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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
運命の迷宮編
102/247

93話 ウリエルの願い

「ご注文はお決まりデスか?」

「レモンティー」

「レモンティーをホットでよろしいデスか?」

「ああ」


 ウェイターがウリエルに顔を向ける。


「にゃん」

「いつもの、デスね?」

「にゃん!」

「かしこまりマシタ」

「ちょ、ちょっと待て!」

「なんでショウか?」

「猫の注文もとれるのか?」

「もちろんデス。ココはヒトとネコの憩いの場所デスから」

「さっきの『にゃん』で注文わかったのか?猫語がわかるのか?ってそんなわけ……」

「もちろんデス。ボクはウェイターデスから」

「いや、ウェイターは関係ないだろ!」

「……」


 ウェイターが俺をじっと見つめる。ガラス玉のような瞳で。


「……いいよ。ウェイターだから、って事で」

「それでは、失礼致しマス」


 ウェイターが去り、ウリエルと二人きり?になった。


「お前、組織の者、猫だよな?ここは組織と関係があるのか?あのウェイターもそうなのか?」


 ウリエルは何も応えず俺をじっと見ている。


「もしかして俺に何か用事があるのか?」

「にゃん!」


 今、声が大きかったな。俺に用事があるんだな?


「なんだ?」

「にゃん!」

「いや、『にゃん』じゃわからんぞ。俺はさっきのウェイターと違って猫語?はわからん」


 あいつが本当に理解してるのか疑問だがな。


 俺はスマホを取り出し、メモを起動してウリエルに向ける。


「書けるか?」


 ウリエルは悲しそうな顔で大っきい頭を横に振る。


「ま、普通そうだよな。にゃっくも書けねえし。みーちゃんが特別なんだよな」


 うーん、困ったな。どうすりゃいいんだ?

 ウリエルの事は何も知らないから何が言いたいのか見当もつかない。本名もさっき知ったばかりだ。


 とウェイターが飲み物を持ってやってきた。


「お待たせしマシタ」


 ウェイターは俺の前に空の白いティーカップとティーポットを置いた。ソーサーの上には輪切りのレモンが置かれている。

 ウリエルの前にボウルを置き、一緒に運んで来た乳白色の液体の入った瓶の封を切ってボウルへ注ぐ。


「ミルクか?」

「ハイ、栄養タップリデス」


 ウェイターは仕事は済んだはずなのに立ち去らず、俺をじっと観察している。


「えーと、ウリエルは君の猫?」

「違いマス」

「そう」

「どうぞ、おアツイうちに」

「あ、ああ」


 ウリエルをみるとミルクを美味しそうに飲んでいた。

 俺はティーポットからダージリンティーをカップに注いだ。二杯分はありそうだ。

 ソーサーの上に置かれた輪切りのレモンをスプーンですくってカップの中に落とし、一口飲んでみる。


「どうデスか?」

「うん、うまい」

「それはよかったデス」


 テーブルに置かれた伝票がふと気になり内容を確認するとしっかりミルク代も記載されていた。しかも特上ミルクと書かれており、値段は俺のレモンティーより高い。

 ウリエルと目が合った。その訴えるような瞳。


「……」

「……わかったよ。俺のおごりだ」


 ウリエルは嬉しそうな笑顔を向けた、気がした。


「よかったデスね。特上に変更してよかったデス」

「……ちょっと待て、注文の時、いつもの、って言ってなかったか?」

「臨機応変デス」

「違うだろ!」


 この野郎……、ん?そういや、こいつは何て名前なんだ?……名札つけてねえな。ストーカー対策か?


「まあいい。お前も俺に用なのか?」

「ハイ。シンドウチトセ。ボクはアナタにお話がありマス」

「俺の名前を知ってるって事はやっぱりお前も組織の人間なんだな?」

「ハイ。ボクの名前は、王子シエス。人間デス」


 何当たり前の事を……って、ちょっと待て!

