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第三話 「演説」

「おい……。カイザー」

「なんじゃい。静かにしとれ、魔王様の演説がもうすぐ始まるのだぞ」


 広場には、大きなステージのような舞台が作られており、舞台の上には演説台と玉座が設置してある。

 舞台上には、赤いマントを装着した人物。いや、魔物が玉座に座っている。

 そして玉座の両脇には、頭に謎の装飾がついたピンクとオレンジのスライム。


「アレが魔王?」

「そうじゃ」

「あの玉座に座ってるのが?」

「そうじゃ。静かにせんか」


 周りはざわついている。多少の私語は問題ないだろう。

 それより、気になることが多すぎる。

 演説が始まる前に色々と聞いておこう。


「あの両脇にいるのは?」

「ココ様とミミ様じゃ」

「いや、名前じゃなくて、あいつらって何なの? 側近とかそういうやつ?」

「なんじゃ? 気になるのか? 確かに美しい方達じゃからのう」


 う、美しい……?

 いや、分からないから。色が違うだけで、ただのスライムにしか見えないから。と、本当は言いたいのだが、今は止めておこう。話が変な方向に逸れそうだからな。

 それよりも、もっと気になる事がある。そう魔王だ。

 俺には、どうしてもアレが魔王には見えない。


「なぁ。実はアレ、魔王の偽物とかじゃないの?」

「なっ!? 急に何を言い出す!」

「だって……、あの魔王、緑色じゃん?」

「ん? そうじゃな。緑色じゃ」

「…………」

「パントロ……? お主、何が言いたい?」

「どう見てもゴブリンだろアレ。耳が長いし、鼻も妙にデカイし、体も小さいし」

「そうじゃ。ゴブリンじゃ」


 は?


「えっ? 何? ゴブリンが魔王なの?」

「そうじゃ」

「ありえねえええええええええええ!!」

「うっさいわボケッ!!」

「だって、ゴブリンだろ!? スライムに継ぐ雑魚キャラじゃん!! なんでそんなのが魔王なんだよ!!」

「っ!?」

「さすがにないわー。これはない。うん。絶対にないわー。……ん?」


 なんか周りからすごく視線を感じる……。


「少し黙っておれ! 『サイレント』」


 カイザーが何か言ったと思ったら、目の前が一瞬だけ真っ白になった。


「――――」


 口は動くのに声が出ない。

 喋られなくなった。


 何だ? カイザーが何かしたのか?

 一体何しやがった!?


 俺はカイザーを睨むが、カイザーは何処吹く風と言った感じで、舞台を眺めている。


「――――」


 くっそ。なんだこれ。全然声がでねぇ……。

 このまま黙って演説を聴くしかないのか……。


 そうこうしていると、魔王が立ち上がり演説台の前へと進んだ。

 どうやら演説が始まるようだ。



「民衆の諸君! 良く集まってくれた!!」

「「「おおおおおおおおおおおおおお!!」」」


 何がスライム達の心を掴んだのか分からないが、周りは大きな歓声を上げている。


「勇者によって大魔王様が亡き者にされてから二百年! 我々は幾度となく人間によって滅ぼされかけた!」


 へぇ~。昔は大魔王がいたのか。


「だが、我々は滅びなかった! それは何故か!」


 さぁ? 何でだろうな。


「我々は人間よりも強いからだ!」


 いや、そんなことないだろ。スライムが人間に勝てると思えない。

 てか、魔王。お前も人間に勝てるとは思えないぞ。


「我々は強い!!」

「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」


 何でだよ!? 何でみんなそんなに盛り上がれるんだよ!?


「人間は退けた! だが、我々は新たな滅びの危機を迎えようとしている!」


 ん? 滅びの危機? なんだ? 街の中は平和そのものだったぞ?


「理由は諸君も知っているであろう! そう! 鳥獣族が我らの領土に侵攻してきたためだ!」


 鳥獣族? 鳥とか獣とかの種族がいるのか?

 まあ、スライム族がいるんだから、そんなのがいても不思議でも何でもないが。


「時代は変わった! かつては大魔王様の元で共に戦った同胞が、今は我らを脅かす存在となったのだ!」


 へぇ~。昔は仲間だったのか。


「我々はこの驚異に立ち向かわなくてはならない! そう! 今一度、戦う時が来たのだ! このまま黙って領土を明け渡すことなど、あってはならない!!」


 戦って勝てるのか? って問題があるが、確かに領土は守らないとな。


「民衆の諸君! 今こそ立ち上がるべき時なのだ! 平和な未来を、皆の力で勝ち取るのだ!!」

「「「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」


 うん。すごくいいことを言ってるっぽい。

 でもさ、魔王。お前ゴブリンじゃん。

 ゴブリンにそんなことを言われてもな……。説得力がないというか、なんか残念な気持ちになるんだよね。


 う~ん。話を聞けば聞くほど、アイツは魔王じゃない気がする。

 そもそも魔王ってさ、魔物とか魔族とかを従えてる存在だろ? その魔王の領土に侵攻してくる種族がいるってのが変だ。

 敵対している別勢力がいるってことなのだろうか?

