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ANDOLL*ACTTION登龍門編  作者: 文丸くじら


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似た者同士

大雨が降る東エリアから電車を乗り継いで、雪が降る北エリアに辿り着いた仁寅律音。

科学の力で天気を制御し、雪で起こる事象の数々を研究している特殊なエリアであり、玄武明良がいるであろう場所。

白いビニール傘を広げながら、仁寅律音は白い息を吐き出す。夏だというのに長袖を着てきたかいがあったようだ。


埃が降り積もるように、音もなく舞う雪粒達にはしゃぐほど仁寅律音は子供ではなかった。

公園を通り過ぎれば神を奉る教会から賑やかな声が聞こえてくる。般若の顔した父親と、それから逃げる身軽な息子。

見知った顔だが仁寅律音は無視して足を進める。もしも本物だったならば、こんな状況で偽物の親と喧嘩している暇はないはずだ。


蛙のアンドールを持った美少女が医学書を片手にポンチョを着た少年を本屋へと連れていく。あれも偽物だ。

長いリムジンに乗るお金持ちで丸メガネの少女も偽物で、白いマフラーをつけた幼い少年も偽物。全てが偽物。

偽物の方が幸せそうに日々を謳歌し、雪に目を向ける暇もなく動き回っている。雪合戦する余裕も消えているようだ。


辿り着いた家の前で仁寅律音はインターホンを鳴らす。穏やかな女性の声がしたので、名前を告げた後に玄武明良の名前を出す。

そうするとすぐに、友達が来たわよ、という声が聞こえて苦笑する羽目になる。そこまで親しくなった覚えはないのに、この世界ではご都合よく動いているらしい。

予想通り疑わしげな眼をした玄武明良が扉から顔を覗かせ、鬱陶しそうな視線を仁寅律音に向けてくる。


「少し話そうよ。同じ境遇の者同士さ」


胡散臭い笑顔で仁寅律音はそう告げる。考えてみればゆっくり話したことがないな、と今更ながら思い出す。

十年前の飛行機事故で家族を失った者同士。似通っているようで、全く似ていない二人が言葉を交わす。誰の邪魔もないまま。




駅に近い公園に辿り着く頃には雪はやんでいた。だが空は曇りのまま晴れそうにない。

玄武明良は見られたくない物を見られた子供のように拗ねた表情をしている。出かける矢先、玄武明良の弟が扉の隙間から顔を出して手を振っていた。

本来なら赤子のまま死んだ弟。育っていれば扇動美鈴と同い年になっていただろう、この世界では生き延びた設定の少年。


仁寅律音は笑顔で手を振り返したが、内心は鼻で笑っていた。本当にご都合主義で塗り固められた優しい世界だと。

傘で適当に遊具の上の雪を払い、その上に座る仁寅律音。玄武明良は仁王立ちのまま向かい側にいるだけだ。

隣で座るような仲じゃない。気安い話ができる相手じゃない。わかりあおうと思うような知り合いではない。


「弟くん可愛かったね。お母さんらしき人の声も聞いたけど、君は全くその遺伝子を受け継がなかったんだね」

「嫌味を言いに来ただけか?」

「まさか。思い知らせに来てあげたんだよ。感謝してね」


火花が散るような錯覚。緊迫した空気が漂うが、二人の表情は一切崩れない。仁寅律音は笑顔、玄武明良は怒り顔。

こういう時に竜宮健斗がいれば二人の間に立って空気の悪さを緩和し、話を進めたかもしれない。

しかし今は頼りになる馬鹿はいない。利益優先の仁寅律音と、天才だが気難しい玄武明良。相性が良いとは言えない。


「僕もね、父さんに出会ったよ。最悪だった」


晴れやかな笑顔で告げた仁寅律音に対し、玄武明良は嫌そうな表情を向けるだけだ。

