だからあいつらは呼びたくなかったんだ
クロスシンクロによって、一時的に体をふらつかせた子供達だったが、多くはよろけたところを自力で踏ん張って倒れるのを阻止した。
倒れたのはたった四名。竜宮健斗、籠鳥那岐、仁寅律音、玄武明良のみである。それだけで成功した数を理解できた。
理解できなかったのは起き上がった竜宮健斗の口から吐き出された言葉だ。正しくはセイロンの魂データが入った竜宮健斗の体、ではあるが。
「やられた!!ジョージ・ブルースの奴、せこいことに健斗のみに発動する罠を仕掛けていやがった!」
<はぁっ!?なにそれ、僕に気付かれずにそんなことをマスターならともかく、青い血、しかも二番、ができるわけないじゃん!>
「システムエッグと電脳世界主導権を握っている流川綺羅の危機管理意識を利用した極小の罠だ!俺も引っかかってから気付いた!」
崋山優香は竜宮健斗の口から難しい単語が出てくることに慣れず、中身がセイロンとわかっていても呆けてしまう。
それは他の面々も同じらしく、特に相川聡史は色々言いたいことがあったが、事態の深刻さから何も言えないままアラリスとセイロンの口論に耳を傾けていた。
「流川綺羅が望む幸せな世界とは別に小さな空間データが発生しているはずだ!今すぐ干渉して健斗を助けてくれ!青い血のことだ……えげつないのを仕掛けているはず」
<そういった面の信頼感はすごいよね、青い血。わかったけど、その間は僕も狭間進歩やシュモン達がいる方の世界に干渉が……>
「アラリスはウイルスなんだろう?分裂とかできないのか!?つーか、やってみろ!!」
<ちょ、セイロン最近僕の扱い酷くない!?うーん、同じ意識集合体を複数生成するのはいいけど、途中で結合した際に記憶の歪みによる自己崩壊エラーとか>
「どういうことだ?まさか……」
<そう。前の憎しみに満ちた僕が発生する可能性が大きいよ。僕の力だけを分裂するのはいいけど、自由に動かすには意識が必要だからね>
アラリスはアダムスというアニマルデータと最強ウイルスAliceが結合した存在である。
その際に憎しみに満ちていた意識データをウイルスの力で無理矢理捻じ曲げ、今の付き合いやすいアラリスという意識に生まれ変わったと言ってもいい。
ウイルスとしての力を行使するにはアラリスによる意識が必要だが、それを分散した際に意識の傾向が偏る可能性が出てくる。
アラリスにとって意識とは記憶から形成された人格であり、記憶の中に憎しみがあれば殺意を抱くし、愛があれば優しくなれる。
意識を分散するということは記憶も引き継ぐということだが、全てを引き継がせるには時間がかかる。そのため一部分の必要な記憶を分身に渡す必要がある。
しかしアラリスにとって必要な記憶には憎しみに満ちた思い出がある。分散させた際にその記憶を引き継いだ分身がウイルスとして動いたら、最悪の結果よりも底辺の事態を引き起こす可能性がある。
だからアラリスはウイルスの力をもって分散することができない。過去の自分が恐ろしいと、アラリス自身が一番よく知っている。
殺意という意思だけで何人の手を汚そうとしたか、その心でどれだけの人間を傷つけたか、最後に狂ったまま動けなくなったのを覚えていた。
姉であるクラリスの、人を想い続けたデータがなければ、アラリスは存在することができなかった。
<っ、だから、僕には無理なんだ!最強なんて言うけどさ、そんなに簡単じゃないの!>
「アラリス……」
もし竜宮健斗がこの場にいれば、いつもの笑顔で大丈夫だと笑って勇気づけたのかもしれない。
しかしセイロンにはできない。アラリスが、アダムスが殺意を抱いた原因が自分だと自覚している。クラリスを助けられなかったのも、同罪だ。
こうしている間にも時間は進む。立ち止まっている暇はないのに、歩くための解決策が出てこない。そんな時だった。
「大丈夫です、アラリス。私がなんとかします、雷冠さんの力があれば可能です」
<クラカ……?>