 色々とカイザーに聞きたいが、声が出ないからな……。


 俺はカイザーをチラッと見た。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 ああ、ダメだ。周りの民衆と一緒に叫んでいる。

 歓声というより、雄叫びに近い勢いで叫んでいる。

 はぁ……。



「さて、諸君も知っているであろうが、今日は特別な日だ。今から四十六年前の今日、我々スライム族がこの地を支配し、我らの領土とした記念すべき日だ!」


 ああ、そうなんだ。ってか、お前スライム族じゃねーだろ。ゴブリンだろ。

 なんで我々スライム族は~って、自分もスライム族みたいな言い方してんだよ。


「その記念すべき日に、生まれた者達がいる!」


 へぇ~。今日生まれたヤツがいるのか……。ん? 俺もそうなのかな?

 いや、どうなんだろ? 俺って今日生まれたのか? 目覚めの儀式がなんちゃらってカイザーは言ってたけど、目覚めただけなのか?

 う~ん。考えてもよく分からんな。


「その者達の名を発表しよう!」


 何でだよ!? 関係ないだろ!?


「ユカリス! リンジー! ボルド! サーラスティ! そして英雄フォンディウスの息子、ガルディウス!」


 英雄って何だよ。スライムだろ? スライムの英雄ってどんな英雄だよ。

 それにしても意外と多いな。こんなにいるのか。

 みんないい名前だし……。

 格好いいじゃん。少なくてもパントロよりは、いい名前だと俺は思うぞ。


「更に、神官カイザーの息子! パントロ!」


 おうふ……。

 俺の名前が民衆の前で暴露された……。

 つーか、何で魔王が俺の名前を知ってんだよ……。


「この記念すべき日に、英雄と神官の息子が生まれるという奇跡!」


 いや、奇跡ではないだろ。

 偶然そうなっただけで、奇跡は言い過ぎだ。


「これらは全て、大魔王様の御加護だと私は信じている!」


 大魔王の加護ってどんな加護だよ。


「今日生まれた大いなる子たちよ! 未来は君たちの手で勝ち取るのだ!!」


 いや、未来はみんなで勝ち取るものだろ。勝手に俺達に押し付けるなよ。

 つーか、さっき自分で、皆の力で勝ち取るのだ! って言ってなかったか?

 このゴブリン、言ってることメチャクチャだな。


「「「ぅぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」」」


 えっ!? なんで!? 何でこのタイミングで歓声が上がるの!?

 歓声に混じって『魔王様ー!』みたいな黄色い声も聞こえるし……。

 どうなってんだこれ……。


 魔王が手を振りながら下がっていく。


 あれっ!? 魔王帰っちゃうの!?

 演説あれで終わり!?

 結局、何が言いたかったのか分からんぞ!?

 ん? アレか? みんなで鳥獣族に立ち向かおう。みたいなことを言いたかっただけか?

 ん~? 士気を上げるための演説だったのか……?


 魔王と側近の二匹のスライムは、兜みたいな物を被ったスライム数匹に囲まれ、そのまま何処かへと行ってしまった。

 どうやら演説は、あれで本当に終わったらしい。


「ふぉっふぉっふぉ。いい演説じゃったのう」


 そんな感想より、さっさと俺の声を何とかして欲しい。

 未だに喋られない。


「ほれ。パントロ。帰るぞい」


 俺の声を何とかして欲しい。という俺の願いは届かなかったらしい。

 カイザーは周りのスライム達を、華麗に避けながら進んでいく。

 俺は声が出せないまま、カイザーを追いかけるしかなかった……。



――――


 ただでさえ薄暗い世界が、さらに暗くなった気がする。

 夜とかあるのかな?

 そんな事を考えながら、カイザーを追いかけていた。

 しばらく進み、俺が最初に目覚めた建物が見えてきたところで、カイザーは急に止まった。


「ここがワシの家じゃ」


 紹介されたその建物は、サイコロ状の四角い形をしていた。

 壁の材質はよく分からない。石みたいな灰色の色をしてる。

 玄関ドアは木製っぽい。

 二階建てなのだろうか? 上の方にも窓がついている。

 この街には似たような建物ばかり建っているので、きっとこれが普通なのだろう。


 俺がボーッと家を眺めていると、カイザーはドアへと向かった。

 カイザーは、被ってる帽子が引っかからないように、帽子の先からペットドアに飛び込んだ。


 器用だな……。

 それより、鍵とかないのか?