仁寅律音の父親も十年前の事故で死んでいる。殆ど父親を覚えていないとはいえ、再現された父親に対し酷い言い草である。

玄武明良は偽物とわかってるとはいえ、父親に母親、赤ん坊であった弟が目の前で笑っていた時、不覚だが嬉しかった。


どんなに願っても二度と会えないはずの家族。本物ではないと理解していても、心が歓喜の声を上げた。

それに浸っている内に水曜日に来てしまった時は、時間が短いと舌打ちするほどだ。もう少しだけ、長引いてほしいとわずかに願ってしまう。

一週間がとても短い。なぜ長引かないのか、玄武明良はずっと考えていた。


一週間で主人公に値する人間を見つけるなど不可能だ。そんな短い期間で幸せを謳歌する人々は迫る危機になど目を向けない。

それはこの世界を作り上げている流川綺羅なら嫌になるほどわかっているはずだ。悲劇よりも喜劇の方が見ていて楽しいからだ。

考えられるのは一週間でなければいけない理由。一週間以上を形成する力がないか、もっと別の企みか。遮るように仁寅律音が言葉を続ける。


「……十年。僕達の人生の大半だ。その間僕達は失った家族に囚われて、でも大事な物を守り続けたと思い違いしていたんだよ」


十年間父親を演じた仁寅律音。十年間家の中から滅多に出ることなく、今でも両親と弟の部屋をそのままにしている玄武明良。

忘れたくても忘れられない。大事な物であり、誰かが大事にした物であり、ニュースですら定期的に追悼の言葉を流す。

心の中で生きている、という言葉が恐ろしいと知っている仁寅律音は玄武明良に問いかける。


「思い出してよ。僕達は一人で生きてきたわけじゃない。君の隣に誰がいたのさ?それはこの世界では隣にいてくれるの?」


玄武明良は思わず隣を見るが、そこには誰もいない。いつもだったら自分を見ているであろう丸メガネの少女は、この世界では出会っていない。

電話で会話した覚えはある。せっかくの夏休みなのだから家族水入らずでゆっくりしたらいい、と明るい声で言われた。

途端に襲い掛かる喪失感は埋め合わせできるほど小さくはなかった。十年間、引きこもっていた自分を見捨てなかった猪山早紀。


「それは君の家族が戻れば捨てれる物なの?出会わなくてもいい存在なの?はっきりしたら、天才くん」

「う、るさい……うるさい!!大事に決まってる!それでも、それでも……」


理論立てた言葉もなく、年相応の幼い言葉しか出てこない玄武明良は狼狽していた。

言われなくてもわかっているつもりだ。しかし心が目の前で笑う家族を手放そうとせず、理性が負けてしまう。

本当は今すぐ家を飛び出して問題解決に当たればいいとわかっていても、抜け出せない甘やかさが玄武明良の冷静さを溶かす。


赤ちゃん用遊具が残ったままの部屋を思い出す。どうしても片づけることができない、家族の残り香。

両親の部屋も、家も、玄武明良に残された物全てが十年前と変わらない。家族が生存していた時のまま、止まっている。

少しずつ色褪せていく遊具の箱を見るのが怖くなり、掃除は軽くするものの開かずの間となっている部屋達。


「それでもなに?捨てれないって言うの?馬鹿じゃん!実は頭でっかちの大馬鹿なんでしょう!?」

「お前に言われたくないわ!考えてみれば母親のせいで精神病んで自殺未遂に陥った奴じゃないか!」

「そこに関してはもう吹っ切れたんだよ!父親に関しても最初は動揺したけど、照らし合わせれば凄い紛い物だったんだから!」

「おまっ、なんだかんだ言って惑わされてたんじゃないか!俺だけを悪いかのように言うかと思えば、責任逃れしてるだけだなっ!」


声を荒げて言い合いを始める二人は少しずつ喧嘩腰になっていく。額には青筋が浮かび、相手を言い負かそうと熱が上がっていく。