「貴方が分散した力に私の意識データを接続し、操ります。私がコントローラー、雷冠さんが接続ケーブル、分身はゲーム内のキャラクターとして動かします」
淡々と告げるクラカはいつも通りの表情だ。機械らしい、無機質な顔のままである。
それなのに発せられた機械音声に熱がこもっているような、機械らしくない揺らぎに目を見張るものがあった。
アラリスが画面越しに姉のクラリスそっくりの姿をした、ロボットの少女を見つめる。
「大体貴方になんでもかんでも任せるつもりはありませんよ。精神年齢十歳以下なんですから」
<ぬなぁっ!?正論だけど、どこか腹立つ言い方だよね、今の!?>
「私を誰だと思っているんです?消失文明の女王と一時期同化していた、扇動涼香の友達だった人工知能ですよ。今ではアンロボットの祖として日頃便利な下僕もつきましたし」
下僕という言葉が発せられた瞬間、さすがの鉄面皮である柊と楓がお互いの顔を見合わせてから指さした。意味としては下僕とは自分達のことか、である。
煎餅を食べながらドラマを見ていたり、ストーブの前でアイスを食べるという非効率な生活をクラカがしていたのを見ていた扇動美鈴でも、流石に少し驚いた。
人間に最も近付けたロボット、人工知能とはいえ人間の気持ちを学んだ、その結果にしては大分ふてぶてしい性格になったと言えよう。
「こんな私でも動いていける場所ができたんです。そんな場所にいる皆さんを、貴方も少しは頼ってください」
<……下僕、っていう発言がなかったら涙流して頷いたんだけどね>
「そこは御愛嬌です。男は度胸、女は愛嬌、なんて言葉もありますので。私が健斗さんを助けに行きます、貴方は狭間進歩の助けを」
<わかった。侵入に失敗したアニマルデータでも突破できないか連絡するから、無茶はしないように。その前に成功したのは四人で問題ない?>
画面越しにアラリスは子供達の顔ぶれを眺めつつ、アニマルデータとの照合をしていく。
その結果、竜宮健斗はセイロンと、籠鳥那岐はシュモンと、仁寅律音はシラハと、玄武明良はガトとクロスシンクロに成功したようである。
つまりその四人の体の中には現在アニマルデータが一時的に入っており、体を動かせる権利を得たわけである。
籠鳥那岐はいつも吊り上げている目つきが少し柔らかくなっており、仁寅律音はいつもより表情豊かに驚いたを素直に表している。
問題なのは老人のアニマルデータであったガトが、玄武明良の体に入ってからの反応である。
「ちょ、主の体、老体の時より動かしづらい!これは確実に運動不足だのぉ!」
「あ、明良くんの顔でガトさんの口調……」
「主の嫁殿、すまんが手を貸してくれんかのぉ?あいたたた……」
「しかもあの明良くんが朗らか老人並みの笑顔で自分に優しい!?嬉しいけど悪夢見ている気分だよぉおおおお!」
猪山早紀が長い付き合いの分、ガトが入ったことによる玄武明良の表情筋や言葉の変化についていけず戸惑っていた。
葛西神楽は仁寅律音、中身はシラハ、に苦笑ながら鮮やかな表情を向けられて、感涙していた。
籠鳥那岐は、中身はシュモン、が目の周囲に集まっている筋肉の使い方に違和感を感じているらしく、指先で揉んでいる。
「はい、問題ありません。しかしというか、やはりあの三人が電脳世界に入ったのですね」
<本当にねぇ。取り込まれないといいけど、っと!はい、分身一体作ったよ、ビリビリくんはクラカの意識データを繋げて!>
「任せろ!いくぞ、クラカ!」
「はい。皆さん、私と雷冠さんが必ず健斗さんを電脳世界の方に移動させます!他の作戦を進行してください!」
そう言い残してクラカは体中に走る電気に身を任せて、意識をネットの中にあるアラリスの分身にインストールする。
インストールが完了した時点で、分身の姿はクラカとなり、最強ウイルスAliceの力を自在に扱えるようになっていた。
クラカの意識に豊穣雷冠が話しかける。あくまでクラカの意識はコントローラーで、豊穣雷冠が接続。接続が切れないように最小の動きで力を節約しなくてはいけない。
