「学費大丈夫なの?」


 ああ、そういうことか。

 俺は学費を自分で払っている。親が半分出してくれると言ったが断った。

 そんな金があるなら俺の可愛い妹のために残しておくべきだからな。

 ちなみに学費支払いのメインはバイトじゃない。

 奨学金だ。低利息のほうな。

 流石に返済義務のない方は俺には無理だ。

 大学内でも学科ごとに成績優秀な学生、つまり学科一番の奴は学費を免除されるんだが、中の上辺りをウロついている俺には関係ない話だ。


「せりすさんと遊びに行くのだってお金かかるでしょ?……まさかあんた、せりすさんにお金出させてるんじゃ……」

「んなわけあるか」

「そうよね、ごめん、今のは母さんが完璧に間違ってたわ。あんたに限ってそんな事あるわけないわね」

「……なんか引っかかる言い方だな」

「気のせいよ」

「……ったく。心配しなくていい。言ってなかったけどもう別のバイト始めたから」

「え?そうなの?でも早く帰ってくる事多くない?」

「まあ、その、今は暇なんだよ。あ、でも五月の連休は研修があるから家を留守にする」

「何よ、それ。どんなバイト始めたの?……まさか人様に迷惑かけるようなものじゃないでしょうね?」

「んなわけあるか」


 そんなことしたら俺の可愛い妹に顔向けできないだろう!


「探偵のバイトだよ」

「え?何ですって?」

「探偵。まだ大して役に立ってないけどな」


 って、やっぱり探偵なんて無理があったか?

 今まで探偵に興味あるような事言った事ねえし。

 とはいえ、表向きそうなってるからそう言うしかない。


「千歳!探偵はダメよ!」

「ど、どうしたんだよ?そんな大声だして……」


 なんでそんなすごい形相で睨む?

 ……まさか、じいさんが探偵やってること知ってる?

 いや、そんなはずないよな。


「探偵は絶対ダメよ!」

「何でだよ?」

「あんたが尾行の技術を身につけたらと思うと恐ろしいわ!」

「は?何でだよ?」

「本当に気づかないの?妹の最強のストーカーが誕生するのよ!」

「失礼だな!なあ、にゃっく」


 にゃっくは無反応だった。気持ち顔を背けたように見えたのは気のせいだろう。


「なあ、みーちゃん」


 みーちゃんは無言でリビングを出て行った。


 って、おい!無視かよっ!?

 いや、違うな。

 オンラインゲームをやることで頭がいっぱいで俺の声が耳に入らなかったのだろう。


「ほらみなさい!猫達も危険だってわかってるわよ!」

「そんな事あるか!たまたまだ!」



「……と言うことが今朝あったんだ」

「ああ」

「まったく酷いよな。まあ、探偵のバイト自体は不審に思わなかったからよかったけど……って、今の『ああ』はどういう意味だ?」

「え?」

「まさか新田さんもそう思ってる、って事はないよな?」

「それは私の口からは何とも……」

「いや、新田さんの意見を新田さんから聞かなくて誰に聞くんだよ?」

「口に出来ない事で察して」

「わかったよ。皇に聞く」

「それはやめておいたら?」

「それは……ああ、そうか。俺が探偵のバイトしてるなんて下手に言わない方がいいか。あくまでも表向きだしな。マンガの参考にとか言って仕事内容聞かれそうだな。万が一にも依頼を持って来られても困るしな。そういう事だろ?」

