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ふりむけば、鬼嫁。  作者: 江本マシメサ
第一話「鬼に金棒」
14/44

十四

「お店は満席で皆忙しく働きまわっているのに、奥から出て来た店主の妹は手伝いもせずに早くごはんを用意して! と言いにきて」

『ふむふむ』

「幸ら…店の大将が文句を言おうものなら<しなくてもいい遺産を放棄してやった>って言うんだ」

『ひど~い、鬼がいるよ~!』

「…えっ、鬼?!」


 何者かの鬼がいる発言で総一郎は目を覚ます。何故か白い虎と一緒に掛け布団を被り横になっていた。


「あれ、何で山田君と一緒に寝てるんだ?」

『あれって…<わた・おに>の話は長くて体も冷えるから布団を被りなよっていったのは総ちゃんじゃない~?』

「そんなこと言ったんだ…」


 どうやら寝ぼけながら毎日とは言わないが、様々な話を美雪よしゆきに聞かせているらしく、聞かされる虎自身もそれを興味深げに耳を傾け楽しんでいるという。隣にころがる白い虎は暖かく毛皮も滑らかで上等な湯たんぽだったが、そろそろ起きて身支度をしなければ朝食の時間に間に合わないだろう。気合を入れて起き上がり、着替えを済ませると外にある井戸に向かった。

 季節は秋になり村の姿はゆるやかに変わる。周囲を囲む豊かな森の緑葉は紅く鮮やかに染まり、吹き抜ける風はツンとした冷たさを含む。

 今日はこの前種まきをした白菜シロナの苗を植える作業と、乾燥させる為に放置していた玉蜀黍トウモロコシの収穫をする為ハクゲイと二人村まで下りて来た。

 ちなみにラムウルはアメリと共に家の掃除を行っている。ハクゲイ曰く本人には伝えていないが、花嫁修業為に家事を覚えさせているのだと言う。

 先に白菜シロナの苗を畑に植える作業から行う。はじめに小さく掘った穴に水をたっぷり注ぎ、水が捌けたら小さな鉢で種から育てた白菜の苗を取り出し植える。

 三十ほどの苗を植え終えると今度は害虫が近寄らないように半円状に曲げた梁をいくつか苗を囲む様に土の中に差し込み、寒冷紗かんれいしゃと呼ばれる粗い網目のついた布を梁の上に被せ小さなビニールハウスみたいな形状の物を作る。これは害虫を寄せ付けない為の対策であったが、寒さや風からも苗を守ってくれる。

 全ての作業が終わる頃には日が高い位置に上がっていた。

 太陽が照り付けてもお弁当が傷む事が無いので、昼食は朝アメリから手渡されていた。畑に出た時の話題といえばもっぱら野菜の知識だった。ハクゲイの農業の知識に総一郎はいつも舌を巻いていた。

 はじめのうちは聞いた内容を家に帰ってから私物である手帳に書き写していたが、聞いた内容を忘れる事がありもう一度聞き直す事が多々あった。それでは申し訳ないと思い手帳を持参しご飯を食べ終えた後メモをするように努めている。


白菜シロナは苗植えからだいたい七十日程で収穫できる」


 ハクゲイが語る話に相槌を打ちながらメモを取る。いずれは畑仕事は自分が主立ってしなければいけないと総一郎は考えていた。その思惑を知ってか知らずかハクゲイは丁寧に自分が知りうる知識を語る。

 午後からは玉蜀黍トウモロコシの収穫だ。

 植えてある量は多かったが、枯らしていた為根っこからでも取り易く抜き取りは簡単な作業だった。

 

「こんな細長い玉蜀黍初めて見ました」

「うちでも作ったのは初めてだよ。ったくこんな珍しい種をあの馬鹿娘はどこから見つけて来たのか」

「珍しいんですね、そのよく使う南西の大陸では沢山生産されているのでしょうか?」

「いいや、あの大陸は乾いていて農作物はあまり育たないらしい。かわりに畜産が盛んだと聞くな」

「へえ…」

「この<爆裂種>と呼ばれる玉蜀黍は北の大陸が主に作っていると、ラムウルが買った時聞いたと言っていたな。その地域では粉にせずに別の食べ方をするらしいが調理の仕方までは知らん」

「<爆裂種>…?」


 その時ふと一ヶ月ほど前に美雪の言っていた言葉が蘇る。


『お菓子もぽぽぽぽぽ~んと一気に作れたらいいのにね』


 収穫した玉蜀黍の皮を剥ぎ粒を確認する。かちかちに乾燥したそれはあのお菓子に入っているあるものに似ていた。


(ー!ポップコーンの中に入っている破裂してない種に似てる)


