表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/55

第一話 「目覚」

「……めよ」


 なんだ? なんか呼ばれた気がするぞ?

 人が気持ちよく寝てるのに、邪魔しないでくれ。


「目覚めよ……」


 エロゲのCGコンプするのに徹夜して疲れているんだ。

 寝てて気付かないふりでいいよな。無視だ無視。


「…………」

「目覚めよ。パントロよ」


 誰だよ。うるせーな。兄貴か? ってかパントロってなんだよ? 俺の名前はタケルだ。

 俺に関係ないなら、どっか他でやってくれよ。俺は眠いんだよ。


「目覚めよおおおおおお!!! パントロよおおおおおおおおおお!!!!」

「うるせええええええええ!!!!!」


 余りにも大きな声を出されたので、思わず起きて叫んでしまった。


「さっきから何なんだよ!! うっせえぞ!!」

「おお! 目覚めたか、パントロよ!」

「あ? 何言って……ん…………うわああああああああああああああ!!」


 目の前には、黄色い顔のようなものがあった。

 黄色い楕円形の物体に、目と口が付いているだけの何だか分からない物体だ。


「なななななな、何だ!? お前一体なんだ!?」

「ふぉっふぉっふぉ。パントロよ。親に向かって何だとは言い過ぎだぞ」


 はあ!? 親!?


「ふむ……。目覚めの儀式に失敗したかの? まあ良いわ。体さえ無事なら問題なかろう」

「ちょっ! えっ!? さっきから何言ってんの!? てか、きめええええ!! 何なんだよお前!」


 黄色い物体の顔が、少し引きつっているように見えた。


「ちぇすとおおおおおおおお!!!」

「ぐはっ!!」


 目の前の黄色い物体が、突如俺の顔面に体当たりをしてきて、俺は吹っ飛んでしまった。


「て、てめえ! いきなり何を………?」


 吹っ飛ばされた俺は、立ち上がろうとして体に違和感を覚えた。

 腕がない。足もない。体も……。


「親に向かってキモイとは何事じゃ!!」


 黄色い物体が何か言ってるが、それどころじゃない。

 俺の体がおかしい。どうなってる!?


 俺が吹っ飛ばされた先には、大きな鏡があった。

 そこに映っていたのは、紫色の楕円形の物体。

 その物体に目と口が付いてるだけの謎生物。

 …………俺の姿だった。


「え? は? なんだこれ? 夢か? そうだよな? 夢以外あり得ないよな?」


 マジで意味が分からない! 

 何がどうなった!? 何故こんなことになった!?

 てか、知らない部屋だ! どこだここ!?


「人の話をきけええええええええ!!!」

「お前人じゃねえから!! 謎生物だから!! てかなんで俺の体がこんなことになってる!?」

「ほほぅ。中々面白いことを言う」

「はあ!? 何が!? いきなり自分の体が変わってるんだ! 普通どうなってんのか聞くだろ!」

「人ではないか……。ふっ……確かに!!」

「それはどうでもいいよ!!」


 何なんだよこいつ……。

 話が噛み合わなさすぎだろ……。


「そう! 確かに我々は人ではない! スライム族だ! だが、我々だって人と同じ知能がある! それはつまり、人と同じということだ! だったら我々も自分自身のことを人と言っても良いではないか!!」

「だからそれはもういいよ!! ったく。ホントどうなってんだよ……」


 ん? ちょっと待てよ。スライム族?


「ふぉっふぉっふぉ。分かればいいのじゃ」

「ちょっと待ってくれ、スライム族ってなんだ?」

「スライム族はスライム族じゃ。それ以上でもそれ以下でもない。まあスライム族以下の存在なんて知らんがな。ふぉっふぉっふぉ」


 答えになってねえ……。


「いや……だから、そのスライム族について詳しく教えてくれ。スライムってあのスライム? ぷよぷよしてるあれ?」

「そうじゃな。ぷよぷよしとるのう」

 そう言いながら、黄色い物体は顔をぷるんぷるんと震わせている。

「で、そのスライム族ってのは何なの? あんたがその種族なのは分かるが―」

「お主の種族でもあるな」


 やっぱり……。色違いなだけで同じ種族だ。

 そりゃそうだよな。親だとか言ってたし、見た目も、色が違うだけで、そっくりだしな。

 何なんだよこれ……。マジでなんでこんなことになってるんだよ……。

 夢だよな? どうしたら元に戻るんだ? 夢から覚めるためにはどうすればいい?

 もう一度、寝てみるか? そうすればいつもの部屋で目覚めるかもしれない。


「OK。わかった。これは夢だろ? 俺は寝るから出て行ってくれ」

「そうはいかん。これから魔王様の演説があるのじゃ。欠席は許されんぞ」


 演説……? そんなのスライム一匹くらい欠席したって分かんねえだろ。

 ってか、夢なのに何で俺の思い通りにならないんだ?

