Secret.4
あぁ、平凡って、平穏って、なんて尊いのかしら。
こそこそと人から隠れる様に行動している私は、恐らく大多数の人から見れば挙動不審に見える事だろう。でも私からしてみれば、しょうがないし、仕方のない事なの。
理由は言わなくても当然の如く例のあの恋人達。
偶然とはいえ、二人の関係を垣間見、理解してしまった私は非常に二人に顔を合わせづらいと言うモノ。なら、私がとる手段はただ一つ。
コソコソ・きょろきょろと、まるでど素人のコソ泥か、ド下手な忍者の様な足取りで気をつけながら行動しつつ、秘書室へと通じるエレベーターに乗り込めば。
「おはようございます、天王寺さん」
ビクゥーッ!!
肩を叩かれ、声を掛けられた私はその場ですぐさま謝った。
「ご、ごめんなさい、見るつもりはなかったの。も、もちろん、誰にも言わないから許して下さい、後生ですから、」
「・・・、天王寺さん?どうしたんですか?誰かに脅されてるんですか?」
「いいえ、私は何も見てません。見てないったら見てない!!」
そう。
まさかあの人とあの人が〇×△☐◇だったなんて、言えるワケないじゃない。
例え口が裂けても言えるワケがないわ。
ビクビク、キョドキョド。
オロオロ。
私がそうして一人で勝手に怯えていると、やがて本当に私が恐れていた人達がやってきた。
・・・、じゃあ、今さっきの人は・・・?
後悔と僅かばかりの羞恥を覚え、顔をそろそろと上げて行けば、そこには見慣れた年若い警備員さんの顔が・・・。
は、恥ずかしい。
恥ずかし過ぎる。
勝手に勘違いなんかしちゃって、その上、変なことを口走ってしまった。
こうなったら早くこの場から去るのみ、去るのみ!!
「仕事がありますので、し、失礼しますっっ!!」
脱兎の如くとはまさしくこの事だと、後日私は聞かされる羽目になる。
あの人のしつこいほど、それでいて、熱くも逞しい腕と胸の中で。でも、その時の私はへとへとで、夢と現実の狭間で戦っていると言う事は、この時の私には想像だに出来なかった。
だから。
しゃがんでいた体勢から直に立ち上がり、エレベーターを使うのを諦め、汗臭くなる事を覚悟に、階段の方へと、私は爆走し、駆け上がった。
けれど、それが逆に良かったのかもしれない。
何故なら、私が逃げ出す要因にもなった二人は、私の態度を変に思う事もなく、変な空気が流れていたのだから。
嫉妬と言う名の、あまりにもその時の私には、経験がなく、またハードルが高過ぎる、恋の空というものが・・・。
その原因が私にもあるだなんて、一体誰が想像しただろうか。
時に運命や恋と言ったモノは、神さえ知らぬ所で刻み、進んでいく。
それを私が悟ったのは、だいぶ後の事だった。