 セキュリティ、ガバガバだな。


 俺もカイザーの後を追い、ペットドアを使い、中に入った。


 入ってすぐの場所。ここはリビングだろうか?

 スライムに必要なのかどうか分からんが、大きめのテーブルや、椅子がある。

 部屋数も多そうだ。いくつかのドアがある。

 二階に上るための坂道もあった。

 どうやら、家の中でも、階段は使われていないようだ。


「ほれ。ここがお主の家になるんじゃぞ? 何かないのか?」


 何かって何だよ。

 つーか、喋られないんだよ!!

 こいつ。もしかして忘れてんのか!?


「――――」


 俺は喋られないアピールをしようと、口をパクパクと大きく動かした。


「あ。忘れておったわ」


 やっぱり!!


「ふぉっふぉっふぉ。ほれ『リカバー』」


 カイザーが何か言ったと思ったら、優しい光が俺を包んだ。


「あーー。あーー。あーー」


 やっと声が出るようになった。


「ふぉっふぉっふぉ。ずっと黙っておるから、魔王様の演説に感動しておるのかと思っておったわ」

「は? 感動? あの演説で? つーかお前が喋られなくしたんだろうが!?」

「ふぉっふぉっふぉ。演説を聴いて、お主も何か思うところはあったじゃろう?」


 思うところ? う~ん……。色々あり過ぎるな……。


「そうだなぁ……。一番思ったのは、見た目って大事だな。ってことだ」

「ふむ……? どういうことじゃ?」

「まんまだよ! ゴブリンが何を言おうと、あ~ゴブリンがなんか言ってるわ~。くらいにしか感じなかったからな」

「き、貴様! な、なんと罰当たりな……! 話をきちんと聴いておらんかったのか!!」

「いや、話はちゃんと聴いてたよ」


 うん。聴きながら心の中で相づちを打ってたさ。


「話をちゃんと聴いて、俺なりに理解しようとアレコレ考えたよ。けど分からないことばかりだったな。色々と疑問に思うこともあったし……。特に最後の方とか……」

「最後の方?」

「なんか、今日生まれた子たちで未来は勝ち取れ~とか何とか言ってただろ。その前に、みんなで勝ち取るのだ! とか言ってたのに、何言ってんだ。って思った」

「ん? そのままではないか」

「は? 何が?」

「今日生まれた子たちが力を合わせる事で、種族全員が一致団結して事に当たれるという意味じゃ」

「あ? 意味分からんし」

「ええい! お主ら一人一人がスライム族の一員だということを理解せい! という事じゃ!」


 え……? そんな意味なの? 絶対違うだろ。

 なんかカイザーが好意的に解釈してるだけな気がする。

 う~ん……。納得できない。

 まあ、納得なんてしなくていいか。どうせ夢だ。俺には関係ない話だ。

 さっさとこの話題を終わらせよう。


「あー。なるほど。そうだったのね。そんなことよりさ、そろそろ寝たいんだ。俺の部屋どこ?」

「なんじゃ急に! さっきの話は、きちんと理解したのか!?」

「おう! ちゃーんと理解したよ」


 適当に話を合わせておこう。


「ふむ。それならばよいが……」

「で? 俺の部屋どこ?」

「そっちの部屋じゃ」


 カイザーの目が出入り口の反対にあるドアの方向を見ている。


「お! あそこの部屋だな? それじゃあ俺は寝るからな? いいんだよな?」

「うむ。今日はもう遅い。ゆっくり休むがいい」

「おう!」

「明日は早いからな」

「おうよっ!!」


 明日なんてないから! 俺の夢はここで終わりだから!


「それじゃあ、おやすみ!!」

「うむ。おやすみ」


――


「なんにもないな……。」


 部屋に入ったのだが、本当に何もない。

 一応ベッドらしきものはあるのだが、それ以外何もない。

 しかもこのベッド、人間用にしか見えないサイズだ。スライム族にとってはかなり大きい。


「ここで寝ればいいのか?」


 独り言を呟きながら、俺はベッドに飛び乗った。

 ベッドは固く、正直言って寝心地が悪そうだと思った。


 さて、寝るか……。


 ふと、ある考えが頭をよぎる。

 この体。横になれないんじゃないかと……。


 さっそく試してみる。体を動かしながら横になろうとするのだが、上手くいかない。

 実際、横にはなれる。だが、体の力を抜くと勝手に起きあがってしまっている。というか、体が元の形状に戻ってしまう。


 どうやって眠ればいいんだよ……。

 あれか? 力を抜いた状態のままで目を瞑るのが、スライム流の眠り方なのか?

 よし、試してみよう。


 俺は体の力を抜き、目を瞑った。


 あぁ……。なんか気持ちいい……。このまま眠れそうだ……。



 そのまま、すーっと意識がなくなっていった。

 



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