表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ANDOLL*ACTTION登龍門編  作者: 文丸くじら


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/36

爆弾とはなんぞや

無造作に電極やコードで体を貫かれたアンロボット、マーリンは白い部屋で瞼を閉じている。

内部にあるはずのデータは今はネットから切り離された電脳世界、青い空が眩しい一週間が続くシステムの中にいる。

マーリンという名前は魔法使いの弟子という子供達の前で名乗った名前、与えられたデータ名は海林厚樹。


彼が放置されている部屋は無機質なほど白い部屋。ある病院の地下奥深くにある。

その上、地上の建物では電脳世界、理想の夢を作り上げるための道具として利用されている女性が病室で眠り続けている。

こちらにも延命装置と称した、大半は脳を最大限に生かすための機材が部屋を埋め尽くしそうになっている。


そんな手狭な病室で眠り続ける女性を見つめる人影が一つ。幼い頃に日焼けした肌はもうどこにもない。

人影は男性だ。その手の中にはすり切れて今にも千切れそうな写真が一枚。小学生くらいの少年少女五人が笑い合っている。

男性の服装は看護師用の清潔な制服だ。同僚の女性看護師が男性の名前を呼ぶ。


「実畑さん。次は飯島さんの診察です!」

「わかりました。今行きます」


そう言って実畑八雲は眠り続ける女性、流川綺羅に背中を向ける。

彼は知らない。その部屋にある機材が彼女の命を縮めていることに。

彼女の夢の中で都合のいい実畑八雲が作られていることも、青い血の思惑も、なにも知らない。





トランプのババ抜きをしている神崎伊予の顔は不機嫌そのものだ。

相手は青頭千里という爽やかそうな青年のように見える青い血の人外。

暇だからとゲームをすることになったのだが、神崎伊予は苛立っていた。


「どうしてすぐに先生助けてくれないの?」

「助けるのは僕の役目じゃない。そしてどんな物事にも準備が必要なんだよ」


言いながら笑顔で青頭千里は神崎伊予の手札一枚を引く。一枚だけ突きでていた不自然なカードだ。

引いたカードの柄を見て笑顔を引きつかせる。老婆が笑うカード、ババの役目であるジョーカーを引いたからだ。

実はこれで五戦目。前四戦の結果は神崎伊予のオール勝利で、どこまで不器用なのかと神崎伊予は疑う視線を青頭千里に向けている。


「今、二番はすごく調子こいてる。いわば有頂天だろうね。そんな相手を突き崩すのは簡単なんだよ」

「崩せたとしても、先生が戻ってこないなら私には意味がない」


お互いに黙々と手札を引いては、数が揃った二枚をまとめて捨てていく。

少しずつお互いの枚数は少なくなっていくが、ババは決して揃うことなく片方の手札に残る。

青頭千里はババを持ったままという不利をものともせず、迷いなく神崎伊予の手札を引いていく。


逆に神崎伊予は青頭千里の手札を警戒して、引く手が遅くなる。

特に枚数が少なくなっていけばいくほど、決断力が大きくなっていき、行動を鈍らせる。

お互いのカード合わせて五枚ともなれば神崎伊予も平然ではいられなくなる。


「さて、君には勝負ごとに必要なことを特別に教えてあげよう」

「……なによ」

「爆弾という物は、こちらが直前まで持っているべきだ。赤や青のコードとか選べないくらい、直前まで」


青頭千里の手札は二枚。神崎伊予の手札は一枚。数字のカードを引けば神崎伊予の勝利である。

そして青頭千里の目線が右端のカードに向けられた際、神崎伊予は前四戦の経験をもとに左端のカードを手に取る。

必ず最後には取られたくないカードに青頭千里はあえて目線を外すからだ。


しかし神崎伊予が引いたカードはこちらを嘲笑うような老婆の絵柄が描かれていた。


最後の土壇場でババを引いたことに愕然としている神崎伊予に対し、青頭千里は当然のように数字のカードを引き当て、手札を全て捨てた。