いつの間にか仁寅律音は立ち上がっており、利益のことも忘れて思うがまま叫んでいた。玄武明良も負けじと思いついた罵倒を次々出していく。

最終的にはお互いの言葉が耳に入らないほど声が混ざってしまい、息切れによって口を閉じるのも同時だった。


そのまま少しだけ無言のまま時が過ぎていく。先程の自分を思い返し、恥ずかしい気持ちになってきたのだ。

正直顔を合わせるのもつらくなり、視線を他所に向けて、背中合わせとなっていた。間を取り持ってくれる者はいない。

無言が辛くなった辺りで先に言葉を出したのは仁寅律音だ。雪のように消えそうなか細い声だったが、玄武明良の耳には届いた。


「……やっぱ僕達似てないね。全く違う」

「当たり前だ。お前に似てたら今頃自殺している」

「ちょっとそれ酷くない?そこまで引きずらなくてもいいじゃん」

「酷くないさ。俺はお前より恵まれていた、それだけの結果論だ」


玄武明良は家族を失った。しかし一人ではなく、死者に重ねられるということもなく、助けられてきた。

猪山財閥が知り合いにいたこと、父親の仕事仲間が玄武明良の才能を理解したこと、雪に潰されない丈夫な家があったこと。

似ても似つかない。同じ境遇なんかではなく、同じ事故に振り回された被害者というだけの接点しかない。


もしも猪山早紀が玄武明良に失った家族を重ねてしまい、気が狂っていたならば。玄武明良は最も苦しまない方法で即座に死んでいただろう。

それを十年間耐えた仁寅律音を多少なりとも感心した。全く同情はできないが、自分にはできないことを苦しみながらやってのけたのだから。

雪が思い出したかのように一粒、二粒、と降り始めた。夏だというのに北エリアは相変わらず雪が降る。それを見て、玄武明良が小さな違和感に気付く。


北エリアは雪が降る。それは玄武明良にとっては十年も続く当たり前の出来事ではある。しかし流川綺羅がそれを知っているはずがない。

実験として特定エリアのみに雪を降らす実験は、十年前から始まったことであり、流川綺羅が眠りについたのは十二年前。

計算が合わない。思い出を再現して幸せに浸るというのなら、流川綺羅の記憶において北エリアには雪が降っていないはずだ。


アンドール自体も十年以内に開発、販売された商品だ。それなのに流川綺羅が作り上げたこの世界では自然と流通している。

おかしい。もしも流川綺羅が当時の記憶を再現しているならば、玄武明良の弟は赤ん坊のままでいるはずだ。むしろ生まれていない。

そういうことかと、玄武明良は肩を震わせて重低音の笑いを零していく。仁寅律音が怪しい人物を眺める視線を向けてくるが、気にしない。


「くっ、くくくく……そうか。どうやら俺は最低な作戦に堂々と嵌ったわけか」

「悪役みたいな笑みを浮かべてないで、説明してよ」

「なんで俺達の生きている時間に合わせた世界設定なのか。竜宮健斗の素養を組み込んだ、だけじゃない」


主人公という素質データを抜き出すために作られた、流川綺羅が望む幸せだけの世界。一番である青頭千里を倒すための実験。

幾つもの目的を絡ませた上で、玄武明良達の時間に合わせた世界設定は不要のはず。それが必要ということは、もう一つ目的を追加したに過ぎない。

どれだけ欲張る気なのか、と姿を画面越しでしか現さない相手に強い敵対心を向ける玄武明良。最初から気付くべきだった、手遅れな発見。


「ジョージ・ブルースは俺達全員始末したいんだよ。特にエリアボスを、俺は嫌だったが、担った奴をな」

「だから僕は一年間限定と言った矢先にアンドール失ったから、正式なボスじゃないんだけど」

「黙れ初代黒幕。なんにせよ、俺達は代表のように扱われていたからな、一人でも欠ければ士気は下がるだろう」


