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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
運命の迷宮編
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94話 皇帝猫三騎

 大学から帰ると早速母さんにマントの事を頼むことにした。


「なあ母さん、にゃっく達がつけてるマントを一つ作ってくれないか?」

「どうしたの?にゃっく達、また喧嘩で破いたの?」

「違う。友達がさ、あのマントが気に入ったらしくって自分の猫に欲しいって頼まれたんだ。もちろん時間がある時でいい……早いに越したことはないけど」

「もうあるわよ」

「へ?」


 母さんはそう言うと自分の部屋からマントを持ってきた。


「予備あったんだ」

「だってあの子達よく破いてくるから」


 ああ、確かに。


「その子、子猫なの?サイズ合うかしら?」

「ああ。大丈夫だ。サンキュー」

「あ、千歳」

「なんだ?」

「その代わりってわけじゃないけど、その子の写真撮ってきてね」

「わかった」


 俺は知っている。

 母さんが俺に隠れてにゃっくやみーちゃんの写真を撮っている事を。

 しかもご丁寧にプリントしてアルバムにしているのだ。

 なぜ知ってるかって?

 それは以前、キッチンに置き忘れたアルバムを見たことがあるからだ。


 あの感じからしてマントの予備はまだありそうだな。

 一体いくつ作ったんだ?

 もしかしてウリエルを飼いたいといったらOKしてくれたのか?



 その日の夜九時過ぎ。

 俺は俺の可愛い妹の布団の中からこっそり抜け出したにゃっくとオンラインゲーム中だったみーちゃんを連れて喫茶店ねこねこねに向かった。もちろんウリエル用のマントを持ってだ。


 俺の可愛い妹の腕の中から抜け出すのは至難の技であるはずだが、にゃっくはすぐに現れた。

 手を焼いたのはみーちゃんのほうだった。

 なかなかゲームを止めようとしないんだ。ほんと参ったぜ。


 喫茶店ねこねこねは閉店間際だからか客は誰もいなかった。


 って、店員もいねえし。


 最初に姿を現したのはまたもウリエルだった。


 シエスは職務怠慢だな。


 にゃっくとみーちゃんはウリエルとの再会を祝ってか、信頼の証?である肉球合わせ、そして顎を背中に預け合う。


 そういや、殺人鬼との戦いじゃしなかったな。

 ……あ、そういうことか。

 今朝、シエスが言った通り、ウリエルがフリーにゃ、フリーランスの皇帝猫なら、殺人鬼との戦いに参加したのはあくまで契約だったって事だ。そこにはお互い信頼関係はなかったってことだ。


 俺が持ってきたマントをウリエルに着けてやると嬉しそうに喫茶店内をかけ回る。


 やっぱり幼いよな。


 母さんとの約束通り写真を撮ろうとスマホのカメラを起動してウリエルに向けると、それに気づきパッとポーズを決める。


「いや、そんなポーズもカメラ目線もいらねえから」

「にゃーん」


 ウリエルが不満げな表情を向けた。


 しばらくしてやっとシエスが現れた。


「遅いぞ。そんなんで客商売やっていけると思うのか?」

「申し訳ありません。ちょっとお花をつんでました」

「男がそんな言い方するな。あ、お前はロボットか。じゃ、尚更使うな」

「失礼デスね」


 シエスは皇帝猫達に向かってお辞儀をした。


「にゃっくさん、ミカエルさん、初めまして。ボクは王子シエス。人間デス」


 にゃっくは微かに頷いた程度で大して興味を持たなかったようだが、みーちゃんはシエスを興味津々の目で見つめる。


「みーちゃんもシエスを見るのは初めてか?」

「みゃ」

「ミカエルさんのお話はよく聞いております」

「へえ、有名なんだ」

「はい。特にミカエルさんがぷーこ様と一緒に構築したネッコワークのお陰で組織の情報網は格段に向上しました」

「ぷーこ様、ね」

「何か?」

「いや、なんでもない。そんなにすごいのか?」

「はい。監視カメラを設置できない場所の調査、不審者の尾行などでは必要不可欠となっております。冬場は旅猫が激減するため機能し難くなりますが、それを除けば欠点らしい欠点はありません」

「みゃ」

「冬は監視が弱くなるってことか?この冬、魔物によく遭遇したのはそのせいか?」

「否定できません。しかし、魔物の動きが活発化していることもあります」

「活発化した原因は?」

「不明デス」

「そうか……」

「ミカエルさん、組織へ戻って来ませんか?みんなミカエルさんの帰りを待っております」

「みゃ」


 みーちゃんはそのおっきい頭を横に振った。


「あれ?みーちゃんは組織の人間、猫じゃないのか?」

「今はチトセグループの一員デス」

「あ、そうか……、いや、でも今でも組織のシステム使ってるよな?」

「はい。それは今までの信用と実績があるからデス。以前ほどの権限はありませんが、ある程度システムを利用することができるのデス。有用な情報を提供して頂いた時には報酬もお支払いしております」

