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大人の常識、大人の純情  作者: 篠宮 英
しーくれっとⅠ:婚約編
4/22

Secret.4

 あぁ、平凡って、平穏って、なんて尊いのかしら。

 

 こそこそと人から隠れる様に行動している私は、恐らく大多数の人から見れば挙動不審に見える事だろう。でも私からしてみれば、しょうがないし、仕方のない事なの。


 理由は言わなくても当然の如く例のあの恋人達。

 偶然とはいえ、二人の関係を垣間見、理解してしまった私は非常に二人に顔を合わせづらいと言うモノ。なら、私がとる手段はただ一つ。


 コソコソ・きょろきょろと、まるでど素人のコソ泥か、ド下手な忍者の様な足取りで気をつけながら行動しつつ、秘書室へと通じるエレベーターに乗り込めば。


「おはようございます、天王寺さん」


 ビクゥーッ!!


 肩を叩かれ、声を掛けられた私はその場ですぐさま謝った。


「ご、ごめんなさい、見るつもりはなかったの。も、もちろん、誰にも言わないから許して下さい、後生ですから、」


「・・・、天王寺さん?どうしたんですか?誰かに脅されてるんですか?」


「いいえ、私は何も見てません。見てないったら見てない!!」


 そう。

 まさかあの人とあの人が〇×△☐◇だったなんて、言えるワケないじゃない。

 例え口が裂けても言えるワケがないわ。


 ビクビク、キョドキョド。

 オロオロ。


 私がそうして一人で勝手に怯えていると、やがて本当に私が恐れていた人達がやってきた。


 ・・・、じゃあ、今さっきの人は・・・?



 後悔と僅かばかりの羞恥を覚え、顔をそろそろと上げて行けば、そこには見慣れた年若い警備員さんの顔が・・・。


 は、恥ずかしい。

 恥ずかし過ぎる。


 勝手に勘違いなんかしちゃって、その上、変なことを口走ってしまった。

 こうなったら早くこの場から去るのみ、去るのみ!!


「仕事がありますので、し、失礼しますっっ!!」


 脱兎の如くとはまさしくこの事だと、後日私は聞かされる羽目になる。

 あの人のしつこいほど、それでいて、熱くも逞しい腕と胸の中で。でも、その時の私はへとへとで、夢と現実の狭間で戦っていると言う事は、この時の私には想像だに出来なかった。


 だから。


 しゃがんでいた体勢から直に立ち上がり、エレベーターを使うのを諦め、汗臭くなる事を覚悟に、階段の方へと、私は爆走し、駆け上がった。


 けれど、それが逆に良かったのかもしれない。

 何故なら、私が逃げ出す要因にもなった二人は、私の態度を変に思う事もなく、変な空気が流れていたのだから。


 嫉妬と言う名の、あまりにもその時の私には、経験がなく、またハードルが高過ぎる、恋の空というものが・・・。



 その原因が私にもあるだなんて、一体誰が想像しただろうか。

 時に運命や恋と言ったモノは、神さえ知らぬ所で刻み、進んでいく。




 それを私が悟ったのは、だいぶ後の事だった。


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