夏
夏っぽいものに挑戦してみました。今回はちょっと長いです。
むかし、むかし、あるところに……まぁ、そこまでむかしではないんだけども昔ばなしをしたいと思うよ。僕は、病弱で病院と自宅の往復ぐらいしか外出してなかった頃。……ん?いや、今も差ほど変わらないじゃないかって?今は君たちと出かけたりしているじゃないか。いや……うん……あ、でも……。もう話聞く気ないなら話さないよ……。やっと、黙ってくれたね……。じゃあ、話すよ。
あれは、気が遠くなるような青い空と真っ白な雲が浮かぶ夏の日だった。その日はいつもより体調がよくて家の中なら動き回れるぐらいだったんだ。昔、僕が住んで居た家は今の家とは別の家でとても空気のいい場所にあった。そこそこ大きな家でお手伝いさん達もいた。
その日は普段はお手伝いさんに取ってきてもらう父の本置き場に自分で行ってみようと意気揚々と自室を出たのはいいのだがすっかり迷子になってしまった。
「すっかり迷ってみたいだ……。無駄に広いのも困ったものだな……。」
ひとしきり家の中は歩ききったとは思うが、誰一人とお手伝いさん達とすれ違いも見かけもしなかった。
「さて、どうしたものか。自分の部屋すらわからない……。」
情けないものだとつい床に座り込んでしまった。床に案内図でもつけるかなどを考えていた。
「結衣兎様?ここで何をなさっていらっしゃるのですか?お体の具合が優れないのですか?」
「いや、体調はいい。父の本置き場に行こうと思ったんだがな……。迷ってしまって困ってたところだ。すまないが、案内してもらえるか?」
声の主を見ずに僕は頼みごとをしてから顔を上げた。そこには自分と歳が変わらないか年下に見えるような女の子がいた。
「君、うちのお手伝いなのか?ずいぶん若く見えるけども。」
ついえらそうな口調になってしまってたが、彼女はにこにこしながら説明してくれた。いつもいるお手伝いさんの娘であること。歳は僕より年上だということ。彼女も迷子だということ。
「結衣兎様、結衣兎様は普段は何をなさってるんですか?」
「普段は寝てるか、本を読むか……くらいだな。君の方が年上なんだからそんなに改まった話し方をしなくてもいいと思うが。様付けで呼ばれるのも嬉しいものではないし。」
僕は様付けで呼ばれるのが嫌いだった。親の姿を自分に求められている気がして。
「じゃあ……、結衣兎くん?」
「……なに。」
くん付けで呼ばれたのはかなり久しぶりでかなり照れくさかった。僕と彼女は好きな小説家の話をしたり、あのトリックはすごかったとかそんな話をずっとしながら家の中を歩いた。
「ん?ここ僕の部屋だ。やっと戻ってきた。」
「結衣兎くん、お父様の本置き場の場所聞いてくるから部屋で待っててくれる?」
「うん、わかった。僕ちょっと疲れたから寝ちゃってるかもしれないけどわかったら起こして。」
「わかった。じゃあいってくるね。」
これが彼女と話した最後だった。
「……。……ん……。ずいぶん寝ちゃった……。まだ帰ってきてないのかな?」
僕は自分の部屋のドアを開けていつものお手伝いさんを見つけて声をかけた。
「百合子さん……。」
「結衣兎様!!どこにいってらしゃったのですか!!奥方様も旦那様も心配なさってますよ!!怪我はしてないですか?」
「え?僕部屋で寝てたんだけど……。あ、娘さんは?一緒にお父様の本置き場に行く約束したんだけど。」
お手伝いさんの百合子さんは不思議そうな、いや一瞬気持ち悪いものを見たような顔をした。
「結衣兎様、
私に娘など居りませんよ。」