ババ、先程の例え話で言うなら爆弾は神崎伊予の手の中。青頭千里は背伸びをして、晴れやかな笑顔で告げる。


「別に四戦負けてもいいよ、僕はね。最後の最後で相手に敗北を認めさせたなら、僕の勝ちだからね」

「まさか……わざと……」

「そう思ってくれた方が僕は勝利の美酒に酔いしれるね。つまり、勝負ってのはこういうことさ」

「……最低、最悪、大人げない、禿げろ、他にどんな罵倒受けたい?」


マスターとは違い、子供の言葉攻撃を駆使してくる神崎伊予に青頭千里は苦笑する。

実はかなり手加減して相手してあげたのに、一度負けたくらいでここまで言われなくてはいけないのだろうかと思いつつ、反面では可愛いなと考えている。

青い血の人外からすれば赤い血の人間は、どこまでも面白く抗ってくれる愛猫のようなものだ。


どんなに引っかかられても、被害を出されても、唸り声を上げられても、しょせんは人間のすること。

地位、権力、財力、長寿、人間が欲望として捉える物全て手に入れた人外にとって、人間がする行為には腹が立たない。

腹が立つのは身の程をわきまえない二番とか、小者なのにいちいち喧嘩を吹っ掛けてくる二番とか、笑い方が気持ち悪い二番とか、である。


自分より目線が下の者に対しては怒りは湧かない。自分と目線が同じ者に怒りは湧くものだ。


「ごめんよ。そんなに怒るとは思わなかったんだ。でもこれはヒントだよ、伊予ちゃん」

「ヒント?」

「これから直面する問題に対して、僕達にしろ二番にしろ、爆弾ってなんだと思う」


その問いかけだけを残して、青頭千里は部屋を後にする。

残された神崎伊予は考える前に未来を見ようと、能力で眼前にいくつもの可能性という名の画面を広げていく。

小さい画面は難しい未来、大きい画面はほぼ確定されている未来。それら全てを眺めても、青頭千里の問いに答えを出すことはできなかった。





地底人は鼻唄を気侭に歌いながら地下世界を広げるのではなく、一本の道を作っていた。

遊園地運営はロボット達に任せている。オーナーであるキッキがいなくても円滑に楽しいひと時が満ちているだろう。

今はまだ土しか見えないが、次第に水道管や地下室、埋まったコンクリートに気をつけなければいけないだろう。


しかし白い肌と髪を泥で汚したキッキは笑顔である。それくらいの障害は地底人なら自分の力で退けられる。

もっと難しいことを、誰の力でも不可能なことでも覆ったことを、キッキは知っている。

それを思い出すたびにどんな苦難も耐えられるという自信がついた。もう最後の子供とは名乗らない。


最後の地底人キッキは友のため、仲間達のために自分にしかできないことを全力で挑んでいた。





疲れ切った目で海林厚樹は青い空を眺めていた。今日は月曜日。

幸せしかない最悪の一週間が始まったと辟易し、何もしたくないと家の床に手足を投げ出している。

自害しようとも考えたが、システムの都合上によりデータは不幸せを引き起こすことはできない。


特に流川綺羅に近い人物であればあるほど、その傾向は強くなっていく。

そして海林厚樹は与えられた使命通りに嫌々ながら体を動かし、五人が待っているであろう校門前に向かおうと準備する。

百十五回前にとうとう新しい狭間進歩のデータが流川綺羅の脳内から再構築されてしまった。


あの日、海林厚樹が一緒に行動して主人公になる前に消えてしまった狭間進歩はどこにもいない。

新しい狭間進歩は変わらない笑顔で海林厚樹に友人として接してくる。昔からの付き合いと言わんばかりに。

花山静香に怒られ、流川綺羅と意気投合し、実畑八雲とやんちゃする、海林厚樹の友達である狭間進歩。


そうやって消えてしまった人物も数を重ねれば流川綺羅の脳内から再構築され、何事もなかったかのように一週間を過ごす。

気付いた時には主人公がこの一週間を変える人物だと教えてくれた男も、再構築されて海林厚樹の目の前で笑っていた。

