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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
運命の迷宮編
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96話 消えたアヴリル

「こんちはっす、先輩。……って、通り過ぎないでくださいっすよ、進藤先輩!」

「ん?俺?」


 校舎を歩いていた俺を呼び止めた、俺を先輩と呼ぶその男に見覚えはなかった。

 そもそもサークルなどに入っていない俺に先輩、後輩の知り合いはいない。

 いや、ファミレスのバイトで知り合った先輩はいたか。

 だが、後輩はいないはずだ。


「あ、もしかして君も新田さんに好意持ってた?」


 で、俺に一言言いたいと?


「違うっすよ。もちろんあんな彼女が欲しいとは思うっすけど」

「そうか、違うのか。悪い、君の事覚えてない。誰だっけ?」

「酷いなあ。澄羅道場で会ったじゃないっすかぁ」


 澄羅道場だと⁉︎

 あそこで知り合った奴で覚えてるのは島陣くらいだ。当然ながらこいつは島陣じゃない。あいつは今年高校三年のはずだしな。

 飛び級かつ整形でもしてれば別だが。


「悪い。覚えてない」

「いや、いいっすよ。俺も覚えてなかったんで」


 なんだ、こいつ?


「名前を教えてもらえるか?」

「お、そうっすね、俺は南川登。ノボルって呼ばれ方、あんま好きじゃないんで“トウ”って呼んで欲しいっす、先輩」

「わかった。じゃあ、トウ、俺に何か用か?」

「実はっすね、俺先輩につきあってほしいとこあるんすよ」

「俺に?」

「青い宝石っす。知ってるっすよね?喫茶店、青い宝石」


 トウはニヤリと笑った。


 やっぱり組織の人間か!


「お前、」

「あ、詳しい事は青い宝石で、って時間大丈夫っすか?」

「ああ。もう講義は終わったし、急ぎの用事はない」


 俺の可愛い妹と遊ぶ事が最重要ではあるが、それを言ったら俺に暇などないからな。


「よかったっす!もし用事があっても連れて来いって言われてたんすよ!」

「誰に?」

「それは会ってからのお楽しみっす!」


 なんか頭軽そうなやつだな。だがこの大学に受かったんだ。

 見掛けによらないんだろう。



「しかし、先輩モテモテっすね」

「……お前、見てたのか?」

「へへ」


 新田さんの宣言の後、俺は学年、学科問わず女学生に遊びに誘われるようになった。

 前の時も今回と同じような事が起きたがただの噂とわかった途端、すっと何事もなかったかのように消えた。

 だが、今回は本人が事実と認めたからか明らかに違う。

 トウに会うちょっと前にも誘われたばかりだった。

 結構可愛い子だったが丁寧にお断りした。


 俺に興味がある、というよりも、“新田さんと付き合ってる俺”に興味があるだけとわかってるからな。

 それに俺には二股三股する器用さはない。


「知ってるっすか?一部の女子の間で、誰がせりす先輩から進藤先輩を奪うか競争してるとこがあるらしいっすよ!」

「なんだそりゃ?それ、なんの得があるんだ?」

「そりゃ、やっぱり奪ったら自分の方がせりす先輩より魅力がある、って証明できると思ってんじゃないっすか?せりす先輩て結構同性から嫌われてるみたいっすからねー。あ、もちろんひがみっすよ!」

「ふうん。そういうのはよくわからんが楽しいのか?」

「俺もわからないっすよー。ま、楽しみは人それぞれっすから」

「そりゃそうだな」



 喫茶店に入るとそのまま二階に上がった。トウは個室のドアをノックもせずに開けた。その個室はアヴリルと会う時に使った、そして魔王と初めて会った所だった。


 部屋には先客がいた。

 無精ひげを生やし、見た目は三十歳前後に見えるが、それはヒゲのせいで実際はもっと若いかもしれない。


「部屋に入る時はノックをしろ、といつも言ってるだろ」

「あ、申し訳ないっす!」

「……ったく。よく来たな、進藤」

「あ、どうも」


 その男とは初対面のはずだが向こうは俺を知っているらしい。

 もしかしてこの男も澄羅道場で会っていたのか?