「ほう、すごいんだな。なんで辞めたんだ?」

「MR-NET008大破の責任を取られたのです」

「MR-NET008?どっかで聞いたことあるが……なんだったかな?」

「プリンセス・タイプと言えばおわかりでは?」

「ああ!プリンセス・イーエスの型番か」

「みゃ!」

「あ、悪い。みーちゃんはこの呼び方嫌いだったな。でもよ、それって原因はぷーこじゃないのか?あいつが勝手にコマンドを書き換えたからだろ?」

「はい。ですが、ミカエルさんは責任感が強く、辞表を提出され出ていかれたのデス」

「……は?辞表?」

「はい」


 ……みーちゃん、マジ人間社会に馴染み過ぎだぞ。



 喫茶店に来といて何も注文せず帰るのも悪いかと思い、飲み物を注文した。


「俺はレモンティー。あれ、うまかったからな」

「ありがとうございます。にゃっくさん、ミカエルさん、ウリエルさんはいつものでよろしいですね?」

「にゃ!」

「みゃ」


 コクリ、とにゃっくが頷く。


「って、待て待て!」

「どうしましたか?」

「どうしたかじゃねえ!ウリエルはともかく、にゃっくやみーちゃんに“いつもの”はおかしいだろ!こいつらは今日初めて来たんだぞ!」

「そのような些細な事を気にされたので?」

「何が些細だ!特製ミルク高いだろ!」

「チトセ」

「何だよ?」

「そのような事を気にしているようではお尻の穴が大きくなりませんよ?」

「ならんでいいわっ!……⁉︎」


 複数の強い視線を感じた。

 にゃっく達だった。


「「「……」」」

「……わかったよ。いいよ、特製ミルクで」


 最近俺、金遣い荒くなってるよな。そろそろ財布の紐締めないと。



「そうだ。ウリエル」

「にゃん?」

「護衛は気づかれないようにな。妹だけじゃないぞ。幼稚園の先生や園児、その他近所の人にもだぞ?」

「にゃん」

「チトセのように通報されないように、デスね?」

「通報はされてねえ!されそうになっただけだって言ってんだろ!」

「失礼しました。情報が古……」

「間違ってんだ!」


 この野郎、絶対ワザとやってんな。


「あ、目立つから護衛の時はマントを外した方がいいかもな」

「にゃん!」


 ウリエルは大きな頭を横に振った。


「む?しかしな……」

「心配ありません。ウリエルさんは隠密行動が得意デス」

「そうなのか?」

「にゃん!」

「あ、殺人鬼との戦いで黒装束着てたのお前か?」

「にゃん!」


 そうみたいだな。

 ま、考えてみれば今までにゃっくが気づかれてないから大丈夫か。


「じゃあ早速明日から頼むな。最初だからにゃっくもついてってくれ」


 にゃっくとウリエルが頷いた。



「なあ、シエス」

「なんでしょう?」

「俺達と暗出島へ行く奴は他にもいるのか?」

「はい。あと数人参加予定デスがまだ選定が済んでいないようデス」

「その中に新田さんが入るって事は?」

「ボクの知っている候補者の中には入っていません」

「そうか……」

「恐らく、任務そっちのけで交尾するのを恐れたのでしょう」

「……お前、マジで新田さんにぶっ壊されるぞ」

「この場合、ぶっ殺される、が正しいのでは?」

「ぶっ壊される、で合ってるよな?」


 俺がみーちゃんに同意を求めると困ったような表情をした。


 あれ?

 こいつ、ほんとにロボットじゃない?

 しかし、この喋り方は……って、あれ?


「どうかしましたか?」

「いや、お前、朝と比べて大分流暢に話すようになったよな?」

「アップデ……、いえ、ボクは前からこうでしたよ?」

「まあ、そういう事にしとくよ」

「事実デス」

「はいはい。ところで俺が暗出島でする事は決まってるのか?俺は装備テストとしか聞いてないんだが」

「ボクが先ほど入手した情報では、装備テストとチトセの能力の研究をするようデス」

「俺の能力?……<領域>で魔粒子を無限、かは知らんが供給できる能力だよな?」

「はい。チトセから放出される大量の魔粒子を使って魔法使い本来の魔法がどのレベルまで使用できるのかテストするのデス」

「えーと、こっちの世界では魔粒子が少なくて強力な魔法が使えないんだったな?」

「はい」

「なる程、だから万一に備えて離島でテストってわけか……」

「それもありますが、最新設備が暗出島にしかないことが大きいデス」

「ふうん。そのテストで俺、またぶっ倒れたりしないか?」

「それはありません。倒れるとしてもそれは魔法使いの方デス」

「そうなのか?」

「はい。前回チトセが倒れたのは新田せりすの能力、マナドレインで根こそぎ絞り取られたからデス。今回はあくまでチトセから放出された魔粒子を利用するだけでデスから」

「それならいいんだが。ところでお前さ、」

「はい?」

「何か新田さんに恨みでもあるのか?」

「何故そう思うのでしょう?」

「いや、新田さんの事話すときって、なんかトゲがある言い方が多い気がしたからさ」

「それは気のせいでしょう」


 そう言った時のシエスの目はいつものガラス玉ではなく、どこか自分の意思があるかのように思えたのだが、その後そう感じる事はなかった。


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