 俺は現実に戻りたいんだよ。さっさと夢から覚めたいんだよ……。


「さあ、演説まで時間がない。体を自由に動かせるか試すのじゃ」

「いや。体ないから。俺達、頭しかないから」

「ふむ。中々面白いことを言う」

「あーはいはい。それはもういいよ。動けばいいんだろ?」


 さっさと終わらせて演説とやらを聞いたらすぐ寝よう。そうしよう。

 と言っても、どう動けばいいのか……。

 手足も体もないからな。

 顔を動かす感じで動けばいいのか?


 俺は顔を左右へと捻るように動かしてみる。


「何をしとる。顔を動かすのではなく、こうやって地面を這うように動くのじゃ」


 どうやら顔を動かすわけではないらしい。

 黄色の物体は、手本を見せてくれた。

 潰れて、戻って、潰れて、戻って……。少しずつ前に進んでいる。


「どうじゃ? わかったか?」

「お、おう……」


 まずは潰れるようにすればいいんだよな……。

 とりあえず色々と試してみよう。

 床と接地している部分の感覚はある。この部分に力を入れればいいのか?


 俺は首に力を入れるような感じで、その接地部分を前後に伸ばすように力を入れてみた。


 お? 伸びてるよな? これは他から見たら、潰れてる状態になってるんじゃないか? これで後は元に戻ればいいんだよな。


 俺は力を抜いてみた。


 あれ? 進んでない……。


「はぁ……。座ったり立ったりしてどうするんじゃ? 前に進むんじゃよ」

「うっせーな! わかってんだよ!」

「ほほう。分かっておるなら、はよ進んでみよ」


 黄色の物体が小馬鹿にしたように煽ってくる。

 マジでムカつく。


「ほれ、ほれ、さっさとやってみい」


 クソが……。

 落ち着け俺。今はまだ自分で動くことも出来ないんだ。

 自由に動けるようになったら、体当たりを食らわせてやろう。

 いや……、体じゃないから、顔当たりか?

 それとも頭突きになるのか? まあどうでもいいか。


 俺は、もう一度潰れるように力を込めた。

 潰れることで体というか顔が伸び、接地面積が増える。


 この伸びた先の地面に張り付くようにして、元の状態に戻れば良いんじゃないか?

 これでどうだ!!