 王子……プリンス‼︎

 そういう事か!なんか違和感があると思ったら、


「お前、ロボットか!プリンセス・イーエスの兄弟機だな⁉︎」

「違いマス。人間デス」


 そう言うと俺の前で踊り出す。それは見たことのない踊りだった。盆踊りが一番近いか。


「どうデスか?」

「いや、どうですか、って言われてもな。確かに動きは滑らかだし、生身の人間のようだったぞ」

「デスよね?」

「で、今度は操縦席ないよな?リモートか?それともA Iか?」

「違いマス」

「声は合成音か?」

「違いマス」

「その口調、ムーンシーカーと言うより昔の映画に出てくるロボットに近いな。なんでそんな怪しい設定にしたんだ?もっと滑らかに話すソフトあるだろ?」

「デスからボクは人間デス」

「そうかあ?」


 俺がシエスの頬に触ろうとするとスッと避けた。

 触れば一発で分かると思ったんだがな。


「ボクは男デスよ。欲求不満はセフレのニッタセリスで解消してくだサイ」

「誰が欲求不満だ!それに新田さんはセフレじゃねえ!新田さんの前でそんな事言ったらバラされるぞ!」

「それは失礼しまシタ。インプットされた情報が古いようデスね」

「古いんじゃなくて、間違ってんだよ!って今、インプットって言ったか?」

「それがどうかしまシタか?」

「自分がロボットって証明したんじゃねえか?」

「そんな事はアリませんヨ。エンジニアやオタクと呼ばれる人種はそう言う使い方をしマス」

「む、確かにそうだが、じゃあお前も……」

「にゃん!」

「ん?」

「そうでシタ。ボクの事より、まずウリエルさんのお願いを聞いて下サイ。そちらが最優先事項デス」

「む?奢れってことじゃなかったのか?」

「にゃん!」

「違いマスにゃん」

「お前に“にゃん”はいらんだろ」

「失礼しまシタ」

「で、ウリエルは俺に何をして欲しんだ?」

「皇帝猫が固有のトレードマークを身に付ける習性がアルのは知っていマスね?」

「それはアルカポネの葉巻や以前ウリエルが付けてた眼帯とかか?」

「ハイ、そうデス」

「……ん?でもにゃっくは出会った時、何もつけてなかったぞ」

「それは過去の自分を捨てたからショウ。名前と共に」

「そうなのか?」

「にゃん」

「だ、そうです」

「『だ、そうです』じゃねえ!ちゃんと訳せ!」

「ボクの言う通りだそうデス」

「もしかしてウリエルはにゃっくの昔の名前とかを知ってるのか?」

「にゃん」

「秘密だそうデス」

「秘密って……」


 ま、別にいいか。昔のことを知ったところでどうなるわけでもないしな。


「話を戻しマス」

「ああ、悪い。それで?」

「ウリエルさんは新しいトレードマークを探しているのデス」

「ま、確かに眼帯は無理があったよな。あれじゃあ戦いの時邪魔だよな」

「にゃーん」

「ハイ。大失敗でシタ、と言っておりマス」

「もしかして俺に代わりのものを探して欲しい、とか?」

「いえ違いマス。あなたのセンスには期待していまセン」

「失礼だな、おいっ」

「にゃん」

「にゃっくさん、ミカエルさんがトレードマークとして身に着けているマント、アレがとても気に入ったそうなのデス」


 くそっ、スルーかよ。


「ああ、マントね」

「ボクの情報ではアレはあなたの母上サマが作らレタとか」

「ああ。そうだ」

「何故そのセンスがあなたに受け継がれなかったのデショウ?」

「余計なお世話だ!ってさっきから何を根拠に俺のセンスを疑う⁉︎」

「これは失礼しまシタ。古傷を抉ってシマッタようデスね」

「傷なんかねえよ!……もういい!つまりだ、ウリエルは俺にマントをくれって言ってるんだな?」

「付け加えマスとウリエルさんもマントをトレードマークにしたいのデス」

「にゃん!」

「なるほど。でもなんでマントがいいんだ?」

「にゃーん」

「カッコいいからだそうデス」

「ふうん」


 確かにマントはにゃっく、それにみーちゃんも気に入ってるよな……ん?