 にしてもなんか冷たい目だな。

 俺を睨んでる?元々目つきが悪いだけか?


「私は近藤イサムだ」

「あ、はい、進藤千歳です」

「現在、お前の担当が不在とのことで代わりに私が任務の説明にやって来た」

「え?不在?」

「聞かされていないのか?」

「は、はい。あの不在ってどういうことですか?まさか……」

「さあな。私は知らない」

「そうですか……」


 キリンさんは何も教えてくれないし、まさか本当に魔物にやられ……いや、そんなはずはない!ないはずだよな……。


「ちなみにイサム先輩は俺の担当っす」

「余計な事を言わなくていい」

「すみませんっす」



「本題に入るぞ」

「は、はい」

「私達の組織の事は家族、その他親しい者にも決して知られてはならない。それはわかっているな?」

「はい」


 って、なんでそんな当たり前のことを今更言うんだ?

 俺、そんなに口軽そうか?


「よし。では任務だが、お前は五月の連休、つまり五月一日から五日までだが、暗出島での極秘任務の候補に選ばれている」

「候補、ですか?」


 キリンさんのメールやシエスの話となんか違うぞ。

 俺が行く事は確定だったはずだが……。


「そうだ。選ばれなかった場合も別の場所で訓練を行う事になる。よってこの五日間は家族、その他には外泊する表向きの理由が必要だ」

「はい」

「うむ。でだ、現状、お前は表向きは藤原探偵事務所の探偵見習いとして働いている事になっているが、」

「はあっ⁉︎」

「……」

「あ、大きな声出してすみません」

「知らなかったのか?資料にはそう書いてあるぞ」

「そうなんですか?今、初めて知りました」


 あ、給料の振込主に記載されていたFDOって藤原探偵事務所のことだったのか。


「……どうやら、お前の前の担当は相当適当な奴だったみたいだな」


 その言葉に内心ムッとしたが、アヴリルが説明不足だったのは事実だ。


 ……もしかしてじいさんから俺に話を通しているとでも思ったのか?

 肝心の当事者達の行方がわからないから確認しようもないが。


「ちなみに俺は……」

「南川!」

「すまないっす!」

「……たく。お前は口は軽過ぎるぞ」

「同じ仲間じゃないっすか?」

「それでもダメだと何度も言ったはずだぞ。話を続けるぞ!」

「……はいっす」


 こいつ、いつもこんなに怒られてるのか?

 まあ、秘密を誰かに話したいという気持ちもわからなくはないがな。


「暗出島に行くことになった時には探偵事務所の合宿という事にしろ。場所は任せる」

「え?あれ?」


 キリンさんのメールでは大学にダミーサークル作るみたいなこと書いてあったよな。

 変更になったということか?

 事情はよくわからんが、ここは素直に従っておいたほうがいいな。


「どうした?」

「あ、いえ、すみません。わかりました」


 ところでだ、

 さっきから近藤先輩の俺を見る目はまるで値踏みでもするかのようで、あまり気分のいいものじゃない。

 説明を押し付けられたからってよ、それは俺のせいじゃないだろ!

 ……いや、それだけなのか?


「あの」

「なんだ?」

「俺、近藤先輩の気分を害することしました?」

「む?」

「その、不機嫌そうに見えましたので」

「それはっすね、」

「黙ってろ!」

「はいっす!」

「顔に出てたか、すまないな。個人的に今回の事が納得できないだけだ」

「えっと、それは俺が極秘任務の候補に選ばれた事ですか?」

「そうだ。何故お前達のような新米が極秘任務の候補に選ばれたんだ?」

「え?俺達?」

「俺も候補者なんすよ!」

「そうなのか?」


 うーん、しかしイマイチ状況が掴めんな。

 組織も一枚岩じゃなくて別系統からも命令が来てるのかもしれんな。

 今はとりあえず何も知らない振りをして、後でキリンさんに確認を取ろう。


「その、俺、よく知らないんですけど、そもそも暗出島ってどこにあるんですか?聞いた事ないんですけど?」

「それは選ばれればわかる。だが、そうだな、これだけは言っておくか。暗出島には組織の最新設備が揃っている。セキュリティが最も厳しく組織の者だからといって誰もが行ける場所ではない」

「そうなんですか」

「俺が候補に選ばれたのは実力っすよ」

「ふざけるな!」

「本気っすよ!」

「……まあ、南川は百歩、いや千歩譲って認めるとしてもだ、進藤、お前は資料によると組織に入ってまだ数ヶ月しか経っていないな?」

「あ、はい……」


 近藤先輩が手にしてるタブレット、あれに俺のプロフィールが表示されているんだろうな。

 どこまで書かれてんだ?