初代黒幕と呼ばれて仁寅律音は明らかに嫌そうな顔になる。好きで暗躍していたわけではないのに、酷い扱いである。

それに年期で言えば御堂霧乃の方が上手である。しかしここで玄武明良の言葉を区切ってしまうと口喧嘩になってしまうので、黙っておくことにした。

若い頃の過ちがいつまでも我が身に降り注ぐことを思い知りつつ、仁寅律音は話の続きを促す。


「特にボスを担った奴はおあつらえ向きにどろどろのぐちゃぐちゃな過去持ちだしな。こんな幸せな世界に嵌りやすいんだよ」

「なんか擬音使うと頭悪そうに聞こえるけど、否定できないなぁ」

「しかしそのためには、時を進めなくてはいけない。失った時期は別々だからな。だから俺の弟が美鈴と同じくらいに育っていた」


仁寅律音と玄武明良は同じ事故で家族を失った。しかし籠鳥那岐や流川綺羅は違う。

失わないまま時を強制的に進ませた玄武明良達と、時を止めたまま笑い続ける流川綺羅。それを同じ世界に置くため、システムは微細な変更を幾度も重ねているのだろう。

確証はないがもしかしたら最初は一ヶ月ほど幸せな時間があったのかもしれない。しかし設定を細かく、追加していけば自ずと容量は減っていく。


システムエッグや流川綺羅の脳を使用したところで、新しいデータを増やせば再現期間は減っていき、一週間という時間しか残らなかったのだろう。

現実時間では一秒も満たなかったはずの世界は、どこまでも幸せな偽物として完成しつつあり、玄武明良達が介入したことで終わりを迎えに行くだろう。

だからこそ玄武明良は理解できた。ここで竜宮健斗達を殺すならば、希望全てを踏みつぶしたいのならば、世界丸ごと壊してしまえばいい。


流川綺羅の脳も使い潰し、データとなった竜宮健斗達をパソコンのデスクトップのゴミ箱に捨て、残りの子供達はロボットで殺せばいい。

システムエッグさえ無事ならば、ジョージ・ブルースは何度も電脳世界を作れる。流川綺羅のように幸せだけを望む人物を利用して。

その思考を先読みして、玄武明良は雪が降ってくる空に向かって大声で叫ぶ。本当は気恥ずかしいが、構っていられない。


「聞け!!システムエッグを壊せ!俺達に構わず、二度と再現できないように!」

「え、何で空に叫ぶの?不審者みたいだよ」

「ジョージ・ブルースのことだ。どうせ俺達が幸せに浸る映像でも流し、味方の不信感や不安を募らせるくらいの軽薄な策を仕込んでいてもおかしくない」


それを聞いて仁寅律音はやっと猪山早紀達に伝えるために空に叫んだのかと納得した。地下を走っている間、幾つもテレビがあったのはそういう理由かとも察せた。

ただしそのまま流れているかどうかは怪しい。もしかしたら映像だけが早送り再生のように流れている可能性も否定しきれない。

仁寅律音としてはシステムエッグ壊す前に世界から抜け出せる術があればいいと願う。こんな場所で死ぬ気はないからだ。


母親を残して勝手に命を賭けているのだ。もしも自分が死ねば、母親はもう一度狂うかもしれない。それだけは避けたい。

ジョージ・ブルースを倒すのには賛成だが、利益優先順位としては母親の容態が優先だ。仁寅律音とはそういう少年である。


「後は……コピーの行方だな。バックアップも残さないまま、俺達の手に届く場所に置く理由がないからな」

「それはアラリスの役目じゃないかな?データでしか残らないんだから」

「木を隠すには森の中。ここはデータの宝庫だ、もし敵の目を欺き隠すなら……それに」

「まだなにかあるの?もう勘弁してよ。面倒ばかりじゃないか」


本格的にジョージ・ブルースの思惑を聞くのが嫌になってきた仁寅律音は、もう東エリアに帰ろうかとも考えてしまう。

