Secret.6
神様仏様、聖母マリア様。
私は貴女様達に何か不快な想いを与え、愚かしい真似でも犯してしまったのでしょうか?
春。
それは今年の私にとって、幾ら要略してもしきれない位、とても一言では言い表す事の出来ないくらい大変で、寝る間もない位忙しい季節と言える。(冗談抜きで)
何故かって?
それはね、期待と理想と夢を胸に抱き、何万倍もの倍率の就職試験を乗り越えてきた末に、まだ本当の社会の厳しさを知らない新入社員達が入社してくるから。
そんな彼らを会社の各部署でなんとか使える様にまで、養成、および育成するのは、各部署・勤続5年以上の社員と社内規則により定められていて、その魔の教育係りに今年選ばれたのが、他でもないこの私だからよ。
それだけなら別に私だって、何も言わないし不満なんて言わないわ。
でもね?幾らなんでも流石にこれは無いと思うのよね・・・。
ざわざわ・がやがやと煩い第二会議室。
今ここの第二会議室にいる新入社員の人数は女性が5名に、男性が3名の計8名。
この8名が全て総務部秘書課に所属希望。
でもね?ここで忘れて貰っちゃ困るのが秘書課が総務部に所属してるって言う事実よ。
私、その事実に気付かされた時、思わず自分の運のなさに叫んじゃったわ。
「大丈夫ですか?天王寺さん。だいぶお疲れの様ですが」
「ありがとうございます。なんとか辛うじて大丈夫ですわ。」
私の不運。
それは総務の教育責任者が、神崎課長、その人だったと言う事。
そのあり得ない人選を聞いた時は、私はこれからの事を全く考えもせずに、私情に駆られそのままの勢いで、人事課に電話してしまったわ。
その時、電話が出たのが・・・。
「あの時の天王寺さん、本当に疲れてたんですね。電話に出たのが僕だってことも気付かない位に」
「か、神崎さん、今はそんな事を話している場合では、」
「だって彼ら、全くやる気なんて見えないじゃないですか。そんな彼らに時間を割くほど、僕は優しくもなければ良い人でもないんですよ?」
知ってましたか?と、私の右耳にふっ、と、吐息と共に意味深な言葉を吹き込んできた不埒、いえ、モテ男との称号を欲しいままにしている麗人に、私はとびっきりの引き攣った笑みをお返ししてあげた。
ここで肯定や否定する程、私はモノ知らずじゃない。
この人は人を笑顔でおちょくりながら、その人の人間性を確かめている。
そうとも知らず、私達を見て騒いでいる新入社員は、間違いなく彼の中で不合格の印を押された事だろう。
あぁ、怖い、怖い。
そうだったら、本当に怖い上に、私の考えている以上に課長は策士なのかもしれない。
こんなんで、私は本当に無事にこの研修期間を終えられるのかしら?