<俺様にはまだ余力がある。だが無駄遣いはできない、どうするつもりだ?>
<まずどういう仕組みの世界なのか調べます。その間に健斗さんがなにかしらのアクションを起こした場合、すぐ突撃予定です>
<つまり行き当たりばったりと>
<そういうのお嫌いですか?>
<いいや、大好物だ>
豊穣雷冠が笑う気配を感じつつ、クラカは竜宮健斗が閉じ込められた世界に向かう。
親しい者達の悲劇で終わり続ける一日の世界へ。
別の場所では竜宮健斗達の身に起きたことを知らない魔法使いの弟子達が、侵入した地下一階部分を捜索していた。
地下一階と言っても、最下層の階であり、どれだけ深い構造か知り得ないので、あくまで一階と呼称しているだけで実際は地下三階である。
神崎伊予は迷わずに指先で行く道を指示しており、最短距離でマーリンの体が保管されている場所へと向かっている。
あらゆる未来を予見する能力を持っているからこそできる芸当であり、こればかりは先読みできる錦山善彦と百%の未来を写真にする皆川万結では真似できない。
しかしマーリンはジョージ・ブルース側にとっても重要なファクターであり、進路を邪魔するための多彩な仕掛けを施している。
例えば電流が流れる床、無数の槍が落ちてくる天井、狼型ロボットの巣と呼ぶに相応しい大部屋、怪音波によって脳を破壊するスピーカー。
その全てを難なく走り抜けていくのが魔法使いの弟子達である。彼らが通った後は破壊の痕跡によって、その荒々しさを物語っている。
電流が流れる床は氷の膜を張られ、槍が落ちてくる天井は謎の粘液生物が張りつき開閉できず、スピーカーは外からの大音量によって自壊している。
極めつけは狼型ロボットの部屋であり、謎の蜥蜴生物が溶けたロボット達を食しており、さらには多くのロボットは音響を捉える機械部分が盛大に破壊されていた。
熱を操る氷川露木、描いた物を具現化する彩筆晶子、音に関する全てを掌握した音波千紘。
全てはこの三人による止まることのない行進。指揮官はあらゆる可能性を目に映す神崎伊予という少女。
壁が行方末を見据えることを邪魔するなら、それすらも透明にする力を持つ駿河瑛太も諜報として忘れてはいけない。
怪しい部屋があれば扉を透明にして、中の様子をさらけ出す。どの道を行くべきかは全て見通している。
この五人を止めるために数倍の子供達が四苦八苦したのは記憶に新しい。それだけの力を保有しておきながら、五人は不安で押し潰されそうだった。
予想では朝まで続くかもしれないと告げられている。能力も無制限ではない、限界に到達すると脳が痛み始め動けなくなる。
だからこそ五人は急いでいた。一足でも早く、自分達に最初に手を伸ばしてくれた魔法使いを見つけて助けだす。
魔法使いと言うが、彼自身はただのアンロボットであり、能力も特別な機能も持っていない。少しだけ出生が変わっているくらいだ。
それでも帰る場所を失くした子供達を集め、弟子として育ててくれた。自己利益のためとはいえ、生きてもいい道を教えてくれた。
まるで先生のようだった。最初に彼と出会った彩筆晶子にとって、恩師であることは変わらない。
間違っても青い血の都合で利用していい存在ではない。これが弟子達による最後の結託だと知っているからこそ、必ず助けだす。
五人はもう別れ道の前に立っている。幸せな道ばかりではないが、それでも自身で決めた道を進む。
「次、壁に隠された階段!」
「瑛太、透明にして敵がいるかどうか確認しろ!」
神崎伊予の指示をいち早く脳で感じ取った音波千紘が、駿河瑛太に呼びかける。
音波千紘は耳が聞こえない。能力のおかげで感じ取ることはできるが、酷使すれば音のない世界に放り出される。
しかし能力がある限り音を察知するのも彼が一番早い。壁に触って上から反響する極小の物音を捉えて分析する。
