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大人の常識、大人の純情  作者: 篠宮 英
しーくれっとⅠ:婚約編
7/22

Secret.7

「ヤル気がないんだったら帰りなさい。会社は遊ぶところじゃないのよ。」


 今日も朝早くから第二会議室内から漏れ聞こえる叱責の声。その声の主は勿論私しかいない。

 何故かと言えば、同じ指導員でも神埼課長は諭すタイプで、私みたいに声を荒げる様な非効率な叱り方はしない。そのせいなのか、それとも本人のやる気の問題なのか(私的には本人だと思いたい。)、今年度の新人はやけに甘ったれ小僧共が多い。


 他の部署はそんなことはないのに、どうして総務ウチだけ・・・。


 そんな僻みが私の中にドロドロと渦巻いているのを理解してくれる人は誰もいない。

 愚痴を吐きたくても、社内には特に親しい人もいないし、いても弱音なんか吐けない。

 だって考えてもみてよ。見るからにプライドの高そうな私がよ?人目も憚らずにグチグチ言葉を漏らしていたら、私を良く思ってない人達は私がその人達の文句を言っているようにしか取らないじゃない?

 まぁ、一歩譲って文句だったとしても、私は誰かに共感して欲しいだけなのに、周りの人達はその話を広め、私がその子たちを虐めている方向へ持って行きたがるのよね・・・。


 はぁ~。これで今日何度めの溜め息かしら?

 これ以上溜め息が続くようなら、流石に私でも鬱病に掛っちゃうわ。

 誰か私を癒すか、指導員代わってくれないかしらね?


 やれやれと溜め息を吐き、先日出した課題の提出を求めれば、(課題の内容は、大人であり社会人としてなら常識で、答えられるのが当然な言葉遣いと、一般常識の内容をまとめたもの。)還ってくる答えは。


「忘れてきました。」


「忙しかったので、今からやります」


「あんなの習ってません。」


 ・・・なんですって?


 「忘れてきました」はとりあえず横に置いておくとして、「忙しかったので、今からやります」?「あんなの習ってません」?


 なんなの?あんた達、何考えてるのよ!!


 ――ブチっ・・・


 その時、私の小さい堪忍袋と緒が、頭の中で弾け飛ぶ音が木霊した。

 

 もう嫌。

 もう限界。

 もうやってられない。


 私はこんな幼稚園児並みの奴らの為に眠いのを我慢して、指導要項とか作ってたわけ?こんなヤル気のない奴らを雇った人間の気がしれないわね。


「・・・天王寺さん?」


「っふふふふ、」


 突然笑い出した私を訝しげに見つめる神崎課長。

 そんな彼に、私は指導員の役目を丸投げする事にした。

 人望があり、人から頼りにされている彼なら8人くらい御する事は朝食前よね?


「神埼課長」


 彼女達だって、私より神埼課長に優しく指導して欲しいみたいだし。

 だから、お望み通りにしてア・ゲ・ル。


「私、いささか疲れてしまったようです。つきましては、彼らの教育を一任したいのですが。あ、勿論、多少は手伝おうとは思ってはいますが、神埼課長が指導して下さるのなら、彼らとて今以上に頑張ってくれるでしょう。」


「天王寺さん・・・?本気ですか?」


「ええ。本気ですし、正気ですわ。」


 何度も言わせないでよ。私はこれから高見の見物を決め込むんだから。

 先に私を拒絶したのは彼女達よ!!

 これで何かとやかく言われでもしたら、こんな会社辞めてやる!!


「私にニ言はありません。お好きなように指導なさってください。」


 にっこり微笑んだ私は知らなかった。

 彼、神埼課長の真の人となりを。

 だから私はこの時は呑気に笑っていられた。

 

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