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にゃっく・ザ・リッパー  作者: ねこおう
セクション・サーティーン編
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91話 入園式

 今日は俺の可愛い妹の入園式だ。

 俺の可愛い妹が通うのは家から歩いて十分程の距離にあるお月さま幼稚園。

 俺もこの幼稚園に通っていた。

 日曜日に入園式を行うため両親だけでなく、家族総出で来ているところも珍しくない。

 かく言う俺達もそうだった。


「ねえ、進藤君」


 新入生はどの子も可愛いが、俺の可愛い妹がダントツで可愛いのは言うまでもない。

 皆と同じスモックを着ていても一人目立っている。


「進藤君!」

「ん?どうした?新田さん」

「私、場違いじゃない?」


 そう言われてスーツ姿の新田さんの姿を改めてみる。

 ビシッと似合っている。大学の入学式の時に着たものらしいが、学科が違った俺は今回初めて見る姿だった。


 そういや、俺は入学式の時、普段着だったな。

 もちろん、今日は違うぜ。俺の可愛い妹の幼稚園デビューだ。

 この日のためにスーツを新調した。成人式もこれで済ますつもりだ。


「全然おかしくないぜ。こういうのは普段着の方がおかしいだろ?」

「そうじゃなくて、私がななちゃんの入園式に出席する事よ」

「何を今更」


 新田さんを呼んだのは俺だが、それは俺の可愛い妹の希望だったからだ。

 俺は正直ほんの少し嫉妬したが、やはり俺の可愛い妹のお願いは叶えてやらねばならない。

 最初新田さんには断られたが、俺はあらゆる手段を使って新田さんを参加させる事に成功したのだ。

 あらゆる手段の詳細は省略する。


「そうだけど、やっぱり私、その辺の喫茶店にでも……」

「甘いな新田さん。この近くに喫茶店などない。何年か前迄はあったが潰れた」

「それ、威張って言う事じゃないわよ。……あれっ、でもさっき喫茶店らしきもの見かけたけど」

「うむ?」


 俺の知らない間に出来たのか。


「まあ、それはどうでもいい。妹が新田さんにも来て欲しいって言ってるんだ。選択の余地はないだろ?」

「あると思うけど」

「ない」

「……」

「そんな事より、たかしって奴を探してくれ。あ、さりげなくな」

「たかし?」

「ああ、害虫の名だ。他にもいるらしいがな」


 俺の可愛い妹がママ友会でたかし他複数の男友達を作っていた事を最近知った。

 今までうちに遊びに来た子供は女の子ばかりだったからすっかり油断してたぜ。

 こういう時に名札をつけているのは助かる。逆に皆に俺の可愛い妹の名を知られてしまうのは困ったものだが。


「害虫って……その子?は今日一緒に入園するの?」

「多分な」

「曖昧ね」

「しょうがないだろ。母さんがはっきり教えないんだから。あ、大丈夫。この件では父さんとは同盟を結んでいるから」


 俺の声が聞こえたようで父さんがこちらに顔を向け、新田さんに向かって小さく頷いた。

 新田さんはどこかぎこちなさそうな笑顔を父さんに向ける。


「……何が大丈夫なのか私にはさっぱりだけど」

「ともかく俺達はそのたかし他害虫達がどんな奴か確認する必要がある」

「“俺達”の中に私も入ってるの?」

「当然だろ」

「何が当然かはわからないけど……で、見つけてどうするの?」

「その後で考える」

「本当はもう決めてるんじゃないの?」

「そんな事ないさ」

「……見つからないほうがいいわね」

「ん?」

「なんでもないわ」


 だが、探す必要などなかった。向こうから挨拶に来たのだ。

 まあ、友達なら当然か。

 俺は表面上は笑顔を崩さず、そいつらの顔をしっかりと脳裏に焼き付けた。



 入園式が無事終了した。

 俺達も他の家族と同じように記念写真を撮る。


「あの、私は家族じゃないので……」

「そんなこと言って恥ずかしがらないで」

「いえ、恥ずかしいとかじゃなくて……」

「おねえちゃん、いっしょにとろう」

「……」


 俺の可愛い妹にお願いされて断れる者などいない。俺がさせない。

 幸いにも新田さんは俺が手を下さなくても写真に写る事を快諾した。

 まあ、当然だよな。


 俺の可愛い妹を挟んで三人で撮ることになった。


「せりすさん、笑顔笑顔」

「あ、はい」

「ぎこちないわよ」

「こ、こうですか?」

「そう、そのまま……はい、チーズ!」


 パシャ。


 早速カメラのモニターで画像確認する。

 実物の方が何倍も可愛いが、今の科学力ではこれが限界だろう。

 いや、どれだけ科学が進歩しても俺の可愛い妹を完全に表す事など出来はしないか。


 ふっふっふ。


「うーん、せりすさん、まだぎこちないわね。撮り直す?」

「いえ、もう、これで大丈夫です!」

「そう?」

「まあ、確かに新田さんの笑みはまだぎこちないけど、みんな妹しか見ないから問題ないだろう」


 って言ったら、新田さんと母さんに睨まれた。


「そういうあんたはにやけて気持ち悪いわよ」

「変質者っぽいかも」