「え?ええ、まあ、進藤君がそう思いたいなら」


 非常に引っかかる言い方だが俺は追求しなかった。



 俺達が今向かっているのは藤原探偵事務所だ。

 新田さんには口裏合わせのために俺が探偵事務所で働いてる事になっていることを話し、今日の帰りに藤原探偵事務所に寄ると言ったら一緒に行くと言い出したのだ。


「本当に無駄足になるかもしれないからな。前行った時は休業中で鍵閉まってたし」

「別にいいわよ。場所を覚えておくだけでも今後役に立つかもしれないでしょ」



 神無月駅で降りるのはみーちゃんが俺んちに来たとき以来だ。

 みーちゃんが首から下げていたがま口の中に入っていた鍵が探偵事務所のじゃないかと思って試したことがあるんだが違っていた。

 持っていたみーちゃんも知らないらしいから、もしかしたらあの鍵はぷーこのなのかもしれない。


「……ここなのよね」

「ん?」

「私が進藤君に助けてもらった場所、でしょ?私はよく覚えてないけど」


 ああ!そうか。そういえばそうだったな。


「もしかして気分が悪くなったりした?」

「私、実はそんなに繊細じゃないのよ」

「ああ」

「……進藤君、今の『ああ』はどういう意味?」


 え?自分で言っといてなんだよ?

 「そんな事ないだろ」とか言って欲しかったのか?

 新田さんの本性を知った今の俺はとても言えんぞ。


「まあ、それはそれとして、行こうぜ」

「……」


 新田さんの痛い視線に耐え抜き、藤原探偵事務所のあるビルに着いた。

 エレベーターに乗り、四階へ上る。

 探偵事務所のドアにはまだ休業中の看板がかけられていた。

 ダメ元でドアノブを回す。


「あれ?」

「どうしたの?」

「鍵かかってねえ」


 俺はそのままドアを開けた。

 何ヶ月も使われなかった割に埃はたまっていないようだった。


「すみません」


 返事は返って来なかった。

 その後も何度か声をかけたが返事はなかった。

 じいさんに会える、と一瞬期待したがそう都合よくはいかないようだ。


「誰もいないのかしら?」

「そうみたいだな。せっかくだ。入ってみようぜ」

「勝手に入って大丈夫かしら?」

「俺はここでバイトしてることになってるんだぜ。不法侵入じゃない、はずだ」

「それもそうね」


「とりあえず一通り見て回るか」

「ええ」

「前は正面の席にみーちゃんがいたんだ」

「え?あの席、所長の席じゃないの?」

「わからん。所長が座ってるとこ見た事ないからな」

「そうなんだ」

「で、右の席にぷーこが座ってたな」

「ぷーこちゃんも探偵なの?」

「わからん。自分の事を優秀だと言っていだが俺は信じてない」

「そうねえ、でも行く先々で先回りしてるわよね?本当に優秀なのかも」

「む、それは……だが俺の本能が拒絶する」

「何言ってるんだか」

「あいつの能力は置いといて、あいつはここに住んでいたんだ。その左にあるドア。その向こうがぷーこの部屋だ」

「そうなんだ。入ってみましょう」

「ああ」



「綺麗に片付いてるな。ぷーこの私物もなさそうだ。みんな持って行ったんだな」

「……ふうん」

「なに?」

「別に」

「いや、なんか気になる……」


(ガチャ)


「進藤君」

「ああ、誰か事務所に入ってきたな」


 たぶん、鍵を開け奴だろう。

 もしかして、じいさん?


 ドアに手をかけようとした俺の腕を新田さんが引っ張った。

 見ると口に一本指を立てていた。


 静かに、か。


 どうやら事務所に入って来た者の様子がおかしいと気づいたらしい。

 考えてみれば、鍵を開けた人物が事務所の関係者とは限らない。

 空き巣の可能性だってある。

 最悪なのは俺達の組織、S13に敵対する組織だった場合だ。俺はまだ会ったことないがその存在は知らされている。


 しかし、すごいな新田さん。

 別の部屋にいる奴の気配を探るなんて芸当、俺にはできない。いや、普通の奴はできない。

 これもラグナの力なのか?

 それとも澄羅流奥義にそういうものがあるのか?


(私が先に行くわ)


 今日の新田さんは獲物、ワイヤーブレードだったか、を手にしていない。いや、カバンの中には入ってるかもしれないが、使う気はないようだ。


 戦闘力で数段以上劣る俺は素直に従う。


 新田さんはドアを開けると同時に身構える。

 正面には少年がいた。

 ファンタジー系の服装、おそらくマンガか何かのキャラのコスプレをし、自分の身長ほどもある大きな盾を構えていた。


「シエス⁉︎」


 ……何やってんだ、こいつ?


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