地下三階、一番地上に近い階でロボットの排気音が聞こえた。狼型のではなく、人の呼吸音に似せたものだ。
細かく特定するところまではいかなかったが、目指すべき階層がわかればそこへ進むだけである。
駿河瑛太は階段を遮る壁の向こうが見えるよう、透明にして様子を確認する。
階段は二階に続くだけの物であり、その段差に狼型ロボットが五体ほど待ち伏せしている。
それで臆する五人ではなく、彩筆晶子が手にしていたスケッチブックから一枚の絵を取り出す。
サイや象が鮮明に生き生きと描かれた絵は、瞬間的に具現化して階段を塞いでいた壁を大型の動物達が破砕していく。
動物達は壁を壊した後そのまま狼型ロボットに襲い掛かろうとしたが、その胴体を噛まれると同時に紙へと姿を変える。
彩筆晶子の能力で具現化された物の耐久力は注ぎ込まれた時間や枚数など、彼女の意思と技術に左右される。
一枚の紙に鉛筆でスケッチしただけの絵では、攻撃されるだけで崩れてしまう。散り散りになった紙吹雪が狼型ロボットの周囲を舞う。
紙吹雪と狼型ロボット全てを燃やす熱が氷川露木の手から溢れ出る。溶けた金属が階段の段差を溶かしていく。
しかし溶けた金属は再度氷川露木が手を触れれば凍りついてしまう。熱を操る、とは高温低温全てを扱うことなのだ。
溶けた金属が仲間に触れないように配慮しながら、氷川露木は突撃を続ける。狼型ロボットの動作にも追いつける身体能力は目を見張るものがあった。
かつて闇社会に通用するように浚われて研究体にされた氷川露木は、能力だけでなく体術なども仕込まれた。
与えられた力で火鼠小僧と呼ばれるほど恐れられ、今もその驚異的な猛威を振るっている。
歯を見せて笑う氷川露木は不安定な精神を持っている。死を感じる場所でしか彼は生を感じられない。
今にも狼型ロボットが喉元を食い千切りそうな状況こそ、生きていると実感する。
むしろ足りないほどだと言わんばかりに、高笑いして通じないとわかっていてもロボット達を挑発する。
「おらおらぁっ!!どうしたぁっ?テメーらより豊穣雷冠の方が俺を楽しませたぜぇっ!?殺気も出せないんだ、ロボットらしく無機質な残虐性を見せろよぉ!」
「挑発するなしぃいいい!!先生になにかあったらワッチが露木を倒す!」
「……いいな、それ」
「真に受けるなぁっ!って伊予ちゃん大丈夫?」
五人の中でも一番体力のない神崎伊予は階段の一番下で息を整えていた。その傍には音波千紘。
進むべき道を指示するのは彼女の役割だ。無駄のない安全な道を行くには予知する力不可欠である。
彩筆晶子が乗り物の絵を具現化しようとしたが、神崎伊予は震える手で制止する。その目は上を見上げて、諦めの悪い輝きを宿している。
「だ、い、じょうぶ。私は自分の足で先生を迎えに行く」
「それが予知で一番いい未来に繋がるからか?」
「ううん。私がそうしたいの。先生のためなら、私はなんでもできるって、教えてあげたいの」
汗を拭きとりながら神崎伊予は笑う。マーリンにはずっとあらゆることを教わってきた。
今度は逆に教えに行く。それが弟子である神崎伊予が、先生への恩返しだと信じている。
予知に左右されない小さな意地のような物だが、誰も反対する者はいない。
「そんじゃあ容赦なく進むぜ。ちゃんとついて来いよ!」
「ど、どひゃんとこーい!」
「いざとなったら瑛太、お前が背負え」
「ぼ、僕ぅっ!?」
意気揚々と階段を上がっていく魔法使いの弟子達。その中で音波千紘は迫る頭痛を感じていた。
一番アタッカーとなる彩筆晶子と氷川露木を温存していたため、前半奮闘した彼の限界が近づいていた。
それを感じさせないように滲む汗を笑顔で誤魔化して、弟子仲間と一緒に足並みを揃えて進む。
豊穣雷冠とクラカが竜宮健斗を助けようと集中しており、指令室にあるパソコンの前で立ち尽くしたまま動かない。
それを見守る役として求道哲也と地底人のキッキが申し出る。キッキのドリル一つあれば、狼型ロボットなど敵ではない。