 ズズズっと、短い距離だが確かに動いた。


 お? なんとなくコツを掴んだぞ。

 あれだな。腕だけで進む匍匐前進みたいな感じだな。

 腕ないけど。


 もう一度やってみよう。

 こうして潰れることで、全体が伸びるだろ。

 で、進みたい方向の先っちょの部分に、こう張り付くように力を入れてから、元に戻る。


 ズズズっと、前進できた。


「どうよ? 動けたぞ」

「ふぉっふぉっふぉ。それくらいは当然じゃな。まあこれは基本的には使わないのじゃがな」

「は?」

「普通、移動するときは、こうやってジャンプしながら移動するものじゃ」


 黄色い物体はピョンピョンと飛び跳ねながら移動しだした。


「おい! さっきの何でやらせた!!」

「緊急用じゃよ。ジャンプすることも出来ないほど疲れることもあるのでな」


 くっそ……。基本じゃなくて、緊急用をなんで最初に教えるんだよ……。

 マジでこいつ何なんだよ。


「ほれ、次はジャンプじゃ、早うせい時間がないぞ」

「はいはい。ジャンプね」


 俺は思いっきり潰れてみる。


 マジでムカついた。

 狙いはあの黄色の物体だ。


 俺は、接地面の全てを蹴るような感覚で、一気に押し出した。


「おりゃああああああ!!!」

「ぐぼおおおおおおおおおおおお」


 黄色い物体が宙を舞う。

 俺の全力の体当たりは、見事黄色い物体に直撃し数メートル吹き飛ばすことに成功した。

 ざまあ。


「おし。ジャンプ成功だな。次は何だ? おい黄色。何か言えよ」

「おのれ……パントロ……。親に手を挙げるとは何事だ!!」

「いや。俺、手ないから」

「はっ!! 中々おも――」

「はい。そこまで。それもういいから」


 何回このやり取りをする気だよ……。


「ふむ。……しかしパントロよ。中々やりおるのう。まさかジャンプの練習中に体当たりを習得するとはのう」

「おい。ちょっと待て、さっきからパントロって言ってるがそれは何だ? まさか俺の名前じゃないよな?」

「ふむ。そのまさかじゃ。良い名じゃろう?」

「だ、だせえ……。俺、そんな名前じゃないから」

「何を言うか! お主はパントロ。生まれる前からパントロと決まっておったわ!!」

「いやだ!! 俺には立派なタケルって名前があるわ!!」

「そんな名前、勝手に付けるな! お主に名前を付けられるのはワシだけじゃ! お主が何をどう言おうと、パントロの名で生きていくしかないわ!!」


 はあ……。もう何なんだよ……。

 どうせ夢だしパントロでいいか。

 このまま言い合ってても、無駄な時間を過ごすだけだ。


「ああ……。もういいよ。パントロで……」

「ふぉっふぉっふぉ。それでいいのじゃ」

「それで、次は何をすればいいんだ? さっさと言えよ黄色」

「黄色? パントロよ。ワシのことをさっきも黄色と呼んだな?」

「だって黄色いじゃん。名前知らんし」


 一瞬、黄色の物体が沈んだ気がした。


「ちぇすとおおおおおおおおおおおおお!!」

「ぐべらっ」


 急に体当たりが飛んできて、またもや俺は直撃し、数メートルぶっ飛ばされた。


「ワシの名はカイザー。スライム族の神官カイザーじゃ。そしてパントロ、お主の父である!!」

「おい、カイザー。なんでお前だけ、そんな格好いい名前なんだよ」

「知らぬ。生まれたときに付けられた名じゃ。あとワシのことはパパもしくはお父様と呼ぶように」


 スライムにカイザーってどんなセンスだよ。

 まあいいや。また名前で不毛な争いをしてしまうところだった。

 でも、やられっぱなしはダメだよな。

 何よりムカつくし。


「よし、それじゃあ……、くらえ、ぼけええええええええ!!」


 俺は全力の体当たりを放った。


「ふんぬ!!」


 カイザーが一瞬にして、銀色へと変色した。


「何!?」


 よく分からないが色が変わっただけだ。

 このまま突っ込む!!


 俺は、そのままカイザーへ体当たりを食らわせた。

 が、俺の体当たりはカイザーにダメージを与える事はできなかった。

 それどころか……。


「いっっってええええええええええ!!」


 自分自身がダメージを受けてしまった。

 カイザーは信じられないほど硬くなっていた。

 顔面から突っ込んだせいで顔中が痛い。ヒリヒリする。


「ふぉっふぉっふぉ。そう何度も食らってたまるか!」

「くそっ! 変な技使いやがって! 親父なら息子の全力を受けきれよ!!」

「あんなの何度も食らっていたら、いつか死んでしまうわ!」

「あーー、くそっ。顔がいてぇ……」


 手がないから、さすることも出来ない。

 ただ痛いのを我慢するしかない……。

 痛みを我慢しつつ、カイザーを睨み付けてやったのだが、いつの間にか、カイザーの色は元の黄色に戻っていた。


「おっと、こうしている場合ではないな。パントロよ。全力ジャンプはもういいから、小ジャンプを連続でやれるか試すのじゃ」

「あ? あー。はいはい。やればいいんでしょ」


 俺は痛みを我慢しながら小さくジャンプした。

 何の問題もない。

 小さなジャンプを繰り返しながら部屋を一周した。


「どうだ、カイザー? 問題ないだろ?」

「ふむ。問題だな」

「は? 何が? 普通に小さなジャンプで移動できてるだろ」

「パパと呼ぶのじゃ! カイザーは止めんか!」

「そっちかよ!! 呼び名なんてどうでもいいだろ? 黄色って呼ばないだけマシだと思えよ!」

「えーー。いやじゃ。パパって呼んで欲しいのじゃ」

「イヤだよ気持ち悪い!!」

「っ!? き、気持ち悪い……?」


 カイザーの瞳がうるうるしてきた……。


「お、おい…。な、泣くなよ……」

「キモチ…ワルイ……」


 カイザーの瞳からポロポロと涙がこぼれる。


 やべえ。本格的に泣き始めた。

 どうしよう? そんな悪いこと言ったかな?

 いや、言ったか……。

 息子に気持ち悪いって言われたんだ。そりゃ親としては悲しいよな。


「そ、その……、なんて言うか……、ご、ごめん……」

「…………」


 カイザーは、声を殺して涙している。


 どうすればいいんだ……。


「そ、その……、えーっと……、ぱ、パパ?」


 俺の言葉を聞いたカイザーはニヤリと笑った。


「なっ!?」

「ふぉっふぉっふぉ。騙されおったのう。ふぉっふぉっふぉ」

「て、てめえ……」

「スライム族が涙を流すなど簡単な事じゃ! ふぉっっふぉっふぉ」


 俺を小馬鹿にして余程楽しいのか、カイザーの笑いが止まらない。


「ふぉっふぉっふぉっふぉっふぉっふぉっふぉ」 

「おい。カイザー。いい加減にしとけよ」

「はああああ、笑った笑った。こんなに笑ったのは何年ぶりか。おっと、もういい頃合いじゃな。演説広場へ行くぞい。着いて参れ」


 一頻り笑ったカイザーは、部屋の隅にあるドアへと向かった。


 まったく。マジで心配して損した。

 さっさと演説を聞いて寝よう。もうこんな夢は終わりだ。


 俺はカイザーの背中を、小ジャンプしながら追いかけた……。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