「さっき固有って言ったよな?にゃっくとみーちゃんは同じトレードマークになってるけどいいのか?」

「だからあなたにお願いするのデス。今や皇帝猫界でマントはシンドウチトセグループのトレードマークとなっているのデス」

「なんだよ、そのグループ、俺は知らんぞ」

「そうなっているのデス」

「それで?俺自身が知らん事だ。勝手にやればいいだろ。それじゃマズイのか?」

「プライドの問題デス」

「プライド?」

「あなたの許可なくマントをトレードマークにするのは可能デス。デスが先程言いましたようにマントはあなたのグループのトレードマークとして皇帝猫界に知れ渡っているのデス」


 さっきから皇帝猫界って何だよ?皇帝猫って俺が思っている以上にこっちに来てるのか?


「もしあなたに無断でマントをトレードマークにしようものなら『この真似っこ!』と皆から後ろ指を指サレ、一生かかっても拭いきれぬ恥となることでショウ。プライド高き皇帝猫にとってそれは耐えられない事なのデス」


 ……何、それ?

 メシを平気でねだっておいてプライドを気にするって……。

 判断基準がわからん。


「もしマントを貰えるナラあなたの心配事の一つが解決スルかもしれまセン」

「どういう事だよ?」

「あなたがウリエルさんにマントを授けるという事は、ウリエルさんもあなたのグループの一員になるという事デス」

「そうなるのかな。で?」

「あなたは今、妹サンが幼稚園にイル時の護衛で悩んでイルのでは?」

「ああ。にゃっくが付いていれば安心だが、出来ればにゃっくには自由に行動できるようにしたい。俺ができればいいんだが、大学もあるしな」

「四回ほど不審者として通報サレそうになりマシタしね」

「な……、そんな事ないぞ!」

「失礼しまシタ。“ゴカイ”でしたか」

「今の“ゴカイ”は回数の方だっただろ⁉︎」

「ソンナコトアリマセンヨ」


 この野郎……!


「にゃん!」

「ウリエルさん、すみまセン。話が逸れまシタがその護衛役を、」

「にゃん!」

「お、ウリエルがやってくれるって事か⁉︎」

「にゃん!」

「ハイ」


 それは助かる!

 ウリエルの強さはこの目で見てる。護衛として十分だろう。

 にゃっくは自由に行動できるぞ。


「あ、でもよ。お前らはいいのか?ウリエルは組織を抜けるって事になるんじゃないのか?」

「ソレは問題ありまセン。ウリエルさんはフリーにゃんすの皇帝猫デス」


 何がフリーにゃんす、だ。

 こいつの名前といい、さっきの誤情報といい、間違いなくぷーこが関わっているな!


「ボク達としてはあなたのグループに入って頂く方が助かりマス」

「にゃん?」

「契約は成立デスか?」

「ああ、母さんに頼んどく」

「にゃーん!」


 ウリエルは小躍りして喜んだ。


 にゃっくやみーちゃんと比べると行動が幼いよな。性格か?

 見た目じゃ全くわからんが、もしかしてにゃっく達よりかなり年下なのか?


「そういや、眼帯をトレードマークしてた奴、もう一騎いたよな?ウリエルはあいつと同じグループだったんじゃないのか?」

「にゃん!」

「グループではありまセン。付けている目が違いマス」

「……そうか」


 別れる前は、同じ方に付けてたよな。どっちが間違えてたのかは知らんが。

 ……まあ、どうでもいいか。


「……あ、一つ重大な問題があった」

「なんでショウ?」

「ウリエルの住みかだ。俺ん家に三騎は流石に母さんが許さんかもしれん」

「それは大丈夫デス。ここに住んで貰って構いまセン」

「いいのか?」

「ハイ」



「で、お前も用事があるんだよな?」

「ハイ。ゴールデンウィークの件デス」

「暗出島か」

「ハイ。クラデジマにはボクも同行しマス。あなたのサポートをする事になっていマス」

「そうなのか。よろしくな」

「ハイ、よろしくデス」

「俺はお前の事をなんて呼べばいいんだ?王子?シエス?」

「シエス、とお呼び下サイ。ボクもあなたの事をチトセと呼ばせて頂きます」

「わかった」


 って、皇帝猫は“さん”付けで俺は呼び捨てかよ?


「あ、もしかして装備テストってお前のことか?」

「違いマス。ボクは人間デス」


 王子シエスは最後まで自分は人間だと言い張った。


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