他にも解決するべき問題がある。それを優先するために子供達は病院地下を駆け巡らなくてはいけない。
エリアごとに別れては三つ子が在住している南エリアに負担がかかるため、三人以上の編成として行動することになる。
南の三つ子には柊、東の三人組に楓がつくことでバランスを保とうとするが、それでも戦力不足は否めない。
相川聡史が渋い顔をしつつ扉を開けて外に出た瞬間、大口を開けて狼型ロボットが無防備な彼の頭に噛みつこうとした。
「油断大敵の死亡フラグからの生還フラグはおてのものですし☆というわけでゴー!」
<はんにゃばるぅうううううう>
飛びかかる体勢で空中にいた狼型ロボットの尻部分に相当する場所に何かがぶつかる。
透明なそれは床と天井を柔らかく弾み、相川聡史が見えた三日月のような形の口に覚えがあり、青い顔で叫ぶ。
「チェシャ猫!?というか今の独特で腹立つ言い方は……うおっ!!?」
相川聡史の鼻先を掠めた銃弾に今度は凜道都子が絶句する。嫌でも嗅ぎ慣れた硝煙の匂いが漂う。
銃弾は起き上がろうとした狼型ロボットに数発撃ち込まれた。両手で器用に本物の銃を回すスーツを着た金髪の美少女。
本来ここにはいてはいけない存在が、力不足の子供達の元へ駆けつけた。だが全く安心できない救援である。
「ふっふふのふー!私は早くダーリンをお迎えしたいのですし、お手伝いは当然なのですし、ありがたく思えやがれなのでーすし!」
「アントニオ・セレナぁああああ!?誰だ?こいつを呼んだのは!?」
「わ、私じゃないですぅうううう!」
相川聡史の激昂した様子と関連性から鑑みて、凜道都子はいち早く否定する。
キッキもチェシャ猫が来ていることに驚きつつも急いで否定する。ただでさえ緊張感あふれる状況が一気に堕落していく。
そこへ紅茶を零した帽子屋がステッキを振り回し、その先端に空のティーカップを曲芸のように回しながら現れることでさらに混乱が広がる。
<華麗に参上☆トチ狂ったパーティーのエスコートはお任せください。ぜひ盛り上げて魅せますよぉ!!ぶっは!>
「あ、あかん……ようわからんけど、なんかオワタ感半端ない」
「なんでこいつらを呼んじまったのか!?ただでさえまとめ切れてないんだぞ、色々と!」
混迷した状況に対して空気を読んで襲わない、という機能は狼型ロボットにはプログラムされていない。
今も子供達に向かって襲い掛かってくるが、アントニオ・セレナは帽子屋からバズーカ砲を受け取って、一瞬の迷いなく狼型ロボットへと撃つ。
轟音が響き、武器が発する大音量に慣れていない子供達の耳がいくつか麻痺する。凜道都子は極道という家の事情から、他よりも回復が早かった。
「あ、あの……銃刀法違反とか、金属探知機とか、どうやって持ち込んだか詳しく」
「地底遊園地素晴らしいでーす!ロボット用の部品でいくらでも作れちゃいまーすね。っつーことでセーラー服装備ではないですが、気持ちいいと一言感想をお付けするですし」
「そりゃあ機関銃の間違いだろうが。というかキッキ、お前……」
「僕は本当になにも知らないんだけど!?そりゃあロボットの予備パーツ合わせればなんでも作れるけど、ちょっとまさか!?」
電車に置いて来た地底遊園地のロボット達を思い出す。銃を作るには彼らのパーツが必要である。
つまり目の前にいる混乱の元凶を連れてきたのは、地底遊園地のロボット達である。おそらく途中で子供達の戦力増強と気を使ってくれたのだろう。
しかし明らかに士気が下がっており、何人かは若干怯えた目を見せている。そんな空気も解せず、帽子屋はアントニオ・セレナと声を合わせて高らかに告げる。
<さあ!!私達の息が合ったコンビネーションを見せましょう!って私息してないんですけどね、ぶっははははははははっはは!!>
「排気口から溢れる紅茶臭い突風も気にせず、愛しのダーリンのために頑張るっちゃ!!イエイ☆」
相川聡史はそれ以上のツッコミを諦めた。それはつまり全員なにも言えなくなったと同義であった。