 <爆裂種>という名前と見た目、北の大陸の別の食べ方があるという話からポップコーンを作る種である可能性があった。


「ハクゲイさん、この玉蜀黍でしてみたい事があるんです。少し頂いても?」

「ああ、いくらでも持って行け。どうせ粉にしても高くは売れんからな」

「ありがとうございます」


 収穫した玉蜀黍を納屋に入れ、三本だけ家に持ち帰った。

 総一郎は畑仕事から帰るなり駄目もとでいらない鍋は無いかとアメリに訊ねた所、焦げが外側こびりついて外観が汚くなった鍋を貰う。その何かしようとしている様子を美雪は目ざとく発見し興味津々に覗き込んでいた。ついでに菜種油も貰い、庭で炭の入った火鉢の中に美雪が火を吐き点火させる。そして温まった鍋に油と玉蜀黍の種を入れ蓋を被せた。

 しかし待てども待てども破裂音は聞こえず、焦げ臭い香りがして蓋を開ければ、鍋にこびり付き黒くなった元玉蜀黍の種があった。


「やっぱりこれはポップコーンの種では無かったのかなあ」

『ぽっぷこーん?』

「そう。本当なら熱して三分位で破裂するんだけど」

『破裂!?なんて恐ろしい食べ物なんだ…』

「おいしいよ?」

『ううん…』


 未知の食べ物の話に美雪は身体を震わせた。そんな様子を笑いつつも二本目の玉蜀黍の皮を剥ぎ形状をもう一度確認をする。しかし見た目はポップコーンの袋の底にある種にとても良く似ていた。


「ポップコーン、縁日で売られてたな…都会に出てからお祭りでポップコーン屋が一軒も無くて驚いたよ」

『お祭りで売ってたんだ』

「…うちの地域だけね」


 子供の頃は種も食べれるのではと口にしてみた事があったが、固くて食べれる代物ではなく破裂していないポップコーンの種は結局捨てるしか道は無かった。


「あ!」

『どうしたの?』


 総一郎は剥いた玉蜀黍の種を取り口にするが、簡単に歯で噛み切れた。


「これはまだ乾燥が足りないんだ」

『乾燥したらぽぽぽぽぽ~んってなるの?』

「多分ね」


 翌日、納屋から追加で玉蜀黍を持ってきて皮を剥ぎ、軒下に並べて吊るした。二週間ほど時間をかけてから再びポップコーン作りに挑戦をする。火鉢の上の鍋を回して種が焦げ付かない様にしながら破裂を待つ。二分後、ぽんぽんという破裂音が聞こえ鍋に振動が伝わった。


「成功した!」

『ヒッ! ーーこ、怖い!』


 美雪は総一郎の後ろに隠れ様子を伺う。五分程熱し続けていくと破裂音は治まり、蓋を開けば鍋いっぱいのポップコーンが出来上がっていた。


『なにこれすご~い! マホーみたい。これ本当に食べれるの?何味?』

「味は何も無いよ。塩をつけて食べるんだ」


 鍋に塩を軽く振りかけ粗熱が取れるまで待ち、手のひらに二、三粒のせ美雪に差し出した。


『あ、熱い』

「ごめんまだ熱かったみたいだね」

『猫舌だから…でもこれおいしい!』

「そう?」


 そう言って鍋から同じように二、三粒掴むと口に放りこんだ。


「うん、普通のポップコーン」

『でもこれ子供達に配るの?』

「これについてはハクゲイさんと話し合って村の商店に置いて貰う事にしたんだ」


 ポップコーンが成功した暁には作り方を書いた紙を子供達の家庭に配り、各自で作って貰う様な考えを示したが破裂させて作るという工程が子供のいる家庭では危険なのでは、というハクゲイの意見もあって暇な商店で調理・販売を行うよう計画を立てていた。


『さすがハクゲイ…成功するかも分からないお菓子にここまで計画を練れるなんて』

「でも子供の為にタダ同然の値段で売るらしいよ」

『そうなんだ、意外~!』


 後日ハクゲイは孫の婿を引き連れポップコーンを売り出す商店へ赴いた。そして総一郎に持たせていた謎のかめを商店の主人の前に置き、「これも売ってくれ」と言う。

 瓶の中身は水飴でどうやらアメリの手作りらしい。


「子供はこの村で金を使う機会がないから金持ちだ。存分に稼がせてもらうぞ」


 商店の主人にそう言い捨てると何も買わずに店から出て行く。総一郎も「すみません」と頭を下げながら後に続いた。 


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