電脳世界はどんな願いも叶えられる夢のような世界だ。その夢に安堵するのが流川綺羅で、苦悩するのが海林厚樹である。


しかし海林厚樹は少しだけある希望を抱いていた。本当に微かな、いつ消えてもおかしくない証明。

そのことには流川綺羅もシステムエッグもジョージ・ブルースも気付いていないはず。

自分に言い聞かせるようにそう信じる。そして秘密話をするように花山静香に尋ねる。


「なにか約束を覚えてないか?」

「うーん、誰かと大きな海に……行くってしたような……それが?」


尋ねるたびに花山静香の声は自信なさげに、小さくなっていっている。

それでも海林厚樹は一週間が繰り返されるたびに尋ねる。誰としたかまでは聞かない。

大切な約束を、地獄に垂らされた蜘蛛の糸のような細い希望を、何度も確認しては笑う。


消えなかった約束。何度終末が繰り返されて、全てが黒に塗りつぶされても消えなかった確かな物。


これが鍵なのだと海林厚樹は信じていた。何かを変えるきっかけになると思い込んでいた。

ただそれ以上はなにもわからない。この鍵をどこで使えば良いのか、どんな扉に有効なのかも。

それでも放してたまるものかと、ずっと握りしめている。大切な狭間進歩と花山静香の約束を。


例え新しい狭間進歩がその約束を知らないとしても、構わなかった。





皆川万結は金龍のアンドールがスリープモードに入ったのを確認してから、誰にも見せていない写真を引き出しから取り出す。

空中から現れた写真の意味を皆川万結は知らない。それが彼女の能力、百%の未来写真であることをまだ知らない。

金色に輝く東洋龍が0と1の鱗を剥がれ落としながらも天に昇っていく姿。ある病室で、ある眠り続けている女性を見てから現れた写真。


幼い少女は目の前の狭間進歩と名乗ったデータ改め、金龍のアンドールであるムーくんを見つめる。

どこから来たのか、どんな場所で生活していたのか、友達はいたのか、その全てを皆川万結は伝えられてない。

それでも友達だった。ずっと憧れていた、アンドールの友達。いつまでも一緒にいたい友達。


しかし皆川万結は心の何処かで感じ取っていた。いつか別れの日が来るのだと。

そして別れの日はこの写真に印刷された日付だと思った。だから確認するために引出しから取り出した。


「ちかいなぁ」


泣くのを我慢するために小さく呟いた言葉は、誰の耳にも届かずに消えてしまう。

一ヶ月もない別れの日までの時間。きっと信原鉄夫との約束は守れないと知ってしまった。

それでも皆川万結は我慢しようと思った。それが自分にできる最善のことだと信じて。


瞼を閉じて、頬に流れていく滴を小さな指で拭う。誰にも見せられない、我儘の涙だから。




マスターにある座標入力をしてもらい、粒子通信で世界の何処かにいて、世界の何処にもいない人物に連絡をとろうとする青頭千里。

さすがのマスターも与えられた座標に渋い顔をしながら疑問符を浮かべた。それは人生で初めての表情かもしれない。

しかし出来ないとは言わない。どんな物事も科学の力で可能にしてきたマスターは、いつも通り成功させる。


「で、誰に連絡を取るんだよ?」

「君もよく知っていて、だけど知らない人物さ」

「簡潔に」


なぞかけをするように笑う青頭千里に対してマスターは苛ついた声を出す。

しかし簡潔に説明しようとして少し迷った顔をする青頭千里。これも珍しい表情である。

大体は笑顔ですぐさま答えることが多く、特に説明に対して見せる顔ではない。


二人の沈黙を貫くような明るい声が通信機の向こう側から流れて、状況は変わる。



『はいはーい。青い血の人外で青の魔女である青々尽くしの青春真っ盛り青少年な十三番のミリオン・ブルーノちゃんどぇーす★』



誰もが顔を青ざめるような最悪の存在が姿を現した。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