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ふりむけば、鬼嫁。  作者: 江本マシメサ
第二話「子故の闇」
26/44

二十六

 翌日、日の出と共に美雪よしゆきはアメリを引きつれ捜索に出かけた。山道は濃い血の匂いに包まれており、崖下からそれが立ち込めているのを確認する。まずは美雪が岩の斜面を下り様子を見に行った所、そこには血まみれの総一郎とラムウルの姿があった。


『な…!』


 辺り一面に広がる惨況に美雪は言葉を失う。恐る恐るうつ伏せになって倒れるラムウルに近づいてみれば、しっかりとした鼓動が刻まれており吐息をつく。そして問題の総一郎だったが、何故かこの世界に来た時に着ていた様な洋装に身を包んでいた。服がボロボロになっているだけで、外傷は無い様に見えたがまだ安心は出来ない。勇気を振り絞り、顔を覗き込めばすうすうと規則的な寝息をたてて眠っていた。


『な、なんだ。二人共生きて…、ーー良かっ、たあ』


 しかしいくら声を掛けても二人は目を覚まさなかった。仕方が無いので背中に背負って帰るしかない。そう思い崖の上で待機をするアメリに助けを求めた。


『ア~メリ~!ちょっと下に来れる?助けて欲しいんだけど~』


 その声を聞きつけたアメリは妖狐の姿に戻った。崖の上から飛び降り、くるくると回転しながら綺麗に岩場に着地をする。


『おお、10・0!! …じゃなくて、総ちゃんとラムウルを運びたいんだけど背中に乗せてもらえるかな?』

『ーー!!』


 崖下の悲惨な状態にアメリは瞠目をする。


『承知しました』


 呆然としていたのも一時で、すぐさま村に住むきこりの姿へと変化をして、ラムウルを持ち上げ美雪の背中に乗せた。どこに持っていたのか紐を取り出してずり落ちないように固定をする。


「篠宮様は私が連れて行きます」

『あ、ありがと~助かるう』


 屈強な男に変化へんげをしていたアメリは難なく総一郎の体を背負い上げる。持ち上げた際に掛けていた眼鏡がずれ、そのまま地面へと落としてしまう。


『あ、れ? ……ソウ君、なん…で?』

「ーーソウクン?」

『アメリ、ここに居たのは総ちゃんじゃ……』


 アメリが背負っているのは総一郎では無く、この場所に居る筈もない白い<鬼>だった。


****


 ハクゲイは帰って来た家族を見るなり苦い顔を浮かべた。喜びは一瞬だったとため息をつく。


『二人共目を覚まさないんだよ~』

「とにかく部屋に運ぶんだ、アメリは湯を沸かせ」

「はい」


 アメリはラムウルの血まみれの服を脱がし、湯に浸けた手ぬぐいで体を拭いた後着替えさせ、布団に寝かせる。同じ事を別室に寝かせている総一郎にも施した。


「また訳の分からない事態に巻き込まれおって」

『ハクゲイ、この人は総ちゃんじゃないよ』

「……」


 ハクゲイは眠る白い<鬼>に眼鏡を掛ける。白い髪は黒く染まり、血管が透ける程白かった肌も元の健康的な肌色へと戻っていく。


『この人、ソウ君は二十一年前に僕を拾ってくれた契約者なんだ』

「……」


 美雪はゆっくりと己が知っている話をハクゲイに語り始めた。


 田舎の農村に住むソウという名の<鬼>の少年が、虎と虎の<あやかし>の合いの子を拾ったのは十二歳の冬の事だった。雪に埋もれるようにして親から置き去りにされた白い毛並みの<あやかし>を、三年前に両親を亡くしたソウは他人とは思えずに拾ってしまった事が始まりだったという。

 ソウは両親が亡くなった後祖母の元に引き取られた。父親と祖母は絶縁関係だったらしく会ったのも初めてで、農業を営みながら暮らす慣れない生活と、<人>の差別に苦しみながら毎日を必死に生きた。

 そんな生活を送るうちに少年の心は日に日に病んでいく。そんな折に見つけた癒しが美雪よしゆきと名づけた<あやかし>の存在だった。祖母に飼いたいと言えば駄目だと言われる事は分かっていた為、こっそりと家の裏にある納屋で飼い始める。

 拾った当初衰弱をしていた為契約を結び、自らの力を分け与えながら、一年間穏やかに過ごしてきた。しかし最終的には祖母にばれてしまい、美雪は処分をされてしまう。


『ソウ君のお婆さんは村に滞在していた誠司に僕の処分を頼んだんだ』


 その当時村ではおぞましい姿をした<あやかし>の目撃情報が多発していて、被害は無かったものの、村民は怯えながら暮らしていた。

 その問題を解決する為に訪れ、解決した後も何故か村に滞在し続ける誠司に、ソウの祖母は美雪の処分を任せた。


『まあ、誠司は殺さないでくれて、今ここに居る訳だけどね』


 そうして美雪と誠司の七年のも及ぶ長い旅路が始まり、道行く先々で美雪はソウとの思い出について誠司に語った。


『ソウ君は優しくて、でも孤独で…<あやかし>だからっていつも村の人達から酷い嫌がらせを受けていたんだ』


 美雪は「鬼ヶ島」に初めて来た時<人>と<あやかし>が当たり前に共存し、生活をするさまに驚く事となる。同じ<鬼>であるソウもこの島で暮らせないかと美雪は誠司に話をしていたが、再び村を訪れる事が出来たのは五年後の事だった。

 しかし一年前にソウの祖母が亡くなり<鬼>の少年は村を出て行ったという話を聞いて、二人は落胆をする。


『それから二年後にラムウルに会って、僕もこの「鬼ヶ島」で暮らす様になったんだけど、誠司はソウ君を探す事を続けていたんだ』


 ソウという名前の白い<鬼>の青年という特徴は珍しくもあったが、広い大陸を探し回る事は困難で、結局見つけ出す事は出来なかった。


『ハクゲイ、ソウ君の手首に僕との契約印があるでしょ?』


 ハクゲイは眠りつづける<ソウ>の手首を確かめ息を呑む。


「これは…!」

『誠司が刻んだ<縁>を結ぶ痣だよ。多分だけど僕を媒介にして呼び寄せる様なまじないをかけていたんだ』


 誠司は最終的に強硬手段を使う事となる。ラムウルの元にソウが現れるよう呪いを施したのちに息絶えた。その呪いは相手の都合を無視した勝手なものだったが、もしも問題が生じてもハクゲイが何とか上手く取り繕ってくれるだろうと誠司は信じていた。


「ーーそう、だったのか…。だからお前ははじめからあのように懐いていたんだな」

『ーーまあ、それもあるけどね。でもなんでここに来たのが総ちゃんだったんだろう…そもそも最初から総ちゃんはソウくんで、でも総ちゃんには異世界の記憶があるし、ああ~もう訳が分からない!』

「落ち着け。まずはこいつから話を聞かない事には始まらないさ」

『そ~だけど~~…』


 それから二日後、先に目を覚ましたのは総一郎だった。


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