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大人の常識、大人の純情  作者: 篠宮 英
しーくれっとⅠ:婚約編
8/22

Secret.8

 ヒトを外見で判断すると、痛い目を喰らうのだと、滔々と諭されていたのはいつの頃だっただろう。



 ヒトは学ぶ生き物であると同時に、学んだ傍から忘却すると言った過ちを犯す下等な生き物であると言う事を、私は今身を持って体感している。


 しかし誰が予測できたというのだろう。

 まさかあの人が、誰もが焦れ尊敬するあの人が(但し、一部の社員と私は除く)指導の鬼だなんて。

 予測出来ていたのなら、彼に新人の教育を全て丸投げするという暴挙は犯さなかったのに。と、今更ながらに自分が犯してしまった失態を悔やんでみても、何も始まらない。故に。


 私は知らない。

 私は何も見ていない。

 私は他人・・・。


 ちょっとした現実逃避をする事で、心の中に生まれた後ろめたさを誤魔化し、私から全てを託された事で、穏やかで優しさしか纏っていなかった雰囲気ががらりと変わった神崎課長の注意を自分に向けない様にする事に専念する。


 そんな中、課長は新人たちを前にあいさつの姿勢から、言葉遣い、それに語学力を一人一人確かめると宣言し、実際に一人一人の実力を確かめている。


「なんですか、その不真面目な態度は。それに言葉遣いは常に気を付けて下さい。――ドイツ語も話せないとは何を考えているんですかね、アナタ方は」


 主に食器やカトラリー、キッチン用品等の商品の開発や販売・買い付けを手掛けている【MIKAGURA】は、外国語を三つ操る事が必要最低限の条件とされていて、中でもドイツ語が堪能であることが秘書課や総務部の暗黙の了解でもある。でも、それを予め教えてあげるほど世の中は優しくは無い。


 ご愁傷様。

 恨むのなら自分達の運の無さと態度を恨むのね。


 私は幾つか向けられている非難の視線を無視し、お祖父ちゃんから【魔女の微笑み】と称されている笑みを浮かべ、高みの見物と決め込み、課長の鬼の様な扱きに耐えきれなくなり、逆切れしたり、泣きだす人達を冷ややかな眼差しで以てして無意識下の内に怯ませた。


 微笑んでいるだけなのにヒトを怯ませてしまう。

 それは幼い頃からお祖父ちゃんに教え込まれ、躾けられてきた帝王学で、いずれは天王寺一族の未来を背負って立つ私。

 今はしがない会社員だけれど、年内にはここを退社して、お祖父ちゃんの会社に入社する事になっている。そこでも私は難しい立場に立たせられるのだろうけれど。でも、今だけは。


 すぅーっと、息を深く吸い、不平不満を垂れ流しにしている新人達を睨み、言葉を叩きつける。


「あなた達は自分達で今の状況を招いてしまったのよ。不満があるのなら、しっかり会社の規則、社会人としての常識を身につけてから反論なさい」


 嘗ては私も言われた言葉を、彼達に告げる。

 それが今の私に出来得る最高の贈り物で、激励。

 その贈り物を受け取るか否かは本人達任せだけれど、多分、彼だけには伝わっていると思う。


「あなた達は選ばれたんだと言う事を自覚なさい。」


 その言葉を言い終えた途端、私は激しい痛みに襲われていた。

 


 



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