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ふりむけば、鬼嫁。  作者: 江本マシメサ
第一話「鬼に金棒」
12/44

十二

 朝、日の出前に起床をし市場に出かける準備をする。服装はいつもの作務衣の様なものではなく、小袖の着物をアメリに着付けてもらった。早朝は冷えるので上に着る綿入りの羽織を着て寝呆け眼の鬼嫁を率いて出かける。

 ラムウルも総一郎同様に黄色い小袖の着物を纏い紺色の羽織を纏ってている。赤い髪に黄色い着物という全体的に目に痛い色合いだがとても良く似合っていた。ハクゲイいわく市場で目立つ為の装いらしい。

 そして頭には角を隠すための竹を編んで作った笠を被っており、角さえ見えなければ鬼だと気づかれないものだと鬼婆は語っていた。

 売りにだす品は前日のうちに荷車に積み込み、出かけやすい様村の入り口に置いてある。島の港まで三十分ほどだと説明を受けたが、村に荷車を引く動物は居ないらしく人力で押していかなければいけない。


「ラムウルさん?」

「……」


 先程から大人しいラムウルに声をかけるが反応は薄い。まだはっきりと目が覚めていないのだろう。仕方がないので荷台の隙間に乗るよう勧め、落ちないか確認をした後出発をした。

 舗装された日本の道路とは違い地面は土で、でこぼこしている。先の見えない旅路に不安を感じたが行くしかない、総一郎は腹を括り荷車を引いた。港までは村から続く道をまっすぐ行くだけでラムウルの案内は不要だった。しかしその移動は厳しいもので、何度も土に埋まった石に引っかかったり小さな穴に車輪が引っかかったりと困難な道のりは続く。

 着物というものはこんなにも動きにくいものかと独りため息をつく。全ての慣れない要素が原因で予定よりも港に到着をするのが遅くなってしまった。

 港はこじんまりとした所だったが、とまっている船は立派なもので、顔見知りの村人が「あれは蒸気船だ」と教えてくれた。

先に到着していた村人がぞくぞくと荷を船内に運んでいる。

ラムウルはといえば商品の米袋を抱え器用に座ったまま眠っていた。


「港に着きました、起きてください」

「うる、さい…」

「……」


 すでに太陽は昇っていたが今はまだ早起きのアメリでさえ眠っている時間だ。朝に弱いラムウルには辛いのかもしれない。

 彼女が被る妻折笠を自らの頭に被せ、目を覚まさないラムウルを横抱きにして抱き上げると、船に中に運んでいった。

 船内にいる人達は皆忙しそうで顔見知りも何人か見かけたが、誰に声をかけていいのか迷ってしまう。


「おんや、その赤い頭はお嬢じゃないか?」


 後ろからの声に振り返ると大柄で手ぬぐいを被った男が、荷物を肩に担ぎながらこちらへ歩いて来ている。笠の中の顔を覗きこんで、男は心配そうな表情を浮かべた。


「やっぱり! …お嬢具合でも悪いんで?」

「いいえ、眠っているだけです」

「それならよかった! おお、すまねえ。俺はこの船の船乗りをしているアオザイだ」


 そう言うと荷物を置き手ぬぐいを取り去った。額には二本の角があり髪は青い、四角い輪郭と厳つい顔つきで近寄りがたい雰囲気をかもし出していたが、相好を崩すとその見た目が一気に気安いものへ変わる。

 アオザイ、彼も鬼の一族だという事は一目瞭然だった。


「篠宮総一郎と申します」

「もしかして兄ちゃんが噂のお嬢の旦那か?」

「え?ええ、まあ…はい。そのような、者だと」


 一応ラムウルに意識が無いのを確認してから言う。幸い睡眠は深いようで総一郎の返事やアオザイの大きな声も物ともせずに暴睡している。


「あの、すみません、人が乗る場所はどこにありますか?」

「客室はそこの階段を降りてすぐにある」

「ありがとうございます」

「荷車はいつもの黒い奴か?」

「? はい」


 いつもの黒い台車かは分からなかったが、港まで押してきたのは黒い荷車だった。


「荷物を先に積んどくからな! 出発まであと三十分だ」

「すみません、ありがとうございます」


 アオザイは手ぬぐいを被り直すと再び荷物を肩に担ぎ去っていった。総一郎も時間が無いと思い、教えられた階段を降りて客室に向かう。

 客室、と言っていたが該当する部屋には何も無く、地面に何かの動物の毛皮が敷き詰められているだけだった。しかし眠っているラムウルには好都合だと思い、部屋の端に寝かせる。そして着込んでいた上着をラムウルの体に掛けると荷物を積み込む作業をする為外に出た。