「武術の経験も二月に澄羅道場で学んだのが初めてだった。そうだな?」

「はい」

「にも拘わらず今回候補に選ばれた、と」

「はい、そうなりますね」

「何故だ?」

「俺も気になるっす!」

「いや、何故って言われても……」


 その辺の情報は書かれていない、ということか。

 だが、それは納得がいく。

 俺の能力は極秘扱いで口外してはならないとキリンさんに厳命されている。

 キリンさんの話では上層部でも一部の者しか知らされていないらしいからな。


「さっきも言ったが暗出島は最新設備が揃っている。あらゆる研究が行われているのだ。魔法実験、そして対魔物用兵器開発は暗出島でしか行われていない」

「そうなんですか」


 って事は、じいさんは暗出島にいるのかも知れないな。

 ……ん?ちょっと待てよ!

 対魔物用兵器って、それ、レイマも含まれるんだよな?

 効果試すためにレイマが捕獲されたりして、ないよな?

 なんかすごい危険な場所に行かされる気がしてきたぞ。

 にゃっくが厳しい表情をしたのは暗出島で禍が起きることを皇帝猫の本能で悟ったとかじゃないよな?


「何をボーとしてる?まさか、お前……」

「……え?あ、すみません、何ですか?」

「ムーンシーカー、なのか?」

「は?いえ、違います」

「そうか、そうだよな。済まない」

「いえ。こちらこそすみません。なんか行く事を考えると怖くなってきて」

「まだお前が行くとは決まっていない」

「そうでした」

「それともお前には何か特別な能力でもあるのか?」


 と、聞かれて本当の事を言うわけにもいかない。


「能力といえるかはわかりませんが、魔物と遭遇して生き残った運の良さですかね。あとは試作品のテスターをして褒められた事があります」

「……うむ、G並みのしぶとさがあるとは書かれているが、テスターだと?それは書かれていないな。なんのテスターだ?」


 その前にG並みってのが気になるぞ!

 Gってあの黒い悪魔のことじゃないよなっ⁉︎


「あの、G並みってどういう……」

「そんな事はどうでもいい。何のテスターをしたんだ?」

「えーと、すみません。口外するなと言われてますので」

「「……」」

「すみません。で、あの、それでさっきのG並ってどうい……」

「まあいい。下手に聞き出して俺達も罰せられてはかなわんからな」

「そうっすね」

「……すみません」


 くっそー、あくまでも言わねえつもりだな。

 絶対プロフィールに書かれてねえだろ!


「任務の説明は以上だ」

「あ、はい、ありがとうございました」

「したっす!」


 聞いてた話とかなり違うから焦ったな。

 後でアヴリルとキリンさんにしっかり文句のメールを送っとかないとな!

 ……アヴリルから返事くるかな?



 近藤イサムが去り、俺とトウが残された。


「ふう、緊張したっすね」

「お前、緊張してたのか?」

「してたっすよ!」

「まったくそうは見えなかった」

「よく言われるんすよ!でもこう見えて俺、繊細なんすよ!」


 嘘つけ!


「じゃあ、先輩は何を注文するっすか?何でもいいっすよ、イサム先輩のおごりっすから」

「いいのか?そんな事言ってなかっただろ?」

「いいっす、いいっす」


 ほんと軽いな、こいつ。

 まあいい、そう言うなら今日はケーキもつけるか。一番高い奴をな!



 俺のメールに返事をしてきたのはキリンさんだけだった。

 今回の説明不足の謝罪の他、アヴリルについて一行だけ書かれていた。


「アヴリルは暗出島にいるわ」と。


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