性格悪い人物、人外が正確、の考えを聞くほど不愉快な物はない。ただしそれは仁寅律音に跳ね返ってくる事柄でもあるが。


「狭間進歩が妙に花山静香に固執するのが気になる」


ずっと少女との約束を守ろうと行動し続けた一つのデータ。そのために忌々しいこの世界に戻り、終わるしかない一週間を繰り返している。

データとして行動原理プログラムがそれしかなかったのかもしれない。しかしあまりにも狭間進歩は花山静香を大事にしている。

印象が強すぎて個性のようにも見えるが、玄武明良には嫌な予感しかしなかった。まるで意図的に細工されたような、不自然さ。


「もう考えるの君に任せるからさ。とりあえず何曜日までに決心してくれるかだけでも教えてくれる?」

「……金曜日。土曜日は準備として一日欲しいからな。それまでにはケリをつけるさ」


仁寅律音と視線を合わさないまま玄武明良は静かな声で期限を決める。もう明後日に迫るのだが、不安が拭えない様子だ。

しかもこの世界では一日という時間感覚はあてにならない。一日の進行や日付変更すら流川綺羅が決めている。

本当に大丈夫なのか、という視線を向ける仁寅律音に対し、玄武明良は疲れたような笑みを向けて答える。


「お前みたいに取捨選択できないんだよ。どうやら意外と俺は感情面で不器用らしい」

「だから早紀ちゃんは君を見捨てなかったんだよ。彼女に感謝しなよ、じゃあね」


仁寅律音は玄武明良が見せた珍しい感傷的な言葉をあっさりと切り捨て、背を向けて駅へと歩いていく。

少しの間立ち尽くした玄武明良はもう一度空を見上げる。本格的になった雪が視界を白く曇らせていた。


「それくらい、昔からわかってたさ」


ただ見ない気付かない振りをしていた、とは続けなかった。それを口にしてしまえば、大事にしてくれた相手を傷つけてしまうから。

雪道の上を音が鳴る靴をはいた子供が駆けてくる。その姿を確認して、玄武明良は穏やかな笑みを作る。


「あきらにいちゃん!おむかえにきたよ!」


真っ白な顔だが、頬だけが林檎のように赤く染まった玄武真雪。ニャルカさんというキャラクター傘を片手に、満面の笑顔を玄武明良に向ける。

どうやら会話している間に大分時間が経ったようだと、他人事のように感じ取りながら玄武明良は成長した弟の元気な姿を記憶に焼き付ける。

幸せが残酷だと知らないまま生きてきた。そのツケがやってきたのだと、玄武明良は歪んだ顔が見られないように近寄ってきた玄武真雪を抱きしめる。


「どうしたの?おなかいたいの?」

「違うんだ。ただ、兄ちゃんが馬鹿で、意気地なしだったんだ」

「よくわかんないけど……へんなにいちゃん」


変と言いつつも可笑しそうに笑う玄武真雪の声が心地よくて、玄武明良は抱きしめる力を強くする。

手放さなくてはいけないと思いつつも引き寄せてしまう。天才なんて偉ぶっていたのが恥ずかしいくらい、幸せを前に馬鹿になっていく。

それでも玄武明良の脳裏に蘇える少女の声が、頭を冷静にさせてくれる。どこかの少年のように、間違えないようにしなくてはと気合を入れ直す。


「真雪、生まれてくれてありがとう。もう兄ちゃんはそれだけで嬉しかった」

「うん!ぼくもにいちゃんがさきにうまれてくれて、ありがとう!」

「ははは。本当は意味わかってないだろう。仕方のない奴だ」

「えへへへー。ばれたかー。とりあえずきょうはおうちにかえろう!」


小さな手に引っ張られて玄武明良は家へと帰る。最後まで玄武真雪はあることに気付かなかった。

玄武明良の言葉が過去形だったことに。それが既に彼が心の整理をつけ始めている証拠だと、知る由もなかった。

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