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ふりむけば、鬼嫁。  作者: 江本マシメサ
第一話「鬼に金棒」
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『う~さ~ぎ~お~いしい♪丸~焼~きい~♪』

「うう…」


 なんだか聞き覚えのある歌で総一郎は起こされる。視界の端に白い虎が居て好奇心旺盛な瞳を輝かせていた。


「おはよう、山田くん」

『おはよ~総ちゃん!』


 虎の美雪よしゆきは今日も元気良く総一郎を起こしにやって来た。


『大丈夫?』

「え?」

『何だかうなされてたよ』

「あ~…」


 ここに来てから子供の頃の夢をよく見るようになった。今朝うなされていたのもそれが原因だろう。


『あのね、総ちゃん女の子の名前呼んでたの』

「……」

『もといたの世界に彼女がいたの~? 何回も<みゆき、みゆき>って言ってたよ?』

「……」

『気になるな~』

「残念ながら彼女じゃないんだ」

 

 美雪の早く話せという圧力に負け、今朝見た夢の話を語り始めた。


*********


 総一郎が中学一年生の時、道端で箱に入った一匹の子猫を拾った事があった。祖母に飼ってもいいかとお伺いを立てにいったが、鶏を飼っているから無理だと言い、捨てて来いと叱咤され泣く泣く捨ててあった場所へと戻しに行く事になった。しかしみぃみぃと力なく鳴き続ける子猫を見捨てる事が出来ずに祖母が寄り付かない古い納屋でこっそり飼うことに決める。

 猫の毛並みは真っ白で美しく、雪のようだったので美雪みゆきと名づけ可愛がった。子猫の時は牛乳を拝借し、大人になってからは朝ごはんに食べた焼き魚の骨とご飯を持ち出して与えた。

 美雪は総一郎にとって学校と家の手伝いという繰り返す生活の癒しだった。名を呼べばにゃーと鳴き撫でれば暖かく柔らかい、抱きしめると心が安らぐのを感じていた。


 しかしその穏やかな日々も一年で終息してしまう。


 総一郎は帰宅してすぐに祖母に呼び出され、お前の猫は保健所に連れて行ったと言われ頭の中が真っ白になる。

 猫は昼間の誰も居ない時間に総一郎の家の庭に忍び込み、鍵を掛け忘れた鶏小屋の中の鶏を2羽殺してしまったという。一年前に孫が飼いたいと連れてきた猫だと記憶していた彼の祖母はその猫を捕まえそのまま処分をした。

 鶏を襲い食べる事を覚えた猫を放っておく訳にはいかなかった、周りには養鶏場がいくつも存在し納屋を壊し居場所を無くしても他所へ行き迷惑をかける事は目に見えていたからだ。

 そして総一郎へ与えられた罰は鶏の世話だった。今までも掃除や餌やりなどやっていたがそれに加え、糞を肥料の素として回収したり餌になる雑草を祖母の畑に刈りに行ったりといった細かい仕事が沢山あった。

 中でも一番嫌だったのが鶏の解体だ、飼育して2年半たった鶏は鶏肉として捌き食卓に並ぶ。月に一度しなければいけない作業はいつまでも慣れる事は無く総一郎を苦しめた。


「…という夢でした」

『女の子の夢じゃなかったんだね』

「ごめんね、…白い猫で美しい雪って書いてみゆき、我ながらませた子供だったよ」

『え?僕の名前も美しい雪って書いてよしゆきなんだけど!』

「そうだったの?」

『うわ!偶然だ、僕今日から総ちゃんの猫になろっと』


 そう言うと心優しき虎は『可愛がってね』と言い総一郎の肩に頬擦りをしながら目を細めた。


*********


 起床後は作務衣のような服に着替え、朝はまだ寒いので半纏を羽織り外にある井戸で顔を洗う。

 この世界に歯ブラシは無かったが似たような物は存在する。始めに薄荷ミントの様な葉っぱを噛み、その後藁を箒みたいに束ねブラシに似せた形状の物でごしごしと磨くという現代人には些か辛い技術で、総一郎は毎回口の中を切りなかなかすっきりしたという気分にさせてはくれなかった。

 朝食までにはまだ時間がある様で部屋で美雪と遊び時間を潰す。そして何かを閃いた虎は悪戯っぽい表情を浮かべ総一郎にとある提案をした。


『総ちゃんにはラムウルを起こす名誉をあげよう』

「…大丈夫なの?」

『大丈夫! 遠くから見守っているから』


 見守っているだけでは大丈夫だとは言えない、不安に思いつつも美雪に背中を押されるがままにラムウルの部屋の前へと向かって行った。 


『? どうしたの』


 部屋の前でしゃがみ込み、なにやら思案を始めるラムウルの婿に声を掛けるが眉を顰め身動ぎもしない。


「前に名前を呼ぶなと言われていて、何て呼べばいいのか」

『ラムちゃんでいいんだよ~』

「嫌がってるのを呼ぶのもなぁ…」

『大丈夫だよ、僕も遠くから見守っているし!』


 だから見守るだけでは意味がないと突っ込もうとした時、目の前の黒い襖が勢い良く開かれた。


「ーーお前らッ!! の部屋の前で何ごちゃごちゃいってるんだ!!」


 出てきたのは部屋の主、ラムウルだった。まだはっきりと覚醒していないのか半目状態で短い髪は跳ね、いつもの溢れんばかりの覇気も無い。


「おはようございます、ラムウルさん」

「…………ふん!」

『ラムウル<おはよう>って言われたら<おはよう>って返すんだよ』


 ラムウルは美雪の役に立つ生活の知識を無視して大股で総一郎の横を通り過ぎ、食堂へと向かって行った。

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