 船は時間通りに出港し、風を切って海原を走っている。天気も良く気持ちの良い船旅になると思っていたが、沖にでると海が時化だし天気も怪しいものに変わる。

 船は大きく揺れ客室の窓からは外を覗き込まなくても海面がちらちらとみえる程で、総一郎は必死に船酔いと戦っていた。

 隣では赤髪の鬼娘が幸せそうに眠っている。寝た方が楽になるのかもしれないが、沢山の乗客で溢れる客室の中で無防備に眠るラムウルを放って眠る事など出来なかった。

 一時間ほどで大陸の港町に到着し、眠るラムウルに本日三度目になる声掛けを行う。さすがにいつも起きている時間になったからかあっさりと目を覚ましたが。


「ここはどこだ!」

「大陸の港町です」

「いつ来た!」

「今さっき到着を…」

「違う、私だ。ここに来るまでの記憶がない…まさかおまえが担いで来たんじゃ」


 何故か睨みつけるラムウルに総一郎はきちんと自分の後を歩いて来たと嘘をつく。あんまりにも怖い顔で見るのでそう言わざるを得なかった。

 客室から甲板へ出ると船乗り達があわただしく動き回り、雑然としている。その中にアオザイの姿をラムウルが発見し、声を掛ける。

 久しぶりの再会だった様で、会話も弾んでいたがゆっくり話をしている暇は無いので早々と話を切り上げていた。

 

「お嬢、ここを発つのは午後の三時です。乗り遅れないよう気をつけてくださいね」

「ああ」


 行きと同じ様に荷下ろしを手伝ってくれたアオザイにお礼を言うと、荷物の載せた荷車を引き二人は市場の会場へと足を運んだ。

 市場の会場はすでに多くの人間でごった返している。しかしここに居るのは全て客ではなく商人だとラムウルは言った。

 圧倒されている総一郎の肩をラムウルは軽く叩き、用意された場所へ行き商品を並べる作業にかかった。


「これをつけろ」


 渡されたのはよく時代劇の商人が腰に巻いている前掛けだった。帯の下に掛け腰の部分に紐を回し結ぶ。

 正方形の台の上には日差し避けの天幕が張られ商品を直射日光から守っていた。並べられた商品はそう多くは無い。夏野菜の時期も過ぎ、納屋と畑の整理も兼ねた商いだった。

 台の上には米、夏野菜数種と総一郎が作ったカルメ焼きが十個程、そして色とりどりの手ぬぐいが並べられていた。


「この手ぬぐいは?」

「婆さんの趣味だよ。こんな派手な手ぬぐい売れやしないのに毎回持って行くんだ」


 そういえばハクゲイは農作業をする際派手な色の手ぬぐいを被って作業をしているのを思い出す。総一郎にも時々派手な手ぬぐいが回ってくることもあったが、たいていは白い手ぬぐいと二枚渡されるため、白いものを頭に被って派手なものは汗拭きに使っていた。その派手な手ぬぐいは売れ筋ではないので端に並べ、準備は終わりあとは店番をするばかりだった。

 市場の開始を告げる鐘がなると客が一気に押し寄せるように雪崩れこんで来た。この早朝から開催される市場は月に一度しかなく、様々な地域のいい品が安価で手に入る事もあって開催する度に賑いを見せるという。

 持って来た野菜や米も飛ぶように売れ、かなりの収入になっただろう事は見て取れた。

 二時間も経てばほとんどの商品は売れ、残っているのはカルメ焼きとハクゲイの手ぬぐい、米が二袋ほどで、商品を置く台の上は寂しい状態になっている。


「あら、ここの店の白髪頭のおばあさんどうしたの?」


 声を掛けられ顔を上げれば、五十代位の上等な着物を着た女性が心配そうな表情を浮かべ佇んでいる。白髪頭のおばあさんとはハクゲイの事だろう。そう思い総一郎は今日は代わりに売りに来ていると説明をした。


「ああ、びっくりしたわ。いつもここの野菜やお米を楽しみにしていたんだけど、ほとんど売り切れね」

「時期外れの野菜が珍しかったようで」

「そう、残念ね。そのお米だけもらおうかしら」

「ありがとうございます」


 接客はほとんど総一郎がしていた。ラムウルは隣でおつりを出したり、細かな商品を紙袋に詰めたりと裏方に徹していた。


「手ぬぐいも取り扱っているのね」


 置く商品が無いのでハクゲイの手ぬぐいを真ん中に置いてみた所、皆興味は持つがやはり紫や橙色という派手な色合いからか手に取る者は居ない。


「ええ、よく汗も吸い取りますよ」


 残念ながらどのような材料を使って作っているかを知らなかったので、自分が使った時の使用感しか伝えることができなかった。


「本当?あら、手触りはいいわね。でも少し派手かしら…」


 皆思う事は同じで派手さが隘路となっているようだ。どうにかして一枚だけでも売りたい。職業病だろうか、総一郎は以前は営業の仕事をしていた。

 何か打つ手は無いものかとラムウルを見れば、興味が無さそうに帳簿をつけている。その横顔を見て何かを思いついた。


「膝にごみが付いていますよ」

「あら、本当」


 客が下を向きごみを取っている隙にラムウルの笠を取り、驚いた表情をみせる彼女の頭にハクゲイの手ぬぐいを被せ後頭部の辺りで取れないようにきつく結んだ。

 客が頭を上げた時には手ぬぐいを被ったラムウルの姿があり、角も隠れ目の前の客も鬼だと気づいていない。


「な!」

「頭に被るとこのようになります、いかがでしょうか?」

「…悪くないわね」

「お客様にはこの紫が似合うかと思います。被ってみますか?」

「いいの?」

「もちろんです」


 結果、先程の客は一枚購入し、ラムウルが被っていた効果かその後も四枚ほど売れた。

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