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母のことを思ふと

作者: DJ克明

たとえば、私の母はこんな人間である。


 自分の母はある種、かなり特別だった。ある日、私は友達とゲームセンターで遊んでいたら、そこに母がずかずかと入り込んできて、私の頬をバシンと平手打ちをして、腕を引きずって、私を退出させた。私もまさか友達の前でそんなことをするとは思ってもみなかったので、その時のことは特に強烈に記憶に残っている。

 翌日、他の友達が「お前のお母さん、めっちゃ怖いなあ」と言ってきたので、もう噂になってるのかと思った。そしたら、案の定、ゲーセンに連れていた友人が「ホント怖いんだよ、みんな? こいつのおばちゃん」とみんなに嫌がらせのように演説をしていたので、その友人にはがっかりさせられた。しかし、その友達が言ったことによって、母のことが嫌いになったりはしなかった。

 嫌いになるというよりも、私は母のことが誇らしげだった。友人たちが、自分の母親の何が悪いのか、それが分からなかった。しかし、友人の母親たちは自分の母親とは全然違って、表面上でも優しくしているのだなということは認識していた。でも、本当に自分は母には感謝でいっぱいだったし、信頼感で一杯だったのである。




 とにかく、私の母は怒った。それは私と私の弟からしたら、「愛なのかな」ぐらいには思うことができたが、赤の他人からしたら、それは「虐待」に見えたかもしれない。例えば、勉強をしないで、本を読んでいると、「本ばかり読むな!学校の勉強をしろ」と言うし、学校の勉強をしていると、「学校の勉強ばかりするな。外で遊んで来い!」と言う。そして、外で友達と遊ぶと、「勉強をしろ!」とバット(空バット)を持って追いかけて来る。最後に勉強をしていると、「本を読め」と空バットできつく叩いた。私が部屋の隅で泣いていると、「お前が好きだから怒るんだ、こっちへおいで」と言って優しくされた。まあ、この日のことはあまりにも理不尽だったために、「この日のことは一生、自分は根に持つに違いない」と確信して、学生時代中はやはり、そのことは根に持って、心の中で憤っていたが、結局はその後はその事も別段、どうでもいい感じになった。しかし、そういったできごとは、わりに日常茶飯事だったのである。とにかく、母はそんなふうな感じで、赤の他人から見たら、虐待チックであったが、当の息子たちは全然、そんなふうには感じないし、それは実感的、確信に満ちていた。でも、虐待であり、しかし、それは虐待ではないという、それが自分の母親の愛情表現だったし、また教育だった。




 もちろん、母は私が大きくなると、途端に表面的にも優しくなった。あまり、怒らなくなったのである。そんなこんなで、今ではとても母には感謝している。母の少年時代のびっくりするような教育も含めて、本当にありがたく感じている。誰もが絶対に母親というものを持っていて、たいてい、飯を食わせてもらい、育ててもらっている。そして、その母親は他人からしたらただの「おばちゃん」だが、本人からしたら、他の友人の「おばちゃん」とは違う、特別な「お母さん」なのだ。当たり前だが。そして、最後に「親孝行とはなんだろう?」ということについて、何か言えることがあるとすれば、よく、母の日に花を贈る人がいるけど、それは本当に親孝行と言えるだろうか。花を贈って喜ぶ母の顔を見たいというのが、もう恩着せがましい。そんなのは昔のうちの母親の教育だったら、一発で引っぱたかれるだろう。「こんなもの、なんでくれたんや!」と。というわけで、うちの母には親孝行というものは存在しない。そして、それが僕たち息子からの最高の贈り物なんだ。それが私の特別な母親への愛だ。以上。おしまい。

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