「うるさいな。いいんだよ。俺はおまけなんだからな」

「そんな自信満々に言う事じゃないでしょ」

「本当に進藤君はシスコンのチャンピオンになれるわね」

「褒め言葉として受け取っておく」

「褒めてないから」

「なんかこうして見ると本当の親子みたいね」

「そ、そうですか?……」

「新田さん、ちょっと顔色が悪いな。緊張しすぎじゃないか?」

「大丈夫、あ、大丈夫じゃないって言えば帰……」

「おねえちゃん、だいじょうぶ?」

「え?あ、うん、大丈夫よ。ありがと、ななちゃん」

「うん!」


 ……あ、そういう事か。

 俺は新田さんの心情を理解した。

 写真を見る度に俺の可愛い妹と比較される。新田さんはその事を考えると気が重いのだろう。

 ……ん?待てよ。

 容姿端麗な新田さんですらそう思うって事は、一般人なら尚更のこと比較されるのが嫌で俺の可愛い妹と一緒に写りたがらなくなるんじゃないか⁉︎

 俺の可愛い妹は可愛い過ぎたばかりにこれから凡人にはわからない苦労を背負う事になるんだな……。


「なな、俺はずっと一緒にいるからな」

「あんた何ストーカー宣言してるのよ、って何で泣いてるのよ⁉︎……え?お父さんも?ちょっとあんた達いい加減にしなさいよ!」

「……すっごく疲れたわ」



 入園式は午前中で終わり、昼食は外で食べるつもりで駅前の商店街に向かったが、考える事は皆同じようで、予定していた店は満員だった。俺の家族は皆並ぶのが大嫌いだったし、俺の可愛い妹にそんな事をさせたくない。母さんもそう思ったのだろう。「私が家で作るわ」と言ったので帰ることにした。

 新田さんは何か言いたそうに見えたが、俺の可愛い妹に見つめられて結局何も言わなかった。



 新田さんと共に俺の部屋に入ると俺達より先に上がったみーちゃんが俺のパソコンでオンラインゲームをやっていた。


「みーちゃん」


 俺の声にハッと振り返る。

 俺達だとわかるとほっとした顔をしてゲームに戻る。


「……って待て待て」

「そうよ、みーちゃん、私がゲームできないでしょ」

「そうじゃねえだろ」

「あ、進藤君も?困ったわね。私も携帯用のノートパソコン買おうかな。まだお年玉残ってるし」


 まだ残ってるんだ。

 もしかして新田家ではお小遣いの事をお年玉って言ったりするとか?

 って、お年玉はどうでもいい。


「そうじゃない」

「もしかして勝手にパソコン使ってた事怒ってるとか?」

「違う。いや、全くないわけじゃないが、それよりも声をかけられるまで気づかないほうが問題だ。入ってきたのが俺達だったから良かったが、母さん達だったらどうするつもりだ?」


 みーちゃんが反省した表情をした、ように見えた。


「ほら、みーちゃん、反省してるでしょ?」


 キャラをセーフティエリアに移動してからでなければな。


「じゃあ、みーちゃん、チェンジ」

「みゃ」

「へ?俺の話はまだ……」

「猫ちゃんに話って無理があるでしょ」

「こういう時だけ猫扱いかよ……って聞いてねえな」

「今回は私に免じて。今日、私結構頑張ったと思うんだけど?」

「……わかったよ。今回だけだからな。みーちゃん、これからは気をつけろよ」

「みゃ!」


 ……本当にわかってるのか?


 みーちゃんは自分のノートパソコンでゲームを再開し、新田さんは俺のパソコンでゲームを始める。


 ……俺のパソコンなのに、使用時間、俺が一番少ないよな。


 俺がスマホでメールのチェックをしていると新田さんがゲームをしながら話しかけてきた。


「進藤君、あれから何か連絡あった?」

「いや、何もない」


 そういえばアヴリルに全然会ってないよな。

 いつから会ってないんだっけ?

 もしかして何かあったのか?ちょっとキリンさんに聞いてみるか。



 その晩、スマホにキリンさんからメールが届いた。

 アヴリルの事ではなく指令だった。

 内容は、新しい装備のテストだった。

 俺が以前使用していたクララのテストデータはとても役に立ったらしく、それが評価されて今回の試作品のテスターに選ばれたとの事だ。あと、俺の魔粒子量の多さも選ばれた理由の一つらしい。

 テスト期間は準備と俺の講義を考慮してゴールデンウィークに行う事になった。

 このテストは泊りがけになるため、親に家を空ける理由が必要になる。

 理由付けが難しければ組織が用意してくれるとのことだ。

 その場合、俺は大学のダミーサークルに入り、その合宿に参加という事になるようだ。


 それはつまり、大学に組織の関係者がいる、ということだよな。


 気になったのはテストを行う場所だった。


「暗出島?聞いた事ねえな」


 東京湾にこの島はあるらしいのだが、地図で調べても載っていない。

 視線を感じた。

 にゃっくだった。その表情は厳しいものだった。


 ふと、皇帝猫のウェブサイトに書かれていた事を思い出した。


 皇帝猫は禍の起こる所に現れる、だったか?


「……もしかして、この暗出島って危険なのか?」


 にゃっくは答えない。

 だが、俺はそれを肯定と捉えた。


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